電池の切れた人形
ある日、病に侵され余命いくばくもない老人の元へ涙目の少年がやってきた。
「ねぇ、お爺ちゃん。おもちゃが動かなくなっちゃったんだ。僕があまりにも乱暴に扱うもんだから壊れちゃったのかな?」
「どれどれ」
「どう直る?」
暫くおもちゃを見ていた老人は、思わず笑いながら言った。
「単なる電池切れさ」
「え~何だ良かった。」
「何でだい?」
「だって電池を入れ換えればまた動くって分かったから。じゃぁおじいちゃんが動かなくなったら、電池を入れ換えればいいんだね。新しく入れ換えればまた前みたいに走り回れるよ。」
「はっはっは、入れ換えるか……」
少年はまだ人の死と言うものを理解してはいなかった。そんな無邪気な笑みを浮かべる少年を見て、老人は少年の将来が不安になってきた。
「それじゃあひとつ話をしようか」
老人は少年に聞いた。
「仮に電池を入れ換えてもまた動かない人形がいたとしよう。人形が動けるのは作られた時に入れられた電池の量だけ替える事は出来ない。」
「そんな人形があるの」
「人形達の電池の量は皆違う。長く動ける者もいれば、直ぐに電池切れになって動けなくなるものもいる。」
パチパチと暖炉にくべた火のこがかすかに燃えている。
「坊やだったらどっちが良い?」
老人は少年の顔を覗き込むように見つめた。
「う―んとね。僕はね長く、長―く動く方が良いな!だっていっぱい遊びたいもの。」
「そうかい。だけど人形には電池の残量が分からないのだよ。何時止まるかもしれない不安に怯えながら毎日を懸命に生きている。」
「そんなのつまらないよ。いつ止まるかもわからないなんて。」
「だから坊や。もし私が動かなくなったとしても電池を入れ換えようとしてはいけないよ。人にはそれぞれ寿命があるのだから。」
「わかったよ。」
老人の心配をよそに少年は無邪気に笑う。
少年がこの後どんな人生を過ごしたかは、また別の話で。
お読みいただきありがとうございました。この作品では、電池=寿命という例えが使われています。