特務小隊 ①
メアリーの採用に当たっては、特段問題は生じなかった。
戸籍や生活歴などの作成、改ざんは我が隊が得意とすることだからだ。表向きは公国系帝国人ということになっている。
彼女を秘書官として採用した後は中央軍病院で検査を受けてもらった。
身長や体重の他に感染症や傷の検査など様々だ。
俺が心配していた通り栄養失調が酷かったが、特に重い持病などはなかった。
しかし、ここで俺は衝撃的な事実を知る。
「16歳!? あの華奢な身体でですか!?」
それは、彼女の年齢を知った時だった。
「ああ、彼女がそう言っていたよ。とてもそうは見えないけどね」
俺は驚愕して固まる。
メアリーは10才から12才くらいと思っていた。なのにどうだ、彼女はほとんど成人していると言うではないか。
「身長138センチ、体重25キロ。年齢が16歳だと考えると、痩せ過ぎを通り越して異常なレベルだよ。まあ、出自を聞いた時はそんな環境だと仕方ないって思ったがね」
俺は無知だった。
そんな世界があることを知らないまま、大人になっていた。
「あと、彼女の身体だけどね······惨たらしい虐待を受けていたようだ」
俺は顔を上げて医者を見る。
「全身に傷やアザがあるのはもちろんのことだが────」
医者は言うのも躊躇うほどに、一度口を閉じる。
そして
「彼女の子宮は······除去されている」
「············」
一際重い内容を述べた。
「初めからなのか後からなのか分からないが、この歳にして無いんだよ。捕虜や奴隷の扱われ方は私も知っているからね、彼女は兵士として戦わせるために除去させたか、あるいは······幼い頃から性的虐待を受けて破裂してしまったかだ」
「············」
俺は黙って聞くことしかできない。
メアリーが虐待を受けていたのは容易に予想ができていたが、それを凌ぐ内容であった。
俺が今感じているコレは、怒りなのか悲しみなのか分からない。あるいはその両方なのかも。
ただただ内容を脳へと送り込んでいた。
「君は、彼女をどうしたいかね?」
「······彼女には、人として当たり前の生活を送らせるつもりです」
「当たり前······か。矛盾していると思わんかね? 君は彼女を軍人として働かせるつもりなのだろ?」
「おっしゃる通りです。彼女のことを真に思うなら、戦場から遠ざけ、施設へ預けるなり故郷で保護するなりすればいいでしょう」
医者は綻びを正確に突いてくる。
だが、百も承知だ。
「ですが、彼女は戦場しか知りません。そして、公国人の見た目をした少女です。そんな彼女を今まで関わったことがないような系統の人間に委ね、手を離すのは無責任だと考えています。戦場しか知らないからこそ、我々特務小隊と共に歩み、彼女が人らしくあるための暮らしを少しずつ与えていくつもりです」
俺は詭弁とも取れる物言いをしたが、これは正真正銘、本心である。
少々説得力に欠けるだろうが、自分の考えは余すことなく伝えた。
それを受け取った医者は、
「君がそこまで言うなら、理解した。医者として、彼女の入隊を許可しよう」
軽くため息をつきながらも許可を下した。
「ありがとうございます」
俺は礼を言って頭を下げる。
「あと一つだけきいてもいいかな?」
部屋を去ろうとする俺を呼び止める。
「彼女のことは、いつまで面倒を見るつもりだい?」
医者が案じているのは、メアリーをどのくらいの期間側に居させるのかということだ。
何ヶ月か······何年か······その期間が不明確であるためきいたのだろう。
「彼女が望むなら────」
だから答える。
彼女を見つけた時から、決めていたことを。
「────最期の瞬間まで······ずっと」
それは、俺にとっての責務だと自覚していた。
「······分かった。ありがとう、答えてくれて」
俺は再度頭を下げる。
医者の元を去った俺の足は、メアリーのところへ向かっていった。
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