メアリー ⑥
「あ、大尉。その子、目が覚めたんですね」
外を歩いていると金髪の若い士官が話しかける。この時に初めて、白銀の男が大尉であることを知った。
「ああ、ライオネル少尉。彼女は重傷も特になく問題ない」
大尉は私の手を握ったまま歩き続ける。
「ところで······これからその子をどうするんですか?」
「考えてある」
「考えてあるって、え? どこに向かってるんですか?」
「ゲーレン少将閣下のところだ」
「えぇ⁈ 何をされに?!」
猪突猛進な大尉に、私だけでなく少尉も疑問を抱く。
大尉は真剣な眼差しを向けて答えた。
「所有権の移譲だ」
◇ ◇ ◇
目の前には堂々と椅子に腰掛ける中年の男。
私は会ったことがなかったが、この男が少将なのだろう。
「少将閣下に願い申し上げたいことがあり、訪問させていただきました」
「ほう、なんだ?」
何階級も上の少将に対し、大尉は少しも臆せずに口を開く。
「この娘を私にお譲りいただけないでしょうか?」
その申し出は、私の行く先を大きく変えるものだった。
「その娘は······」
「特攻作戦の生存者です」
「あーなるほど。生きてる奴がいるとはな。で? 何故その娘を欲しがる?」
「中央に持ち帰り、少将閣下の画期的な戦略について研究したいからです。最小のコストで最大の効果を発揮された戦略に、大変感銘を受けましたので」
大尉は顔色一つ変えずに話した。
さっきまで世の不条理を悲しんでいた者とは思えないほど自然に。
「なるほど······。だが、ソイツは生きていたならば次の作戦に参加させるべきだ。再び爆弾を身に付けさせ、装甲車を破壊させるのがいいだろう? そのための道具なのだからな」
「おっしゃる通りです。装甲車の破壊など、通常であれば兵士20人をもってして可能かどうか······。ですが、敵も馬鹿ではありません。次は戦場で子どもを見つけ次第、容赦なく撃ち殺すでしょう。なので、今回よりもさらに一歩先の戦術を私も学ばせていただきたいのです」
大尉は食い下がらなかった。
「これから先の戦いでは、まさに少将閣下のような戦術が活路を開いていくと確信しております。犠牲を最小限に抑える戦い方は、帝国が勝利したその後の発展も見据えた素晴らしい方法です。私も少将閣下の後を追わせていただけないでしょうか?」
敬意に満ち足りた主張を述べる。
それを受け取った少将は······
「くふふふふ! なかなか心に響くいいスピーチであったぞ」
大いに笑っていた。
「流石はアイゼンハワー大尉だ。士官学校を主席で卒業し、数々の成果を上げてきただけはある。若いながら野望に満ちたその目、気に入ったぞ? お前も出世したいのだろ?」
「ご慧眼、恐れ入ります。私は将来、国を背負って立つ将官を志しておりますので、絶大な武功をあげたいと考えております。ですので、本作戦の元となったこの少女をいただきたく存じます」
大尉は頭を下げる。
それを眺めること数秒。考えが決まった少将は口を開いた。
「いいだろう! くれてやる。ただし」
条件を付け足す。
「中央にはワシのことをしっかりと報告するように。この意味が分かっているな?」
「心得ております。少将を中将昇格へ勧められるよう報告させていただきます。ですが、なにぶん大尉の身でありますので、昇格をお約束できるかは────」
「構わん。他の少将どもより頭1つ抜けさえすればよい」
「了解しました」
大尉は頭を下げ、私もそれに倣う。
用事を終えた大尉と私は少将の部屋を出て行った。
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