メアリー ④
硝煙の香りに混ざって、鉄の匂いが鼻を刺す。
それは銃などの兵器から漂うのではなく、地面に描かれた紅色の体液から発せられるものだ。
こうして間近で見れば見るほどに気分が悪くなる。
小さな手、細い脚、肉塊と化した発達途上の身体。
どれもが現実とかけ離れているように思えてくる。
だが、これが現実なのだ。
俺はライオネルと共に死屍累々の中を歩く。俺個人の目的のために。
俺が少将に願い出たこと。それは、
「隊長······生きてる子、いますかね······」
「いなければそれでいい。俺個人が諦めきれないだけだ」
それは、生存者を見つけることだった。
「ライオネル、俺に付き合う必要はないんだぞ?」
「ぼくも諦めきれないんで、やらせてください」
「そうか······意味のないことだと分かっててもか?」
「はい」
ライオネルは迷わずに答える。
意味がないと彼も理解しているが、俺と行動を共にしてくれる。
「(たとえ見つかったとしても、その子は再び戦場へと駆り出されるだろう。その子からしたら2度も地獄を味わうことになる。俺のやってることはタチの悪い偽善なのかもしれない。だが······体が動かずにはいられないんだ!)」
俺たちは歩く。
むせ返る死臭に包まれながらも諦めず、一人一人確認していく。
············5人
············7人
············10人
本当は40人ほど居たはずだが、ほとんどの子どもたちが自爆によって体がバラバラになったせいで、上手く数えることができない。
周囲から見れば異常者に見えるかもしれないが、それでも数える。
見つからない。
誰もいない。
みんな死んでいる。
段々と心の柱にヒビが入ってくるが諦めない。
俺とライオネルは諦めない。
────と、その時だった。
「この子、息がっ!」
わずかだが、横たわった少女が動いたのだ。
俺はその子を抱き起す。
黒い長髪を持つ、華奢な少女だった。
鼓動を確認すると間違いなく呼吸している。また目立った外傷はないことから、他の子が爆発した衝撃で気絶したのだと予想できる。
俺は腕の中で懸命に生きる命に対して、表現しきれない喜びを感じる。
「生きていてありがとう──!」
と、声を絞り出した。
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