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戦場の花嫁  作者: あろえ
1/81

灰かぶりのオモチャ


────ギィ······ギィ······ギギィ······


 経年劣化の激しい木製ベッドの軋み音が響く。


 視線のすぐ先には壁。


 灰色の壁にはシミやヒビが目立ち、その数を把握している私は、答え合わせをするように無言で数える。


 うつ伏せとなった私に覆い被さった男の影が、前方の壁にかかっては引き、かかっては引き、と一定のリズムを刻む振り子のように動いている。


 荒い息を立てる彼とは違って私は何も感じず、虚空(こくう)の瞳で壁を見つめていた。




◇  ◇  ◇




「ふぅ······また使わせてもらうぜ」


 事を済ませた男は部屋を出ていく。


 一糸纏(いっしまと)わぬ姿の私は、未だに壁を見つめている。


 私はオモチャというものを与えられたことはないが、子どもが使ったあとに放置されたオモチャの状態というのは、今の私のようなものを指すのかもしれない。




 私は······兵士たちのオモチャだから。




◇  ◇  ◇





 大海原(おおうなばら)に浮かぶたった一つの島。


 そこに存在する『帝国』と『公国』という2つの国が数百年に渡って戦争を行ってきた。


 数年戦っては休戦を何度も繰り返し、今やっている戦争は18年続いている。


 帝国と公国────2国間の戦争が激しいこの時代に、私は帝国にて生を授かった。


 いや······授かったという表現は私にはおこがましいかもしれない。


 私の母親は生前、公国人であり帝国軍の奴隷だった。


 (なぐさ)みモノとして使われ、私を含めて何人も産み落とし、その後も使われ病を発症し、死亡したという。


 母が有していた公国人特有の黒い髪と小麦色の肌、それと誰とも分からない父の青い瞳を受け継いだ私は、母の姿を見たことがない。


 母の愛情を知らず、知っているのは痛みだけ······。


 私は生まれた時から『痛み』を教え込まれ、心を宿さないまま物心がついた。


 母と同じように使われ、使われ、使われ······この秋で16歳を迎えた。


 母と同じ運命を辿っていた私だが、母と違うところがある。


 それは······子どもを『授かれない』ということだ。


 それは何故か。


 私は先ほど、生まれた時から『痛み』を教え込まれたと述べた。


 痛みとは広い範囲にわたり、様々だ。


 例えば、『子宮が破裂した』······なども含まれる。


 例え話は実例として存在し、当事者の私は母とは少し違う道を辿っていくことになった。


 違う道······それは────






「貴様ら! よく聴け!! 次の作戦において、貴様らを特攻隊として使うことになった! 最前線で帝国のために命を捧げるのだ! これは大変幸運な事である!」






 それは、兵士として死ぬという事だった。


「各自、爆弾を背負い特攻してもらう! 銃を撃って敵を混乱させ、その隙に敵集団の中へ飛び込め! そうすれば、奴らは爆発四散(ばくはつしさん)するだろう!!」


 上官の男は私たちに向けて叫ぶ。


 皆私と同じくらいの歳で、男女が20人ずつほどの小集団だ。


 自分たちが自爆兵として使われると聞き、震える者もいるが、私のように何も感じない者は多い。


 オモチャが使い潰される。ただそれだけだった。


「決行は明日の軍事時間一四◯◯(ひとよんまるまる)だ!! 各々準備をするように!!」


 上官からの指令が終わり、解散となる。


 これまで数々の戦場へと送り出され、そのたびに帰還を果たしてきたが、今度こそ終わりのようだ。


 しかし、明日自分の命が終わりを迎えると分かっても悲しみや恐怖は生まれず、日頃より教わった銃の点検をしようという考えのみが私を動かした。



 今夜が最後だからだろうか······


 

 その日、私の部屋を訪れる男の数は多かった······










 

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