第7章
現世での私生活は、彼女と所帯を持つなど、順調に進んでいて、もう転生など必要に感じられなくなった。だって転生は、今の生活に物足りないから考えるわけだから。
でも、ファミレスの仕事を続けながら、時々はバブルの頃の証券マンに転生し、数千万円の利益を得て現世に戻る。まあ、出稼ぎ感覚である。
結婚生活も順調に進み、子どもも身籠った。
そのとき、今まで過去のみに転生していたが、未来でもできるのかと思い始めた。これから生まれてくる我が子がどんな時代を生きていくのか、さすがに親として気になった。それで僕は、妻がソファでうつらうつらしている横で、将来の総理大臣をイメージして呪文を唱えた。
「今年度の予算は二百三十兆円、国防費に三十兆円を当てます」
僕は国会で施政方針演説をしていた。
「軍事国家に戻るのか!」とかのヤジが入る。
「現在の世界情勢を考えるなら、米国に頼ることなく、自衛の装備の充実が必要であるとの認識です」
まあ、厄介な国際情勢が更に進んでいるようである。
人工減少は続いているが、何とか経済規模は拡大しているみたいだ。だから予算規模も拡大が可能で、でも国債費は増大している。プライマリーバランスなんて、まだ達成できていない。
僕は連立を組んでいる党の党首と意見を交わし、何とか今年度の予算案を国会に提出した。
僕は首相公邸に戻って、お抱え料理人が作った美味しい和食と日本酒を飲みながら、明日の代表質問の資料に目を通す。
質問内容はどれも想定内で、一応官僚が作成した答弁に目を通して、何か所かに修正を加えるが、これでまあ、なんとか明日の国会は乗り切れるだろう。
翌日余裕をもって臨んだ衆議院の予算委員会だったが、野党の議員が通告していなかった質問を投げかけた。
「総理のご子息に関してですが、薬物がらみの疑惑が浮上しています。総理ご自身が検察に圧力をかけているという話も聞いています。真相はどうなんですか?」
確かに息子が大麻に手を出して、やっかいなことになっていたのは事実だ。しかしまあ何とかやり過ごせるのではないかと手を回したのも事実だ。しかし一部のマスコミが嗅ぎつけて、ちょっとヤバイことになってきた。
「そんな事実は一切ございません」
僕はそう言い切ってから、すぐに呪文を唱えて現世に戻った。
隣で寝ている妻の大きくなったお腹をさすりながら、この子が変な薬物に手を出さないようにしなければと思った。