第6章
ハローワークで都内の旅行代理店を紹介され、僕は面接に行った。
「前の仕事は何で辞めたの?」
「ええ、もっと視野を広げたく思ったので」
「じゃあ退職後、どんなことをしていたの?」
面接官は懐疑的であった。
「ええ、フランスとかに行ったりしました」
「フランス? そこで何か収穫はあった?
面接官は益々意地悪に聞いて来る。
「はい、マルセーユで美味しい料理を食べたり、パリでは結構活動出来ました」
「どんなことを?」
まさか革命軍を指揮していたとは言えず、「市民活動をしていました」と答えるしかなかった。
「ほう、市民活動ね」
どんな市民活動かを聞かれることもなく、僕はその場でアウトとなった。確かに危うい人物と思われたに違いない。
次に外食産業の面接に出かけた。
「好きな食べ物は何ですか?」
「はい、東北のかきとかほやは、大変美味しかったです。それと壇ノ浦で食べたフグも」
僕は弁慶と一緒に食べていたときのことを懐かしく思い出しながら答えた。
「壇ノ浦?」
「ええ、山口県です。それに琉球で飲んだお酒も美味しかったな」
「琉球?」
「まあ、沖縄県ですが」
一応僕は採用され、ファミリーレストランの客対応の仕事に配属された。
ここのチェーンは、オーダーを直接客に伺うスタイルのお店で、お客さんとのやりとりがあるので、楽しかった。
「このパフェとケーキのセット、どっちがカロリー高いの?」
若い女の子のグループの一人が尋ねる。一応メニューにカロリー表示がしているので、それを指ししめながら答える。
「まあ、どちらもいっしょくらいですね。でもお客さんなら、それほど気になさらなくても良いんじゃないですか」
女の子は笑ってパフェを追加で注文してくれた。
初めの三か月間は試用期間ということだったが、お客さんの評判が良いみたいだったので、翌月からは正規として採用された。
まあ現世でもそこそこやっていけるのだろう。
転生している間、現生ではほんのわずかな時間でしかないから、もっと気楽に転生しても良いのかとは思っている。でも現世での生活が軌道に乗り始めると、別に転生する必要もないと思い始めた。
そのうちに、ファミレスでアルバイトしている女の子と仲良くなり、女子大生だが、彼女の就職も決まり、本格的にお付き合いすることになった。
「今までお付き合いした女性はいるの?」
彼女がベッドの中から問いかける。
「まあ、いないというわけではないけれども、マリー・アントワネットか建礼門院くらいかな」
彼女は?の表情を見せる。
「もう、冗談ばっかり」
彼女は僕に抱き着いてきて、僕も彼女を優しく包み込む。
僕は転生する必要がなくなったのだと感じていた。