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第10章

 前に存命中の人物にも転生できることが分かっていたので、現生の中で別人物になることを考えた。


 大学入試の内容を盗み見ようとするなんて姑息なことは止めにして、もっと世界に貢献できるようなことを志した。そして妻と子供を寝かせつけてからリビングでウォッカをストレートで飲みながら、呪文を唱えた。


「戦況はどうなっている?」


「まあ膠着状況とは言えます。しかし時間が立てば、向こうは疲弊して白旗を上げて来るでしょう。選挙までには目に見える戦果を上げられると思います」


 総司令官が楽観的見通しを言う。


「まあそれにアメリカも尻込みしているからな」


 僕はここでもウォッカを飲みながら部下と話していた。


 でも、そもそも何でこんな「特別軍事行動」を起こしてしまったんだろうかと、僕は自問した。


 確かにネオナチなどのテロ行為がけしからんというはずだった。一週間で現政権を首都から追い出して、戦争は終わるはずだった。それがNATOとかが介入してくるから、こんなにも長引いてしまっている。けしからん奴たちだ。


 僕はウォッカを飲み干して、グラスに再びなみなみと注ぐ。


 少し酔いが回ってきた頭の中で、「あれ、おかしいな」という気がしてきた。


 長いこの国の歴史と繁栄を顧みて、現状を良い方向に変えるつもりでこの「特別軍事作戦」を命令したはずだったが、そうではないような気がしてきた。そして僕が何故ここにいるんだろう、という気持ちが突然沸き起こってくる。そして僕の使命こそは、この戦争を早く終わらせることではなかったのではないかということを思い出した。


「停戦交渉はどうなっているんだ?」


 僕は総司令官に問いただす。


「相手国の大統領が全く妥協しません」


「あいつの弱みとかは見つけられないのか? 保安庁の奴らは何をやっているんだ」


 僕は怒りを彼にぶつけた。


「はあ、なかなか難しいようで」


 僕は2杯目のウォッカを飲み干してから総司令官に意見を尋ねる。


「どこまで撤退したら相手は受け入れるだろうか?」


「撤退?」


 総司令官は青ざめる。


「まあ南部の2州は諦めるか。半島は現状維持ということで」


 総司令官は立ち上がって敬礼をする。


「私もそのように考えていました。早速そのように動きます」


 総司令官は急いで執務室から退出した。しかし相手側がこれで吞んでくれるとは思えない。もっと何かインパクトを与えないとこの戦争は終わらない。


「そうか」


 僕は妙案を思いついた。


「そもそも僕が辞めたらば良いんだ」


 僕は酔った勢いで、事務官にアメリカとのホットラインを繋げさせた。


「やあお久しぶり」


「お互い選挙だから大変だね。でも君のところは圧勝だろうが」


「まあ私にとっては、相手候補が勝ってくれれば良いんだけれども、ははは」


 二人は雰囲気の良い中で談笑する。


「ところで、僕今度の選挙に出ないよ」


「えっ、どうして? 僕はこんな歳でもまだ続けようと思っているのに、君なんかまだまだ若いのに」

 ホットラインの相手はびっくりしている。


「特別軍事作戦、君たちのせいでなかなか上手くいっていないのでね」


「まあ、こっちとしてもちゃんと対応しなければならなかったからね」


「まあそれは分かっている。でもこっちの事情も理解してもらいたい」


「友人としては理解しているつもりだ」


 大国の首脳同士がこんなにフレンドリーだったというのは初めて知った。


「それでどうするつもりなの?」


「ええ、2年前の現状に戻すというのは難しいけれども、南部2州は放棄して、半島は現状維持ということで何とか折り合いを付けたい」


「ああ、そういう方向でまとめてみよう。うちもこれ以上軍事費をつぎ込むことは無理があるからね」


「ではお願いします」


 僕はホットラインを切って、再び執務室に戻って3杯目のウォッカをゆっくりと飲む。


しかしその直後、総司令官の話を聞きつけた軍の将兵が執務室に乱入してきた。


「俺らはこの国のために、多くの軍人の命をかけて頑張ってきたつもりです、南部2州から撤退するなんてもってのほかです。再考してください」


 将校が銃をちらせながら僕に迫る。


「まあ君たちの考えも分からないではないが、これ以上の犠牲はやっぱり嫌だよね」


 僕は将校たちをなだめる。はっきり言ってこの状況はクーデターとも言える。


「相手国の完全掌握だけが、僕たちの目標です」


 兵士の一人が僕に銃を向けた。


「やばい!」


 僕は急いで呪文を唱え、現生に戻る。横では妻と子供がスヤスヤと寝息を立てていた。


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