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第06話、友人

「人としての成長とは知ること自らを疑問に思うこと、そしてよく考えることにある」~孔子


ポートマルテの空は、ゆっくりと暗く染まっていく。

聖クリスの日、この王国にとって最も特別な日の日没が迫っていた。


フィオスは、その朝早くから、身を清めるための特別な湯に浸かっていた。

これは代々伝わる儀式のための伝統的な習慣であり、身体だけでなく心も浄化するものと信じられていた。

彼の家族アレーセイアとフロネーシスも、彼をサポートし、そばで見守っている。


日没を知らせる鐘の音が街中にひびく。

一人で体をふいて、この日のために両親が用意してくれた伝統衣装ガラベーヤに身を包んだフィオス。

彼のガラベーヤは、白地ベースに、濃紺の刺繍が施されているものだった。

フィオスは一瞬、その衣装をまとって立ち映る自分の姿を鏡で確認し、父母に深く感謝の気持ちを抱きながら、一階へ下っていく。


フィオスは家を出ると、馴染み深い「知識の泉」の看板をひと目振り返った。普段は静かなポートマルテの町が、今日ばかりは華やかに飾られていることを感じた。


人の流れにそって中央公園まで来た。普段から市民の憩いの場であるこの公園も、特別な日を迎えるにふさわしく、多くの花やリボンで飾りつけられていた。


中央公園の一角、花々が咲き乱れる場所でフィオスはリーナ・ヴァロスに出会った。

彼女は、公園内の装飾を手伝っているようだった。一つの大きな花冠を手に持ち、彼女はどこに飾ろうかと考えているようだった。


「リーナ!」フィオスは彼女を呼びかけると、彼女は振り返り、にっこりと笑った。


「あ、フィオス!こんなところで会うなんて。手伝ってくれる?」リーナは彼に花冠を見せながら尋ねた。


「手伝っても良いけど、今日は特別な日だろ?」フィオスは微笑みながら答えた。


「君はどんなギフトをもらいたい?」

リーナは思いっきり目を輝かせて言った。

「"鋼の調和" だよ。父の鍛冶屋を手伝いたいんだ」


「それはいいね」フィオスは頷き、彼女の夢や期待に共感した。

「でも、今日は儀式だけじゃなく、この街全体がお祭りのようだね」


「そうだね。だからこそ、私も公園をきれいに飾りたいと思って」リーナは花冠を高く掲げて、石のベンチに取り付けた。


二人はしばらくその場で談笑し、それぞれの期待や不安を共有した。

リーナは短気な面もあるが、彼女の優しさや情熱はフィオスにとって心強い存在だった。


「じゃあ、儀式の場所で会おう」とリーナは言って、別の場所の装飾に取りかかるために去っていった。

フィオスは彼女の背中を見送りながら、再び教会に向かう足取りを進めた。


中央公園を抜け、続く道でフィオスはトリスタン・セリオの実家である楽器屋の前に立ち寄った。祭りの特別企画として、トリスタンが店の前でハープを手に演奏を披露していた。その美しい音色に、通りかかる人々は足を止め、トリスタンの演奏に魅了されていた。彼の才能に称賛の声や拍手が飛び交っていた。


「トリスタン!」


フィオスは彼の名前を呼ぶと、トリスタンは一曲終えたところで、フィオスに向かってにっこりと笑った。

「フィオス!ちょうど演奏が終わったところだよ」


トリスタンはハープを背負うと、フィオスの隣に立った。

「一緒に教会に向かわないか?」


リーナも、そしてトリスタンも、儀式前の直前まで彼らの家業の手伝いをしている。

そんな二人の姿を見て、自分は何をしていたのだろうと少し自分を省みる気持ちになった。


「ありがとう少し心細かったんだ」

フィオスは彼の提案に感謝の気持ちを込めて答えた。

「君の演奏、素晴らしかったよ」


トリスタンは少し照れくさい笑顔を見せた。

「ありがとう。父のようになるために、まだまだ練習が必要なんだけどね」


二人はそのまま並んで歩き始めた。トリスタンの冷静さや観察眼は、フィオスにとっていつも新しい視点や考え方を教えてくれる存在だった。


「さて、儀式にはどんなギフトをもらえるかな?」とトリスタンが言いながら、二人は教会に向かった。


さらにその先には古ディア語で「知恵の守護者」と刻まれた古代の門が聳え立っている。フィオスはその門を何度となくくぐってきたが、今日は特別な意味を持つ門として、その存在感に改めて圧倒された。


門をくぐると、広大な大理石の広場が目の前に広がる。広場の中央には、壮麗な「知恵の守護者」教会が静かに佇んでいる。その尖塔は空に向かって伸びており、尖塔の先には光が灯され、その光が聖なる夜を迎える準備をしているかのように輝いていた。


道中、フィオスはポートマルテの15才の子たちと何度もすれ違う。知っている顔、知らない顔、それぞれの顔には期待と緊張が混じった表情が浮かんでいた。

フィオスも、その中の一人として、この特別な日を迎えることの意義を改めて感じる。


広場でしゃがみ込む人影がみえた。

「エリーゼ・ダニアだ」トリスタンがいった。


エリーゼ・ダニアは、道の隙間に生えている小さな草に夢中で観察していた。


「エリーゼ?」とフィオスが声をかけると、彼女は驚いたように振り返ったが、すぐに顔が明るくなった。


「フィオス!この草、見て!普通のチドメグサとは少し違うの!」彼女は興奮気味に話し始めた。

言葉の端々にその知識の深さが感じられた。

「この葉脈の形、通常のチドメグサとは異なるの。古来から血止めの効果があると言われる薬草だけど、この変異体はもしかして更に効果が高いかもしれないの!」


フィオスはそのスピード感に少し圧倒されつつも、彼女の専門知識とその熱意に感心した。

「いつもすごいね、エリーゼ。でも、今は儀式の時間が迫ってるよ」


エリーゼは「あっ」と声を上げ、周りを見渡すと、多くの参加者たちが教会に向かっているのに気づいた。

「早めにつく、予定だったのに、観察をしていたら、こんな時間に・・わたしったら、おっちょこちょい」


ぽこっと自分の頭をたたくエリーゼ。


そんな姿をみて、フィオスは微笑んで言った。

「君のその好奇心と熱意、僕は尊敬してるよ。だから、おっちょこちょいなところも含めて、君らしさだと思う」


エリーゼは少し赤くなりながらも、「ありがとう、フィオス。でも、今日は大事な日だから、もう散漫なことはしないように気をつける!」と言って、再び元気な笑顔を見せた。


フィオスはエリーゼの姿を見て、自分自身の焦りや不安が少し薄れていくのを感じた。彼女の存在は、彼にとって大切なものとなっていた。

フィオス、トリスタン、そしてエリーゼ、3人は、10段ほどの石階段をあがった。


そこには、大きく重厚な扉が全開になっており、教会の内部からは祭りのための特別な儀式の様子が垣間見えた。扉の上部には、銀色で光り輝くフクロウの意匠が彫り込まれていた。

そのフクロウは教会のシンボルであり、知恵と真実を求める者たちの導き手としての存在を示していた。


トリスタンはしばらくその銀フクロウを見つめながら、感慨深げにつぶやいた。「いつ見ても、このフクロウの意匠は圧巻だね」


エリーゼはトリスタンの言葉に同意するように

「本当に。私たちの運命がこれからどう変わるのか、ワクワクするわ」と言った。


フィオスは2人の反応を微笑みながら見て、深く息を吸い込んだ。

「さあ、入ろう。これからが、私たちの新しいスタートだ」


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