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第04話、仮説

「仮説が単純であればあるほど、それは真実である可能性が高まる」~アルベルト・アインシュタイン

二階以上は、エアグナ家の私的な空間となる。

商業空間と私的空間を隔てる境界は二階の入口にあるスイングドアとなっている。


フィオスはその扉を抜け、母フロネーシスに「ただいま」とあいさつをした。


フロネーシスは、キッチンカウンターで夕食の下ごしらえをしており、手にはキャロットがあり

その形状や匂いから、シチューを作っていることが伺えた。


二階には、母親の趣味のスペースも見える場所にあって、そこには裁縫の道具やカラフルなフィギュアが並んでいた。

それらは、日常の中の小さな楽しみや彩りを示していた。

「おかえり、フィオス」

と、彼女は微笑みながら彼に向けて言った。

フロネーシスは息子の成長を実感し、その独立した精神を尊重していた。

そのため干渉したい気持ちを抑え、彼が無事に帰ってきたことを確認するだけにとどめた。


フロネーシスは、厳格で束縛の多い家庭で育ってきた。そのため、彼女自身が親となった時、子供には自由を与え、

その独立した精神を尊重することを決意していた。

しかしその心の中には、常に彼を案じる母の感情が湧き上がってきていた。

食事の時間を除いては、彼の日常に介入することを極力避けてきた。

その代わり、家族がテーブルを囲むその特別な時間に、彼の日々の出来事や気持ちを探るような会話を心がけていた。


フィオスは笑顔で応え、三階に向かう階段を上り始めた。

階段は木の柔らかい色合いで、長い年月を経てもなお、家族の足跡や歴史を感じさせるものだった。

三階には、二つの部屋があり、奥の大部屋は父アレーセイアの書斎で、手前の小さな部屋がフィオスの部屋だった。

彼の部屋は彼だけの特別な空間で、ここでは外の世界から離れ、自分だけの思索する時間を過ごすことができた。


部屋の窓からは通りを一望でき、彼はそこから人々の日常を観察することも好きだった。

スナップショットとして切り取った人物に物語をつくり空想する至福な時間。

この空間を利用させてくれる両親には感謝を常に抱いている。


・・・


部屋に入ると、フィオスは布製のカバンを所定の場所に置き、直ぐに机について思索するのであった。


フィオスは学ぶことが大好きで、常に知識を追求していた。

彼は「ギフトの儀式」に関して考察し、独自の仮説を持つにいたった。


彼の中で形成された仮説は、アラスディア王国の伝承や文献を基にしていたが、それとは一線を画するものであった。


彼の仮説は以下のようなものである:


その仮説は「真の神が、ヒト属や特定の宗教の信者だけを特別視するのだろうか?」という疑問から展開されたものである。


フィオスは幼い頃から多くの書籍に触れ、様々な宗教、哲学、神話に関する知識を得てきた。

彼が学んだ中でも、自然やすべての生命に平等に働く法則、そして宇宙の真理に関する考えが、彼の心に深く刻まれていた。


その疑問は次第に大きな仮説へと発展していった。

「ギフトの儀式が神の力(恩寵)によるものではなく、人々によって作られたものなのではないか」

「私たちの内に秘められた潜在能力を顕在化させるものではないだろうか」


彼は、ギフトの儀式がただの伝統や習慣であるのではなく、何らかの特別な魔法や技術によって、人々の中に眠る真の能力を引き出すものだと考えていた。

そして、それは単に神からの恩恵として受け取られるだけのものではなく、私たち自身の無限の可能性や力を開放するキーであるのではないかと考えた。


この仮説が正しいならば、この国や宗教が「ギフト=神の恩寵」として伝えてきたことは、欺瞞である可能性が高まる。


彼は盲目的に宗教の教義や価値観を受け入れることはしなかったが、それを全否定することもなかった。

彼の目の前を通り過ぎていった多くの人々の中に、信仰によって慰めや勇気、指針を見つける者がたくさんいた。

特に困難な状況に立たされた者や社会的弱者は、信仰を心の支えとしていた。


彼は宗教や信仰が人々の心にとって大切な場所を持つことを理解していた。

それは単なる習慣や慣習を超えて、人々の心の安定や平安を保つ力があると信じていた。


仮説が正しいか否かにかかわらず、彼はこの儀式を受け入れるつもりであった。

最も近い感情としては、知的好奇心であった。彼の身体を使っての仮説検証でもある。


・・・


ギフトの儀式の日が近づく中、フィオスはもう1つの側面についての考察をしていた。

彼が探求心を持って読み進めたいくつかの書籍の中で、ギフトの儀式の背後に隠された国の人材管理システムが見え隠れしているのだ。


「これは仮説ではなく事実だな...」と彼は呟く。


その書籍には、ギフトの儀式が王国の中心となるエリートを育成し、有能な人材を選別するためのシステムとして導入されたとの記述があった。

儀式を通じて、特別なギフトを持つ者たちは王国の高官や学者として取り立てられ、国の重要なポジションに登用されることとなる。


フィオスはさらに読み進めると、王国がこれらの有能な人材を特別な報奨や待遇で優遇し、その代わりに彼らの行動や研究を一定の監視下に置いているという情報も得る。

それは、彼らの才能を最大限に活用し、王国の繁栄のために利用するためのものであった。


「王国の人材管理システムは良くも悪くもこのようなものなんだな」とフィオスは考える。


有能な駒が仮想敵国や対抗組織などに流れないように、保持するのが目的なのだ。


フィオスは、少し怖いなと思いながらも、書籍関連のギフトと思われるため、自分にはあまり関係ないだろうと思うのだった。


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