第01話、穏やかな死
「知識の海は無限、波立つ思考の渦の中に真実を見出そう」 ~ ソクラテス
夕方のオレンジ色の太陽が窓を照らす中、書籍に囲まれた部屋で一人の男が深く読書に没頭していた。壁一面を覆う本棚には、古今東西のさまざまな書籍がびっしりと収められている。この部屋は彼、知の巨人の宝物であり、彼のすべてである。
教育の現場からはすでに引退しているが、彼にとっての学びは終わっていない。名誉教授としての役職は持っているものの、彼はもはやその名前や肩書きにこだわることなく、純粋に知識の追求に専念していた。
彼は結婚もしていない。しかし、彼自身はよく「私は知識と結婚している」と冗談めかして言って笑っていた。彼の生涯の伴侶は、これらの書籍とその中に秘められた知識だ。
都市の騒音が徐々に夜へと変わっていく時間、知の巨人の住む邸宅は、彼の読書に集中するための特別な防音設備が施されていた。そのため都心にあるが外部の音はほとんど聞こえない静かな空間となっていた。
彼は、新しく手に入れた古書のページを興奮気味にめくっていた。その本には、古代の文明についての知識や未解明の謎が記されていると言われていた。
突然、彼の手元の本や机上の文房具が微かに揺れるのを感じる。彼は慣れないこの感覚に少し驚き、周りを見渡す。
その後、揺れは次第に大きくなり、本棚に積まれた書籍が次々と落ちてくる。彼は驚きの中、地震だと認識し、すぐに机の下に避難しようとする。しかし、部屋中に山積みになった書籍が次々と倒れてきて、彼はそれを避けきれなくなる。
数分後、地震は収まった。彼の部屋は、落ちた書籍と文房具でぐちゃぐちゃになっていた。中央には、彼が倒れて、書籍に囲まれた姿があった。彼の顔は驚きや恐怖で歪んでいるわけではなく、むしろ安らかな表情をしていた。
この部屋には、彼の生涯の伴侶であった書籍と、彼の静かに眠る姿が残されていた。