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VGOO(ボーゴ)〜嘘の導く並行世界渡航〜  作者: 喫痄
流転・赤月颯季編
44/59

#4 偶像2

【前回までのあらすじ】

VR空間「イカロス」へ招集された7人は、「サク」を名乗る人物の開催するゲームに参加する。それは容姿をはじめとした個人情報を偽って参加している3人を的中させるというものだった。

2回目の指名で「サク」からなりすましだと宣告されたのは、颯季と同じアイドルグループに所属し対立していた夜宵埜未。これを暴いた吹田惟都は、このゲームにおいてなりすましを見つける「攻略法」があると告げた。


【ルール】

・最初の持ち点は120点。最大4回の指名ののち、最終的な獲得点数が最も高い者を勝者とする。勝者は当代から「サク」の称号と情報収集術を継承し、敗者は事前に入手されているスキャンダルを「サク」によって公開される。

・指名の際は指名人が持ち点の半分を失う。被指名人が偽物であることを的中させた場合は失った分が返還されると同時に、被指名人の持ち点から半分を獲得できる。指名は全体で1回のみ失敗が許されている。

・予想人は指名が成功か失敗かを予想する。指名成功を正解すれば正解者の中で被指名人の持ち点から半分が分配される。指名失敗を正解した場合は、指名人の支払った半分の持ち点が被指名人と正解者とで分配される。

「『攻略法』ですか?

 しかし、そんなものがあったなら今まで隠しておく必要はなかったのでは。状況的に、指名者としての権利を得つつ得点の分散を狙うのは難しかったはずです。それに隠したなら隠したで、今になって敢えて開示するというのも……」


 佳蘭(から)の指摘に対して、(ふき)()(ゆい)()は呆れたように笑う。


「そんなもの、それこそこのゲームの“攻略”に関わる本質の問題でしょうよ。結局は敵をいかにして『信用させるか』。それが真実だからといって、いつもそれに相応しい匂いを放っているとは思わない方がいい」


「私達の信用を得られない真実だった、と言いたいなら――“奇跡が起こった”では、今の『攻略法』という宣言が不自然に聞こえる。“現実的である一方で、人間的な判断からは逸脱している”、といったところでしょうか」

 

「まあ、そういうことです。

 まず前提として、さっき言ったいくつかの嘘のこと……本当のところ、当初の目的は夜宵さんなんかではなかった。勝ちに行く時点で、狙いとして定めていたのは鯨井佳蘭さん、首位の貴女だけです」

 

 佳蘭は神妙に吹田の話を受け止めている。


「とにかく検証したかったのは、貴女の言っていた『ABY(アビー)』の取材部のことだった。聞いたことのない組織だから、実在するのかどうかも含めてね。

 そして『ABY』となれば、ある意味この時代で最も明確な身元だと言える。取材部と交渉することで鯨井さんに近付こうと考えたけど、結果は全く別のものになった……代わりに取材部のアンテナが拾っていたのが、夜宵さんについての情報だったということです」


「待って。『ABY』は世界的企業だし、個人で名乗り出ても交渉のテーブルにすら付いてくれない。完全な部外者が、たったの1日でそれは不可能」


「現状『ABY』取材部の情報は契約した“情報屋”側も一方に提供するだけで、データベースは共有されていません。私ですら外部ということで触れられないものですよ」


 もっともらしい反論に思えたが、吹田は不思議そうに首を傾げる。


「へえ。みなさん、時事には弱い?たったひとつだけ、個人でも比較的交渉しやすくて物分かりもいい、そんな窓口があるでしょう?

 ……僕は自分や自分の仕事について、『価値の付く個人情報や機密情報の全て』を暴力団へと売り払った。その伝手で『ABY』取材部と通じたんだよ」


「ぼ、暴力団……!?」


「『サク』が先日言っていたんだよ、『ABY』がこの国情報産業を手中に収める上で、地域に根付いた裏社会の権威を利用したと」

 

 ――え?

 記憶に抵触する部分がある。確かに、「サク」はその投稿を行った。

 しかし問題なのは、颯季の持つ記憶が認識するところでこの投稿による過去改変が失敗しているという事実だ。

 その全てを覚えている訳ではなく、確信は得られない。ただ、事実との齟齬が世間に浸透しているわけではないならば、「サク」の投稿はフェイクニュースのまま世間に信じられていることになる。

 彼がその誤った認識に基づいてそのままを語っているとすれば、これは墓穴を掘った言葉だ。


「個人情報や『ディルクグループ』の情報をあるだけ……!?そんな代償を背負って調査したと?」


「代償?その発言、『サク』から脅迫され、既に自分たちの喉元へ刃が突き付けられていることを失念したとしか思えないな。

 とっくに退路は断たれている。僕がこのゲームに勝ち2代目『サク』となったなら、その時点で過去なんて全て意味を為さなくなるんだよ。自分の過去(資産)が価値を落とすのは分かっているから、前もって未来の価値の代価とする。この極めて合理的な“異時点間の取引”を、本当に理解できないと言い張るのかな?」


 吹田は誇らしげに語るだけで、鬼気迫った様子はまるで見られない。それだけ気軽に下せる決断でない事は明らかだが、むしろそれこそが彼の言葉を信じるに当たって最も信頼の置ける要素でもある。

 一度大雑把な経験を聞かされただけだが、それは“取捨選択”を掲げたディルク・デ・ヘンゲルに感化され、利益の為ならばいかなる代償も辞さないと語った吹田惟都の取り得る行動そのものだと言えるのだ。


「――分かりました。私は貴方の言ったことを信じておきます。貴方の狙いを推測したら、それが真実であることを前提としているような気がしますから。

 そんなことより『サク』。(あつ)()(かる)()さんの時とそちらの人の扱いが違うようですが?」


 佳蘭が視線を未だにその場へ残されている“埜未(やみ)”の方へと戻す。


「なに、ただ感心しているだけだ。まさかなりすましの正体まで暴いてしまう者が現れるとは」


「それはどうも。

 でも楽観的ですね、“貴方”だってもうすぐ同じ目に遭うかもしれないのに」


「ほう、まだ正体を疑っているのか?」


「いいや、それならこんな手は使ってませんよ。でも貴方自身についての真偽が僕にとっての死活問題になっている今、もうひとつくらい確証になるものが欲しくなるでしょう?」


「『私の正体を暴き、本物でなかった場合の脅迫材料にしたい』、のか?

 良いだろう。そんな風に言うのなら、少し怖がって貰おうか。“預言者”の真髄を体感したければ、当然“預言書”を目にするのが最良の方法になるだろう」


 そう言うと『サク』はその場にいる全員へ、予想の入力シートと同様にある文書をデータで送付した。

 この“預言書”が何に言及したものなのか――。

 その場に居るうちの()()は、すぐに気が付いた。



『私にはアナタしかなかった。だからアナタだけを愛しているし、アナタだけを憎んでいる。でも、その2つを比べようと思ったとき、絶対に同じ大きさにはならないんだ』


 この言葉は、結局“彼女”が“()(よい)埜未”へ最後まで直接口にすることのなかったものだ。


 最初は、彼女に突然声を掛けられたことだろう。これで彼女の時間が動き出した。

 というのも、それまでの彼女には自分自身の言葉を用いる機会すら設けられたことがなかった。

 「ABY」はSNSとして情報が膨大かつ粗悪になっていく流れへ無理な抵抗をしなかったことで生存競争を勝ち抜いたが、多くのメディアはその道を選択できず、衰亡の運命を辿った。元来虚構の性質を持つエンターテインメントはその影響を受けづらいが、顧客の多くはそういったものにも一定の現実味を欲していることは言うまでもない。“彼女”の嘘とは、そのような時代により窮地へ立たされた彼女の両親が背負わせた、一生をかけた創作だった。

 物心も付いていない彼女が、その苦痛を告発すれば第三者からの助けがあるともし知っていたなら、生来の家庭環境に適応することはなかっただろう。

 常に画面の向こうを意識した行動へ“矯正”され、客が求める場面で適切に愛想を振り撒く――それはまさに“偶像”と呼ぶにふさわしいだろう。ただ彼女に限って、それは少なくとも欺瞞ではなかったのだ。

 そしてそんな“矯正”の痕跡が顔面の裂創に及び、画面越しにも隠せなくなってきた頃、両親は突如として彼女の元を離れた。公的制度は彼女を学校に入れたが、何の背景もなく存在するだけの“偶像”に、用途らしい用途は既に失われていた。

 それが、誰かに価値を見出されるまでは。


 夜宵埜未は当時から純粋だった。埜未から見た“彼女”は頬杖で顔を隠しているのもあってか、教室でも周囲と打ち解けられない消極的な少女だったのだろう。

 純粋だからこそ、突然彼女の手を取ったその善意と呼ばれる行動は、あらゆる意味で“救済”を意味していたことを彼女は見抜いていた。


『アンタ、暇そうならアタシに付いてきてよ。これからずっとね。絶対楽しいからさ!』


 だが、偶像は第三者を拒否しない。

 偶像は恩を仇で返さない。

 そうして、大原(おおはら)星莉(せり)は夜宵埜未の友人になった。


 ――そして数年の後2人が受けたオーディションの結果は、埜未が合格。星莉が不合格。


『大原星莉さん……君はアイドルとして天才的だ。動画審査だけでも光るものはあったが、実際に会ってみて確信した。

 話し方、言葉選び、その立ち振る舞いもそう。内気で奥ゆかしいのに、相手に最も都合良く感じられるものを反射的に選択することができる』


 プロデューサーの男が、彼女達を特別に呼び出した際に言っていた。

 珍しく胸が高鳴るのを感じた。アイドルに惹かれたことに関しては彼女が先で、埜未ではない。似たような活動を両親から強制されていたのは確かだが、虐待があったのは幼くて記憶も曖昧だった昔のことだ。自他共に想起される記憶は薄く、公に出た際の禍根にすらならないというのが正直な感想だった。それよりもむしろ、自分でも最も価値を発揮できる場所だという予感があったかもしれない。


『だからこそ、残念なのはその顔だ。その傷跡、メイクで消せるならと思っていたが、どうも完全に隠すのは難しそうだ」


『へー、それじゃ仕方ないねー。ま、これで2人とも普段通りって話じゃん。変に落ち込むことないっしょ?』


 埜未が笑って彼女の肩を揺する。


『え?でも埜未ちゃん、受かったんでしょう?』


『女子高生って遊ぶことで忙しいものでしょ?アンタとならと思ったけど、面倒くさいから辞めちゃった』


『そう、今回2人を呼んだのはそのことで提案があるからだ。我々は大原星莉、君をどうしても諦めきれなかった。そこで思いついたのがイカロス、そしてアラクネスキン――』


 2人が「イカロス」に登録し、容姿で既に合格としている夜宵埜未の個人情報を「アラクネスキン」で大原星莉のものと入れ替える。そして大原星莉が、「夜宵埜未」として「イカロス」でアイドル活動を行えば、オーディションの合格者を失わずに済む、と。

 そしてその暁には、このコンセプト自体にも可能性を感じている為、グループアイドル「キラキラ研究所」として他のメンバーを追加で募集する、と告げられた。名目上事前に格差を作りたくないので、立ち上げの段階で現実で顔合わせする際は本物を召集し、全員が同期の新人ということで誰にも口外しないということも。


 彼女は隣に座っている埜未の様子を伺ったが、その返答はあまりにも素早く、気楽なものだった。


『いいじゃん。特に仕事もしないでチヤホヤされるんならラッキー。星莉、やってよ。アイドル好きなんでしょ?』


 ――だが、偶像は第三者を拒否しない。

 ――偶像は恩を仇で返さない。

 彼女はその提案を快諾した。



「何それ」


 (さつ)()は呟いた。


「……つまり、私達と一緒にやってきた貴女の行動は全部、最初から意思も何もない模倣だったって?そこにいる貴女は、全部が嘘だったって言いたいの?」


「そんな!『これ』もそこまでは書いてないんじゃないかな?ちょっとせっかち過ぎるよ、颯季」


「『これ』って何……?そんな他人事みたいに……」


「だって私、こんなものを書いたり喋ったりした記憶ないよ?正直、内容は心当たりがとてもあって私もびっくりしてるけど……」


 確かに思い当たる節は自分の“別の記憶”にも存在している。「サク」には個人についての物語を、対象者の了承した自覚なしで出力した体験があった。

 しかし、颯季からすればそんな事はもはや気にならない。釈然としないことに察しがついたのだろうか、夜宵埜未の姿をした少女はそのまま続ける。


「でもさ?認められる自分である為に、清潔な自分を保つ為に……。そうして本心では望んでないことを受け入れてるのなんて、みんなが普段からやっていることじゃないの?

 私にはたまたまそんな『自分の為』が無かっただけで、同じことをしてるんだよ。まさかそんなことまで嘘だって言うつもり?そんなの、“アイドル”らしくないんじゃないかな……」


「それは“アイドル”である以上、真実が必ずしも他人の目にも美しい形をしているとは映らない。そういう主張?」


 星莉は微笑んで頷いた。


「でも、それは違う!違うんだよ……!」

 

 以前から失望を抱いていた埜未に対して、颯季がこのように食い下がることはもはや珍しいことだった。

 それは単純な怒りなどではない。


「――それで、その“調書”は何?本人にすら覚えのない独白をどうして用意できるんです?」


 佳蘭がその空気を遮って、「サク」の人影を睨み付けて言う。


「確かに、そう……。『サク』が情報を創作していると自白するようなもの」


 比較的表情の乏しい(しずか)でも珍しく余裕を欠いているらしかったが、彼女は颯季の隣にいて、まっすぐと「サク」の方を睨み付けていた。


「そうか、信用を得るには逆効果だったとは」


 返答する「サク」の態度は乾き切っている。

 

「しかし、ゲームを進める意思に変わりはない。依然として存在する高いリスクに対し、コストは再び24時間後の再集合と参加のみだ。どれだけ私の正体に疑念を抱いたところで、損失回避性という、欺瞞が持つその真骨頂からは逃れられない。それはギャンブル志向の貴方ですらな、吹田惟都」


 そのまま「サク」の出現を表現する影は仮想空間を去る。

 “夜宵埜未”は自分も同様に「イカロス」から弾かれることを確信していたのだろう、特に驚く様子もなく姿を消した。


 惺は身体の力が抜けたようで、その場で足を崩す。

 声を掛けようか迷ったが――彼女の潔白も証明された訳ではない。むしろ、夜宵埜未という存在が偽りであった時点で、それを庇う形になった彼女はかなり疑わしい。

 そしてその見立てが間違っていたとしても、彼女の颯季を見る目は殆ど颯季のそれと相違ない。

 

 ただ、このままでは決裂せざるを得ない2人の肩へ、佳蘭の手が優しく触れた。


「……今回の顛末は気持ちを切り替えるしかない。問題は次です。

 基本の情報戦を否定はしませんが、やはりあまりに難しい。でも、確実な収穫として全員が現実世界で顔を合わせて機会を作りたいところです。とはいえ遠距離で簡単に会えない場合もあるから、間を取って通話というのはどうですか?前もってお互いに連絡先を交換しておくんです」


「まあ、今回みたく現実世界での偽装にもタネがあるケースは考慮しないといけないが……。それによる綻びも含めて炙り出そうと言うならアリですね」


「では、あえて予め通話時刻を指定しておきましょう。偽装の準備があるならそれでもいい。とにかく連絡を取ってお互いの情報を多く得ておくことに意味がありますから、言い逃れできない状況にしておくんです」


 その提案は全員が承諾する。解散したのは14時ごろのことだった。

 参加者と通話をする以外の時間、颯季が取った手段は「ABY」を用いて数を優先した情報収集だ。

 これは吹田による嘘の情報取得方法だったが、少なくとも本当だと言っている方を実践してみるのが悪手だということは分かる。

 「ABY」取材部のデータベースへアクセスするため自分の個人情報を犠牲にするという方法は、本当だとしても「ディルクグループ」という背景があったから成立したに過ぎないだろう。そしてそれ以上に、この方法を後から吹田が明かした理由――颯季達へこれを模倣させたがっているということへは警戒を向けるべきだ。

 つまり現在、情報収集の点で吹田の遅れをとっていることは受け入れなければならない。佳蘭が通話の提案をしたのも、競争の局面を洞察力を争うものへと移したいからだろう。下位に位置し勝負を賭ける立場の颯季からすれば、情報の質が低くても一発逆転を狙える「ABY」が最良の選択のはずだ。

 

 颯季が調査をする上で特に気にしているのは、(いわ)()(けん)()だ。

 彼の言動の浅薄さはかえって底知れなさを予感させる。颯季からすれば、この点であの男と埜未が似ていることも注目を外せない要因だろう。


 しかし正しそうな情報といえば彼のアスリートとしての成績程度。安価な情報となると内輪向けの噂になるが、そうなると意外に岩見自身へ焦点を当てた情報自体が少ない。颯季や惺のようなアイドルの情報はより膨大な一方センセーショナルで一見の価値があるものも紛れているが、競技に注目されがちな彼の内面については違いを比較できるほどのものが見つからなかった。

 それは最終の指名に当たって、「サク」から追加ルールの連絡があった後のこと。


「もしもし?」


 そして18時。「全員に自分から通話する」と伝えた佳蘭の方から、時間通りの通話が開始された。

 

「そうか、ひとまず容姿は一致しているね。良かった」


 机に固定されていると思われるカメラの先で、佳蘭が手を振ってくる。


「まあ。そちらこそ……」


「それにしても、大丈夫?」


「……え」


 画面の佳蘭は優しく微笑んだ。


「少し取り乱してたみたいだから。まあ、無理もないよね」


「……そんなピュアな感情じゃないです。私……あの子は嫌いだったから」


「そうなの?」


「はい。でも、あの子の本当のことを知れて色々と気付いたこともあって」


 体の内に蓄積し切った鬱屈とした気分を、逃れる一心で言葉として放出する。思えばアイドルになって以来、このように自分のことを話すことはなかった。


「あの子と『埜未』の関係が、私と――オーディションで蹴落としてしまった(りょう)との関係に重なってしまって。

 燎は、お互いの運命が別れたあの日以来、顔を合わせてくれなくなった。その時に交わした再会の約束は、私のアイドルとして生きる原動力に、責任になったんです」


「でもそれは、多分私の思い込みだった。しかも一方的に相手を振り回して、本心ではどう思われているのか……全く気にしていなかった筈はないんです。私は燎を疑ったから、思い込むことに必死になった――多分その時点で、私達の関係性にも答えは出ていたんですけど」


「そして、私はその必死さが元で埜未と対立した。彼女が燎と似ているんだとしたら……今の状況に対して埜未へ同情できない、虚しいだけというこの直感も、私のやってきたことを否定している感情な気がした……。

 ……でも、まあいいんです」


「え?」


 颯季の言葉に、佳蘭は驚いた様子を見せる。


「誰かに話せたことで、少しだけすっきりできました。

 くよくよしてたって、私らしくありません。燎のおかげは勿論だけど、アイドルになりたいと最初に思ったのは私の本心だった。燎のことを疑ってしまっていたのだって、結局は自分の弱さ。本当のことなんて、もう一度会って聞き出した答えを“正解”ということにして先延ばしにしても、誰も不幸にはならないでしょう?」


「そう。私らしく、か」


 佳蘭は画面から視線を僅かに外して、嘆息する。

 

「貴女は、きっととても正直に生きてきたんだね。失格になったあの子とは確かに合わないかもしれない。

 でも自認なんていうものはきっと、城を築いているようなものだよ。それは自分自身に対する主権の誇示であり、外敵を拒絶するという姿勢――元から、他者と共感し合う為のシステムじゃないと思うんだ」


「な、何の話ですか?」


「人は1人では生きていけないってことは否定しないでしょ?

 なら、疑うことが必要なんだよ。自分を疑って疑って……そんなことをしても、答えが出ないことが分かっていてもね。そして、城に用いた建材の曖昧さ、城の脆弱さに気が付いたら、そのことを許さないといけない。他人を許すということも、きっとそこから始まるんだ」


「私はそう思いません。皆が色んな個性を持っているなら、衝突することなんて当たり前だから。理解なんてその先にしかないと思うんです。少なくとも……私が憧れて見てきたアイドルは、自分を疑って臆病に生きてきたようには見えなかった。星莉(あの子)みたいになる気はないけど、仮に彼女自身のそれが嘘のキャラだったとしても、私自身の理想でなるべき姿なことに変わりはありません」


 現状に置かれながらこの言葉を口にしているということその自体が、颯季の主張を証明していることは佳蘭にも伝わっただろう。

 それ以上特に意見を言うこともなく、彼女は一言だけ返答した。


「そうだよね――私が貴女でも、多分同じように言ったんだろうね」

 

 

 こうして終了した通話以降の20時間強。

 

 事前の約束に反して、佳蘭以外は誰1人として通話に応じる事はなかった。

 

 さらに、今度の再招集には1人の欠員が生じた。

 ただ、おそらくはその場にいる全員が掴んだのだろう――「ABY」によって、「(くじら)()佳蘭が死亡した」という噂が流れているという事実を。

【現在の得点】

赤月颯季  140

久保田王惺 120

夜宵埜未  失格

吹田惟都  190

岩見絢吾  175

鯨井佳蘭  215

渥美駆真  失格

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