#3 偶像
【前回までのあらすじ】
VR空間「イカロス」へ招集された7人は、「サク」を名乗る人物の開催するゲームに参加する。それは容姿をはじめとした個人情報を偽って参加している3人を的中させるというものだった。
議論を主導していた渥美駆真は同じ「ABY」取材部の“情報屋”を名乗る鯨井佳蘭から指名されたことで早々になりすましだと判明し、自由時間として参加者は一度現実世界へと返される。
惺と合流してお互いを確認した颯季は、情報収集の名目で自身に宿った記憶を頼りに“般若街”へと向かう。惺と離れて「サク」のアジトと思われる部屋の前まで迫ったところで、何者かに呼びかけられた。
【ルール】
・最初の持ち点は120点。最大4回の指名ののち、最終的な獲得点数が最も高い者を勝者とする。勝者は当代から「サク」の称号と情報収集術を継承し、敗者は事前に入手されているスキャンダルを「サク」によって公開される。
・指名の際は指名人が持ち点の半分を失う。被指名人が偽物であることを的中させた場合は失った分が返還されると同時に、被指名人の持ち点から半分を獲得できる。指名は全体で1回のみ失敗が許されている。
・予想人は指名が成功か失敗かを予想する。指名成功を正解すれば正解者の中で被指名人の持ち点から半分が分配される。指名失敗を正解した場合は、指名人の支払った半分の持ち点が被指名人と正解者とで分配される。
「貴女は……?」
「宮尾麗音。ここは関係者以外を一切通すなという話になっていてね。悪いけど、離れてもらうよ」
「渥美……駆真?」
その女性、「宮尾麗音」を想起する上で結びついていた名前は、先ほどまで偽物が隠れ蓑にしていたものだ。どうにか警戒を解こうと絞り出した言葉だったが、表情を変える麗音の様子をみるに、確かにその効果はあったらしい。
「君、どうしてその名を?」
「やっぱり、関与があるんですね?『ABY』取材部との関連があるというあの人のことを」
「色々と情報を持っているらしいけど、それが軽率に開示するべきではないものだってことまでは理解していないらしいね。尚更、君を不用意にこの場所へ近付ける訳にはいかなくなる」
麗音が「サク」にとってどのような立ち位置にいるのか、颯季が呼び起こせる記憶の中で判断できるものは思い当たらない。とはいえこの場面は情報を得るための絶好の好機だと言える状況で、得られたのは言うまでもなく、彼女のそこはかとない敵意だ。
ただ、それは失策でもない。颯季も同様に渥美駆真に関係していると言う彼女のことを、信用するわけにはいかないからだ。
実際に接触したのは偽物だけで、それもゲームから退場した。しかし、その男の名が絡んだ場の事態がそう単純に終息するはずがない――その確信はあった。
「私の身分が不審なら、証明できる人が2人います。特に後ろめたいこともありませんし、SNSを調べて確かめることもできるでしょう。今は2人ともこの街で一緒にいますけど、それでもダメですか?」
「ああ。むしろ、世間的な信用があればあるほど情報を漏らすリスクがあるとも言える。他人として会った時点で、どのみち君へ情報を売る意思はないよ」
「じゃあ――私、自分で『ABY』取材部と接触したいです。この街に来たのも、知りたい情報があったからなんです。教えて貰えませんか?」
「悪いけど、それについても何も教えられることはないよ」
「そんな!教えてもらえるだけで迷惑はかけませんから……」
「そういう問題じゃない。
君が言う通り、私は渥美駆真と強く関係している。多分、近親者を除けば一番近い位置にいるだろう。ただ、そんな私でも彼の持っている情報や言動の意図について、彼から価値のある説明を受けたことは一度もない。
これは面と向かって言ったことがあるから陰口ということでもないんだけど――あれは自分しか信じられない、という人間の典型だからね」
「じゃあ『ABY』とも、繋がっているのは本人だけだと……」
「うん。それとだけど、私との会話を最後に“取材部”への接近自体も諦めた方がいい。あれはまだ公に存在すら明かされていない、『ABY』の切り札だ。“情報屋”としてのスカウトもされていない君が近付こうとすれば、大きな代償を払うことになるだろうね」
「そう、ですか――」
颯季は麗音を前にして項垂れて見せたが、決して悲観的ではなかった。佳蘭自身のことを含め、彼女以外で取材部という情報源を制限時間内で得ようとすれば、今の颯季が最前線に違いないと思われるからだ。
そして宮尾麗音が友好的でないと感じた時点で、次への布石は既に打った。
「まさか本人がいるとは思わなかった」
戻った颯季には、惺と埜未が待ち構えている。
そこで初めて目にする「夜宵埜未」と、昔目にしたことのある彼女との間に大きな差は見られない。常日頃目にする派手な髪型と比べれば、彩りを足しているエクステンションが無い分の違いもあるが、金の長髪であることにも変わりはない。
容姿だけで彼女特有の奔放さまでを全て照合するのは難しいが、今のところは颯季達の想定と現実を生きる彼女の生き様との一致を感じさせた。
「昔、色んな情報が集まってる街の話を聞いたことがあったからねー。勝つとなったら来てみるしかないっしょ」
「そう。それなら知ってるんだ、今やってる“ゲーム”のことは」
「何それ、カマかけてるみたいでヤな言い方。負けたら『サク』に隠したい秘密をバラされる、だから頑張るしかないんでしょ。これで疑いは晴れる?」
「組み立ての時から埜未の顔立ちが変わっていないのを、ちゃんと私は覚えてる。
――だから、今更そんな風に言ったって“関係ない”よ」
「あはは、まあそうだよねー。じゃ、またね」
彼女の屈託のない笑みは、状況や彼女自身の気分を反映することがない。付き合いの長い颯季による一言は、そんな彼女の態度に惑わされることなく口を吐いて出た。
「埜未さ……。避けてるよね、私のこと」
埜未は足を止める。
「何が?」
「だって、会ったのに何を聞かれても適当に返事するだけじゃない?『アラクネスキン』は競売で取引するって話だったけど、方法さえ分かるならきっと知り合い同士でも出来るでしょう?口裏合わせの可能性を確認するんだったら、まだ証拠は全然足りてないよ」
「……えー?そんなの、よく考えなよ。『避けてる』なんて、当たり前じゃん?」
そう言って、埜未は目を細めて微笑んだ。
「アンタがいるのを見つけたから離れた。颯季からしてみたら、それってそんなにおかしいことなの?」
ふと、我に立ち返った。
その通りだ。「夜宵埜未」が目の前の彼女でないなら、執拗に颯季を見つけて避ける必要はない。これは本物と考えれば、あらゆる意味で腑に落ちる動きに違いない。
何しろ、これこそが颯季に突き付けられている「サク」の「脅迫材料」。
「メンバー間の確執」。彼女はこの現実世界で、それを忠実に体現していただけと言えるだろう。
これを単に不仲と定義するならば活動を継続させる目もあるだろうが、この問題は少なくとも、「キラ研」というプロジェクト内で蔓延する気運に留まっているのが現状だ。そしてその当事者として根深さを認識できている颯季は、これが沸騰すればグループの存亡に関わるという確信も持っている。
というのも、これは淡白な問題であるからこそ折衷の余地がないのだ。
『私から2つ、お願いさせて』
それに続く言葉が、アイドル・赤月颯季の原点だ。牙隈岼果に対する憧れも、当時は2人のもの―― 燎との紐帯だった。
彼女に対しては、颯季の方から最初に声を掛けたはずだ。笑顔の絶えなかった颯季の周囲の隙間から飛び出して、陰鬱な教室の隅へ敢えて赴いた当時の衝動の正体を、颯季は未だに解き明かせていない。恐らくは、現在よりもいくらか子供ながらの勇気が備わっていたのだろう。何回か声をかけて話をするうちに、燎が当時人気のあったアイドルへ熱中していることを知り、颯季自身もそれに飲み込まれる形で憧れるようになった。
その牙隈岼果自身には盛衰があったことを知っているが、2人の関係は彼女にかかわらず進級・進学を乗り越えて続いた。
そうして月日が経つうちに、2人はそれぞれで憧れの形に個人差があることに気付く。燎はアイドルというものを自分の幻想に留めている状況を崩したくないと口にしていたが、颯季は自分自身がステージに立つことを願った。
しかし颯季は1人で挑戦することに不安を感じていたため、燎と共に参加できるように彼女を何度か説得した。燎からはその度に断られていたが、“仮想空間で活動する”というコンセプトのオーディションの話を持ち出した際に、初めて了承が得られた。
結果は颯季が合格、燎が不合格。
原点となった言葉とは、この結果を受けた燎から涙ながらに告げられたものだ。
『1つ目――私の結果のことを気にしないで。颯季ちゃんの叶えた夢なんだから、その続きは颯季ちゃんが思ったように描いて欲しい』
『2つ目――颯季ちゃんが心から成功したって思える日が来るまで、もう私とは会わないで』
この過去があるからこそ、颯季は自身の活動の中で一切の慢心を認めず今に至る。無論、その決意に他人への強制力がないことを理解はしている。しかし一蓮托生であるグループの中で、他人の態度に無関心を貫くことも難しい。そして何より、夜宵埜未が表裏一体で余裕の笑顔を振り撒いて居座るその立ち位置が、燎が涙ながらに譲ったものと重なって見えてならない。
常としてその明るさが絶えないことこそ埜未の才能なのは間違いないが、それが周囲の――特にプロデューサーを中心とした裏方による庇護へと変わり、颯季の言及を躱しているのが現状だ。颯季と埜未の間にある価値観の溝は所謂“派閥”として全体に波及しており、思い描いているグループの発展する青写真とは確かな隔たりがある。
そして中心にいる颯季にとって、自身の過去を振り返れば分かるように、手近な享楽のみに甘んじる選択を容認できるはずはない。
――この“派閥争い”を「サク」は掴んだのだ。
「遅刻者はいないようだな。結構だ」
「サク」が姿を現す。
“般若街”でそれ以上の収穫はなく、同様の空間内で第2回の指名の検討が始まる。
渥美駆真が姿を消して会話を先導する人間がいなくなったため、皆が数秒ほど様子を探り合うことになったが、やがて佳蘭が最初に口を開いた。
「皆積極的に話したがらないようなので、ここは私から。指名を望む方がいれば、どなたからでも手を挙げてください」
「そういう貴女は?」
「本当に疑わしい人を私が挙げたとしても、私に利することはありませんよ。皆さん私に点を伸ばして欲しくないでしょうから。複数の候補が出た際に、私の指名が採用されるとは思えません
……ちなみに『サク』さん。そういった場合は、どのように指名人を決定すれば?」
「こちらの提示している今回のゲームの目標とは、あくまでこの中のなりすましを全て特定することだ。個人の思惑がどこにあろうと、より説得力があって正解と思われる方を集団の意思として決めてもらう。ただ同じ被指名人についての指名人を複数人が立候補することは認めない。これに関しては早い者勝ちになる」
「まあ、今はまだ失敗ができるターンです。細かく集団で情報を精査するよりも、自分たちの手札から決めてしまう方がいいでしょうね。情報提供は互いに推理の材料を与えてしまうだけなので」
吹田の言葉によって再び沈黙が始まるが、その中で1人が挙手をする。
「……惺?」
久保田王惺。当然ながら、埜未と比べたからといって彼女を信頼していたというわけでもない。最初の話し合いの中で、「キラ研」について大胆な嘘を吐いたことへの疑念も残っている。
そして信用していなかったからこそ、彼女の動きを颯季は確認していたはずだ。唯一あったとすれば、「サク」の“般若街”アジトへ接近して離れたとき。ちょうどそのタイミングで颯季は能力により埜未を引き合わせたはずだが、その際に何かがあったのだろうか?様々な考えが頭を過ぎる。
「私が指名するのは、赤月颯季」
「……え?」
完全に意表を突かれた颯季は、動揺のままに声を漏らした。
「久保田さん、その理由まで聞かせてもらえる?」
「単純なこと。私と埜未はあの後連絡できて実際に会うことも出来たけど、この子だけは返信もなく、姿を現さなかった。これが疑って欲しいという態度の表れなら、まずは確認してしまえば済む」
「待ってよ!私達、3人で会ったじゃない!どうしてそんなこと……」
颯季の向けた視線に対し、惺は無表情を保っている。埜未の方を睨み付けると、彼女はばつが悪そうに視線を外した。
確かにこのゲームにおいて真実のままの行動を取る必要性はないが、相手が本物であることを知りつつ指名人となることにメリットは無いように窺える。わざわざ持ち点の半分を捨てに行くようなものだ。
ただ、前回に対して指名人の台頭が期待できそうな今回、あり得そうな要素は――考える限り2つあった。
1つは、颯季に対する“妨害”。先ほど「サク」が言ったルールを踏まえれば、ここで誰よりも先に「颯季を指名する」と宣言し他の候補との論戦で負けたとき、颯季は他の参加者のミスによって得点を伸ばすという機会を失う。現在の颯季の得点は、惺に対してたったの20点を先行しているに過ぎない。ただ彼女も握っている情報が少ないのであれば、それを精一杯活用する慎重な戦いぶりとして理解はできる。
もう1つは、惺が何かを“擁護”している場合。彼女や埜未も敗北の罰を背負っている者である以上、颯季のように「キラ研」に直接関与する情報を握られている可能性もある。そして、彼女はその「キラ研」のメンバーと2人で顔を合わせる機会があった。惺と埜未との間で何らかの談合があった可能性も否定できない。
「そういえば、前回聞き忘れていましたが……久保田さん、好きな教科は?」
「……世界史。でも、それが何?」
「赤月さんは数学のはずだと言っていたよね。要するに、あれも時間稼ぎの嘘だったと」
「認めます。確かにあのときは2グループで分かれていて、向こうの状況に身を任せるのが都合は良いと思い、自身ありげに振る舞おうと嘘を使いました。ただ、惺とは現実世界で同じ学校に通っているわけでもありませんから。判断材料としては不十分だと思います」
「ええ?自分で宣言しておいて今更……」
颯季は反論しつつ、全体の面々を見返した。
――ここで私は指名に乗り出すべき?
恐らく、ここで誰かを指名すれば颯季への疑いの目線が強くなり、追及も多くなるだろう。だが、その中で万が一自身の指名が採用されるとなれば、誰に疑いの目を向けるべきか。
少なくとも、今の時点では1人しかいない。
確実な証拠を持っている訳ではないが、“妨害”と“擁護”――これらの惺の動きに単一の背景を求めるならば、浮かぶ人物は限られる。
「では、私も指名を希望してよろしいですか?」
「吹田さん……?」
「私がなりすましとして告発するのは、夜宵埜未さんです」
颯季は真一文字に結んだ口を動かさず、吹田惟都の言葉を受け止めた。
前回同じグループで話をした彼が颯季への疑念を無視したのは不思議だが、その話自体には覚悟していた部分もある。
彼は、颯季が証拠不足で提示し損ねていた名前を声として発したに過ぎない。
「久保田さんと同じく、理由を話してもらえますか」
「そうだな……。
みなさんは考えませんでしたか?この「イカロス」内で他人になりすましていた際、何を明かされることが恐ろしいのか。
何しろ、仮想空間を正しい意味で虚構としている人ですから。その立場で何を明かされたところで、全てはなりすました他人の責任になるはずなのに」
「仮想空間に留まらず、その本物自身が現実で抱える後ろめたい秘密、といったところでしょうね」
「その通り、流石は鯨井さん。
しかし、それはいくら『メディア・ハザード』と言えど、情報として一定の需要が無いと意味を為しません。『サク』が扱う以上はね」
「では、夜宵埜未さんの正体も、情報として取り扱う価値がある著名人だと?」
「はい。昨日消えた探偵の渥美駆真もそうなんでしょう。
……まあとにかく、私はその方向性で調べてみることにしました。どこにいるのか分からない人間の現在の足取りを掴むのは至難の業でしょうから、信憑性の低い情報でも過去について言及されたものを『ABY』で探って虱潰しにすれば、事実もどこかには紛れているだろう、とね。
そしてこの中で、『ABY』から判断して最も怪しかったのが『夜宵さん』、貴女でした。芸能界の人間でもできる限り自身を開示して身分の確かさを示したがる時代に、貴女のアカウントはそれと逆行していた。あらゆるコンテンツを自身のページに装飾できる『ABY』のギャラリー機能――それですら、貴女自身の過去を紐解く材料が見当たりませんでした。奔放な振る舞いで何もかもを誤魔化しているんです」
「ちょっと待って、そんなので疑ってるっての?おかしいよ!そもそも『キラ研』って、そういうグループだよ?色々な制限はあるけどそれでもこの空間なら夢みたいな演出ができるから、ここで活動する意味があるんじゃん!私はこの中でも誰よりそんな『キラ研』らしさを守ってるだけ!」
「大原星莉」
埜未の肩が僅かに動いた。
「貴女の名前――そうですよね?」
埜未は精一杯に首を振った。確かに心当たりのある名前のようだが、それが彼女自身を指すものなのかはまだ断定できない。
「他に指名出来るという方はいますか?」
そもそも、吹田のように相手を緊張させるほどの個人名まで突き止められた人間が他にいるはずもない。当然、彼の指名を最後に対抗できる者は現れなかった。
「ではどちらの指名を採用するかだけど、この場合浮動票となるのは私と岩見さんだけですね」
佳蘭は颯季と埜未の2人を交互に見つめた後、淡々と吐き捨てるように話し出す。
「私は、吹田さんの指名を支持します。そもそもはじめに疑いの掛けられた『キラ研』のメンバーについて、全員が本物であることを主張したのは久保田さんに他なりませんから。公平な目線で考えたとき、発言の信用性で劣ってしまうことを無視はできません」
言い終えた佳蘭は岩見へ目配せをする。それまで顔を顰めていた彼は、視線を感じると慌てて背筋を伸ばす。
「えー、はい!俺も同じです!鯨井さんも言ってることだし、なんか納得できるかなって……」
「び、便乗すると?私が言ったから?」
岩見絢吾は、流石に驚いて問い正した佳蘭の心情にも理解が及ばなかったようで、首を傾げて応答する。
この男もこの男で、この場における異質さでは群を抜いている。誰しもがライバルの出方を疑って駆け引きをしている状況で、あらゆる挙動から警戒らしきものをことごとく欠落させているのは彼だけだ。
そうなると、むしろ彼が何を秘匿し「サク」の脅迫に従わされているのか――そこに疑問を感じずにはいられない。
「結論は出たようだな。では指名人を吹田惟都とし、夜宵埜未についての判定を行う」
「サク」から先ほどと同様に配布された入力シートを目の前にして、颯季は一度手を止めた。
吹田の推理が正しいのか。彼の言う大原という名は目の前にいる“埜未”の真実なのか。
この件に関して、颯季からすれば、部外者達の思惑に左右されている場合ではない。埜未についての真偽は、既に『キラ研』の今後にも直結する問題だ。ここでの回答がこの後他の参加者へ公開されるということを踏まえても――今の颯季に求められているのは、自身の純粋な願望について周囲に示唆すること。
埜未がもし誰かによるなりすましだったとして、彼女が追放されるようなことになれば、颯季は弄せずしてグループの主導権を掌握できる。馬の合わない人間に引き摺られることもなく、一枚岩となったグループで更なる成功を志すことができる。
「『ABY』上に存在する夜宵埜未は、本物だ」
しかし、それが颯季の答えだった。そのように記入した理由は、自分でも説明ができなかった。
「それでは、全員分の予想が確認できたため、一度匿名での投票結果を発表しておこう」
全員分の入力した画像が表示される。
埜未を偽物と考えたのは鯨井佳蘭と岩見絢吾の2票。本物の予想が颯季と惺の2票だ。
「では発表しよう。『キラキラ研究所』の夜宵埜未……『イカロス』における彼女は――」
宣告を待つ埜未は、やはりへらへらと笑っていた。
流石と言わざるを得ない余裕、それなら――
「『アラクネスキン』を使用している偽物だ」
「え?」
ほとんど当事者であるにも関わらず、事態を俯瞰しているかのような感覚。
感情の置き所が分からないのは、単に驚愕で脳の整理が追いついていないというだけではなかった。
「この時点で『夜宵埜未』は失格。正解者の吹田惟都には支払った持ち点の返還、そして夜宵埜未の持ち点の半分を得る」
再び当人の表情へ視線を向けるが、「埜未」の笑顔には全く変化が見当たらない。
「……どうしよう、バレちゃった」
「ちなみに、さっき吹田さんが告げた名前というのは……」
「本当ですよ。でも、できれば内緒にしててくれると嬉しいです」
すると、「埜未」と利害関係のない面々の注目は、自ずとそれを言い当てた吹田へと移った。
「凄い、そこまで当ててたんですか!?たった1日でどうやってそこまで……」
「ははは!おかしいな、誰も気付いていないんだ!このゲームの『攻略法』に!」
岩見の言葉を聞くと、吹田は失笑する。
「変なことをしたわけじゃありません。私はただ、世に出た情報を根拠にしただけですよ。必要なものがあるとすれば、ほんの少しの度胸だけ……かな」
【現在の得点】
赤月颯季 140
久保田王惺 120
夜宵埜未 失格
吹田惟都 190
岩見絢吾 175
鯨井佳蘭 215
渥美駆真 失格




