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VGOO(ボーゴ)〜嘘の導く並行世界渡航〜  作者: 喫痄
“情報屋”サークル編
39/59

#18 朗読劇「奏楽少女」4

“情報屋”サークル「メフィスト」による朗読劇の開催前、ノアは乙丸に対してその真の目的を語る。それは、「ノアの能力を利用し白紙の過去を手に入れた涼霜劉の存在を劇中で語ることで、彼を意味のある存在として改めて世間に晒す。それによって劉をノアの過去改変で直接操作できる対象へと追い詰める」というものだった。

そして大学の教室で開幕した朗読劇だったが、劉の能力で出現した追加の出演者・吉木沙李奈(涼霜壮)による妨害を解消するべく、ノアはすぐにキャンパスを出て“般若街”アジトへ移動。居合わせた乙丸は自分の嘘によって、劉の能力を喰らった彼の部下へと変化していた。ノアは「サク」としての状況を打開するSNS投稿を行うが、この際改変の対象となっている乙丸は退出を拒否。これにより乙丸は以前の状態に戻らず、引き続き劉に従うことを選択した。

朗読劇における自身の出演シーンも迫る中、ノアはアジトを飛び出してキャンパスへと急ぐ。

ノアが担当する役の登場を直前に控え、不在のまま劇を進行させたい劉側の出演者(柏葉陸朗・吉木沙李奈)と到着まで現状のシーンを引き延ばしたい出演者(牙隈未良・囀きりか)で劇上の論争が続くが、ノアがアナウンスを通じて「サク」を名乗り干渉を行う。その狙いは陸朗を脅迫することによる翻意を狙ったもので、嘘の能力によって彼や彼の家族に関するスキャンダルを入手し、それを材料に脅迫することだった。

しかし、その過程でノアは思いがけず劉側の真の目的に気付かされる。

それは乙丸を利用して「サク」のアカウントをハッキングし、朗読劇で示唆する劉の立場について、その正体が松波夏海(ノアの知人)だと発信するというもの。つまり、ノアは乙丸のいた「サク」アジトへ引き返さなければ劉を追い詰めることができなくなる一方で、キャンパスへ向かわなければ劇が失敗するという状況に陥った。

 オープンキャンパスであるその日は人通りも普段より多く、朗読劇の開演当初は中でも異様な集客を見せていたが、その人だかりも既にまばらになっている。(りゅう)がサクラを用意した甲斐もあって劇の内容はろくに聞き取れず、その後すぐに「メフィスト」が劇の配信をSNSで開始したからだろう。

 その為、公演中の教室の外に立ち尽くし、あろうことか背を向けて周囲を見回している女性の様子は異様で、遠目からでも視認ができた。


「どういうつもりだ?」


 ノアは真正面から歩み寄って、その女性――松波(まつなみ)(なつ)()に声を掛けた。


「『ここで俺を見張っていろ』と劉が言ったのか?お前に力尽くで止められる訳でもない、意味があるとは思えないが」


「違う。……私が個人的に見に来たってだけだよ、ノっくん」


「どうして?お前も教室の中に入れて貰えばいいんじゃないか」 


「ね、なんですぐこっちに来たの?」


 夏海は聞き入れず、神妙な面持ちで切り出す。彼女のそのような表情を目にするのは初めてのことだった。


「ノっくん、リュウに言われてるんじゃないの?このままじゃ朗読劇が上手くいったとしても、私についての話にすり替わるだけなんでしょ?」


「単に、この後すぐ劇で俺の出番があるからだ。今でさえアドリブで無理に引き延ばしてもらっている状況で、これ以上遅刻はできないだろ」


「そんなの……」


「お前こそ、気にならないのか?陸朗(ろくろう)が後ろの教室でどんな芝居をしてるのか」


「気にならないよ」


「それは陸朗を避けているから、か?」


 問いかけに対して、夏海は口を閉ざす。必死に表情の変化を隠そうと強張っている反面、それは目の泳ぎ方を見てもまるで結実していない。

 そんな様を目にしてなお、ノアは警戒を維持する。しかし、彼女が道化でないということは直感的に理解できていた。


「記憶を持たないお前は“自覚”という唯一の根拠で、いわば本能的に陸朗から距離を取っている。お前の立場からすれば仕方ないとも言えるが、そんな風にして劉を盲信していたって、何の前進ももたらさない。お前は知らなきゃいけなかったんだ、自分自身の過去の本当の意味を」


「なにそれ。……私自身が知らないことを、ノっくんが知ってるの?」


「当然」


 ノアはスマートフォンを取り出す。先ほど陸朗の情報を得た記録は“夏海から得た”という筋書きを得たというもの。


 (やお)()(ねい)の口から「編綴コード」と語られている“不変”を除き、ノアと劉の能力は対等だ。ノアが嘘で世界ごと過去改変を行なったことで、劉が行なった「フレイム」の対象を変化させた。これだけ考えればノアの能力を改変の上位に定義できそうだが、その反面で劉の改変が上位であると認識できる領域も存在している。

「フレイム」はあくまで正常な時間進行からは独立している。世界の歴史は劉の過去改変による対象者の行動変化の影響を受けない。

 それが今回で、その特性はノアにとって功を奏したようだ。


「俺は先ほど過去改変によって陸朗の情報を得た。それは他の誰でもない“お前”、松波夏海本人から入手したものだ。

 確かにたった今のお前は記憶障害で情報が得られない状況だが、俺が過去改変で干渉する夏海は改変以降に発生する『フレイム』の影響を受けない。実際の世界と整合が取れている歴史上の夏海から、今のお前自身すら知らない空白の過去を入手できたってことだ。まあ厳密に言えば、これは今のお前とは違う、劉の存在が介入していない“本当の過去”の方だが」


 劉が「フレイム」を夏海へ施したのは、少なくともノアが陸朗を調査対象と見做せる時点よりも前のことだ。それ以降は陸朗についての情報を得るのが困難な状況だったため、それ以前の夏海が“自分自身のことを打ち明ける過程”という形でノアの過去改変は成就したことになる。


「ひとつ聞きたいんだが、本当に自分の意思でここに来たのか?劉からこの時間の行動について指示を受けなかったと?」


「そうだよ。ノっくんにバレないように隠しカメラで送られて来る劇の中継を家で見るようにって言われてるけど、見たくなかったから」


「なるほど」


 ノアは大きく何回か頷いた後、ゆっくりと話を切り出した。


「……正直、俺はお前への警戒を怠っていた。劉が『フレイム』で能力のある内通者を用意するには、膨大な過去に手を加える必要があるだろう。しかし人格形成の大半を占めるのが環境要因だとすれば、過去改変をした分変わってしまった人格や振る舞いを演技で補うことになる。著名人なら映像資料が用意できるかもしれないが大抵はそうでなく、当たり前だが以前の本人もいなくなる。結局は口伝で知った特徴を模倣するしかない。特にお前みたいな奴に関しては、それで再現するのが不可能に思えたからだ。

 でも、お前にそこまで自分の意思があるなら納得だ。恐らくお前自身の天然をブラフとして活かせるように、普段より『フレイム』で改変する過去を控えめにしたんだろう。その上で、現在の状況について考察する余地さえ奪えれば、過去を()()することで自分に協力するだろう――とな」


「ご、誤解ってどういうこと……!?」


 ノアは夏海が理解できる範囲に限定して、元の記憶に関する記録を伝える。

 まず、夏海と陸朗の因縁の大きいところは彼女の父親・松波(あらた)にある。

 これは高校を卒業した彼女が京浜大学へ入学するまでの数年間の空白を生み出した一因だ。彼女の父親は写真が趣味の一般人に過ぎなかったが、今回特筆すべきことがあるとすれば、その勤務先が「魔球少女ルパン」を刊行している出版社だったということくらいだろう。

 

 現に、先日ノアが「魔球少女ルパン」の展開を嘘で改変した際に、彼女は父親の趣味の影響を受け写真家の道を進んでいる。

 改変後の「魔球少女ルパン」は癖の少ない言わば“王道展開”だ。当時のノアにはその自覚がなかったが、これは作品が大衆の評価を得られるか否かの分水嶺だった。

 夏海の父親の勤務する出版社はノアが改変したことで“成功”を収めた「魔球少女ルパン」により経営状況を好転させたのだ。

 しかし当時は既に「メディア・ハザード」で情報の透明性は失われており、企業倫理は社会全体で悪化傾向にあった。夏海の父親の出版社もその例外ではなく、本来は当時の彼が余暇に費やせる時間もなかった。ノアの改変は世間の目を出版社へ集めさせたと同時に、更なるブラック経営とその後の“情報屋”による暴露をもたらした。

 その出版社は報道にこそ携わらない一方で情報産業の一端でもあることから、コンプライアンスについての悪評には敏感だ。労働環境の改善が夏海へ父との時間、()いては写真に触れさせる時間を増やしたということだろう。


 とはいえ、それは先ほどノアが「サク」の投稿で解消する前の過去だ。今の夏海を形成した“別れ”は、それとほぼ同時期に当たる。彼女を見守るとしきりに誓っていたという父親が、突如として姿を消した。そして捜査の末明らかになったのが、消息を絶つ以前、最後に接触していたのが陸朗だったという事実だった。

 前提として当時の陸朗に責任能力はない上に、彼自身も松波改の失踪については思い当たる節がないと証言している。

 ただ、夏海はこれを受け入れることができなかった。出会った当初と比べれば自然と疎遠になっていたことも否めないが、それ以降、明らかに陸朗が彼女を避けるようになり、まもなく兄の都合とのことで家族ごと行方を晦ませた。それが、ただ知り合いと会話を交わしただけで感じる負い目にしては、過剰だと疑わざるを得なかったのだ。


 だから夏海は大学の構内で陸朗を見つけると、彼を“観察”することにした。父を探す自身の目的の為には、陸朗の動きを積極的に敬遠する必要があった。その根拠を「フレイム」に奪われ、直感のままに行動する今の夏海には自らの感情が敵意にしか感じ取れなかったかもしれない。ただ、そのままでは本来の目的が達成されることはないということになる――それが彼女の「誤解」だ。


「劉が不完全な改変になるリスクを冒してまで、最初にお前をスパイとして選んだ理由も、少しは分かる。

 『フレイム』を使用する以前から、お前には何の制約もなかったからだ。父や陸朗、信用に足る存在を立て続けに失った。劉は松波夏海――自分すらも見失って人生を彷徨っているお前の中に、奴が自ら欲した上で獲得した“空白”を見たんだ。自分に従うと言うことを至上目的として生きる素養があるとな」


 恐らくだが、夏海はある程度の過去を残した一方で、劉から嘘の過去を伝えられている。彼女の動揺の大きさが単なる未知の補足では説明がつかないほど大きいのも、ノアの説明と自分の認識の間で数々の矛盾があったからだろう。


「もう行く。劇に出なくちゃいけないからな」


「そ、そうだ!嘘じゃないの、それって!」


 横を通り過ぎるノアの肩を、夏海は慌てて掴んだ。


「――生憎だが、嘘じゃない。俺としては、せっかく得られた陸朗の情報をバタフライ効果で無駄にしたくない。というか、そんなことはあまり気にしなくていい。俺を止めに来たわけでもないのに、お前の過去をお前の前で弄る意味はない」


「ど、どうして?私がノっくんの目的の邪魔をしてるんじゃないの?そのまま劇に出たってどうしようもないんでしょ?」


「いいや、意味はある。嘘が吐けない俺にでも可能な、唯一のフェイクがな」


 ノアは肩に置かれた手を無理矢理振り払ったが、予想外の態度に唖然としている夏海を見かねて、去り際に一言だけを残して教室へ向かう。


「気になるなら、教室に入れ。お前は指示に逆らってなお、その目前にまで来たんだ。その気持ちは間違ってない。本当に自分を見つけたいならな」



 舞台の方はノアが登場するシーンを直前に控え、暗転していた。

 ()(こと)には予めキャンパスに到着したことを伝えていたので、引き伸ばしが限界に達していた劇の進行は彼女の合図の直後、程なくして場面の終了を迎えた。


「あ!やっと来た!」


 舞台の脇へノアが近付くと、未良(みら)が安堵の表情でノアを最初に見つける。


「悪い、少し足止めを食ってな」


 暗転中、ノアの到着を待たず劇を進行させたい陸朗と(よし)()沙李奈(さりな)によって口論が起きていたらしいが、その間は他の皆が食い止めていたらしい。

 まもなく劇は再開する。唯一詳細な事情を把握しているのは未良だが、その間にノアは何の打ち合わせも行っていない。伝えたことがあるとすれば、無表情――「問題なし」のアイコンタクトだけだった。



「あれ、ハナちゃん?すっごい偶然!昨日の今日でまた会うって、もう運命感じちゃうなあ」


 冒頭はハナ(未良)タクミ(陸朗)の、一晩明けての再会シーン。


「もしかしなくても、それ……二日酔いじゃありませんよね」


「ああ、これ?良いじゃん、ヤケ酒ってことでさあ。いやー、昨日はごめんね。幻の事務所ってことで、忘れてくれればいいからさ」


「言われなくても」


「――あ!そだ、ちょっと待ってよ」


 そしてハナ(未良)タクミ(陸朗)の「最愛の人」である音楽家・トム(ノア)を紹介する流れ。未良はノアとの2人芝居を目指し1人でトム(ノア)と会えるようにアドリブで交渉したが、タクミ(陸朗)を言いくるめられず、結局陸朗の横槍は阻止できない状態で対峙することとなる。


「どうもご無沙汰しておりますタクミさん」


「やあ、久しぶりだねトムくん。最近はすっかり付き合いが悪くなっちゃって、寂しかったんだよ?」


「申し訳ありません、仕事、の方が忙しくて」


 ノアは台本の文字を追って拙い演技に努める。

 演技力が無いとは言うが、ただ設定上の人種が他のメンバーよりも近いというだけで、そもそも自分がこの“紳士キャラ”を演じるのはあまりに難題だ――ノアは舞台裏の(たつ)()へ精一杯の悪意を念じる。


「そちらの……女性、は?」


「あっ、はい!私、ミュージシャンとして活動しているハナって言います!

 まだ素人同然なんですけど、タクミさんとは少し縁があって。一流ギタリストのトムさんにどうしてもお会いしたくて無理を言ってしまい……」


「いいんですよ、そんなに、かしこまらなくても。――別に君がどういう態度で接して来ようと、どんなポテンシャルを有していようと、俺が君へ何かを与える未来はない」


 ノアは途中から台本を読む目の動きを止め、普段通りに近い口調でハナ(未良)へ告げた。


「え?私、そんなつもりで言った訳じゃ……」


「あまり意味を理解していないらしいな。じゃあとりあえず、その持ってるギターで自分の曲でも弾いてみるといい」


「わ、わかりました」


 流れ自体は劇に添い、BGMが教室に響く。


「そうだな……。てんでダメ、()()()()()()。しかし今や、重要なのは大衆の主流に乗っているか否か、それのみだ」


「そんな!私だって、いろんな人の心に響くような楽曲を作ろうと頑張ってますけど」


「そういう問題ではない。情報の単価が上がり過ぎた今、多様だったはずの情報はむしろ一元的なものへと逆行した。より少量でより不正確、なにより作為の余地を増やしたものへとな。君が紡ごうとしているような天然のサクセスストーリーは、エンタメにしたってどの大人からも求められていないだろう」


「なんですかそれ?全部貴方の天下に都合良くようになっているとでも?」


「ああ、そうだ。今や誰もが情報源として縋っている世界最大のSNSは、溢れかえっている情報を恣意的に編纂し発信することができる。国内ではまもなく“情報屋”を用いた自前のネットワークを立ち上げ、それを根拠にゼロから情報を作り上げることができるようになる」


「おいおい、なんの話をしてるんだいトムくん」


 概ね予想通りのタイミングでタクミ(陸朗)が釘を刺してきたので、ノアはそこで再び台本へ焦点を当てる。


「申し訳、ありませんが、あなたとももう終わりです。今交際している方がいまして……おーい、シオリ」


「なになに、大声で呼ばないでよ……。って、その2人、誰?」


 シオリ(真琴)の登場によって、ハナ(未良)は態度を急変させる。


「お、お母さん……!?お母さんだよね!?」


「え。もしかして……ハナ?」


「そうに決まってるでしょ!アンタ、顔も覚えてないってこと!?」


「そうよ。そんだけ成長されたら気づかなくたって無理ないでしょ?名前だって、何年ぶりに思い出したか」


 本来はここでハナ(未良)が「自分の目的は母を見返すことだ」と宣言するはずだが、彼女は沈黙して返答しない。


「……アンタ、 そのギターって父親の?もしかして、それで有名になったら家族を捨てた私を見返せるとでも思ったの?」


 痺れを切らしたシオリ(真琴)が、ハナ(未良)のセリフを交えて口に出す。


「さっき聞こえた演奏って、アンタのってことでしょ?……悪いけど、それじゃ無理ね。当然トムの足元にも及ばない。彼を近くで見ていてつくづく思うけど、音楽好きってだけで乗り越えられる世界じゃないのよ」


「違うよ……」


「は……!?」


 声を上げた真琴だけではない。壇上と舞台脇――ノア以外の出演者全員がその言葉に色めいた。


「私がここまで来たのはアンタを見返すためなんかじゃない。今は、ギター職人のお父さんを救うためでもない……」


 真琴に素っ頓狂な顔をさせたのは、あまりに台本を無視したセリフのせいか、それともその言葉そのもののせいか。

 龍生の手掛けたシナリオにおいて、ハナの動機は間違いなく母のシオリを見返すことだ。ここまでも散々台本の文字列を逸れた会話が繰り広げられてきたが、登場人物の人物像や物語の根幹となる部分へ手が加わったのは初めてのことだ。


「何言ってるんだよハナちゃん!それは、君自信を否定するのと同じことだ!」


 タクミ(陸朗)がすかさず割り込んでくる。大幅なアドリブは、例によって策の前兆だ。それを出鼻から挫く算段だろう。


「良くも悪くも、ご両親のことがあって今の君があるんだろうが!

 俺だって、これでもそんな境遇を抱えた君の面構えに賭けたんだ。君はトムやこの人に酷評されたが、敢えて言うならそれこそが君の才能だろう。もう一度よく考えろ。君にとって、何を目的とするのが正解か」


「――確かに、そんな風に割り切る気持ちは分かります。先に自分のルーツや現状を参考に判断すれば迷わずに生きていけるって」


「でもよく考えたら、そんなの諦めてるのと同じなんですよ。どんなに賢いふりをしたって、未来のことなんて誰にも分からない。分からないからとりあえず自分の気持ちに従ってみて、その意欲を原動力に努力するんだと思うんです」


 陸朗は言葉を詰まらせる。芝居だと主張する未良のそれに対し、少なくともこの場で口を挟める人間はいないようだった。

 次にハナ(未良)シオリ(真琴)の方を睨みつける。


「いい、お母さん!?私は()()()()()()()()()()()()()道を決めた!だからこれは運命なんて立派すぎるものでもなければ、かと言って好き嫌いで終わらせるような生半可な覚悟でもないの!久しぶりの再会のクセに、好き勝手言わないで!」

 

 どのみち、今の宣言は未良自身のものと見ても相違ない。なぜなら、その指針が導き出す彼女の役者論こそ、感情移入した登場人物の思考と言動に齟齬があるならば「こうするまでだ」ということなのだから――


「十分だ」


 ノアは苦笑を抑え、言い放つ。


「御託は十分だ。そうやって吠える前に、一度立ち止まって考えてみろ。そうやって言うのがシオリなりの優しさなのかもしれないぞ」


「どういう意味ですか?」


「お前の成功だって最終的にはSNSでの結果次第であって、今の立場ではそれも不可能に近い。そうなればまずそのSNSが衰退するなり、何かが取って代わるなりする必要がある訳だが、生憎それが実現されることはない。

 たとえば、()()()()()()()()()()()()。情報のローカル化が進んでいる今、地域社会へ根付く側面の強い裏社会と大胆なまでに繋がることは、通常一企業では到底備わるはずのない権力・政治力を手にする一因になった。

 そして、そのSNSはこの力を利用し()()()()()()()()()()()()()()()()()。先日久々に台頭してきた競合SNSがあるが、あれは例外的に大きい経営地盤と対抗SNSそのものを利用した大胆なステルスマーケティングがあってこそのものだ。逆にそうしてこなかった従来の新鋭SNSに関しては、強引な経営者や技術者の引き抜きはもちろん、さらなる強硬手段に出ているという話もある」


「でも、どうしてそこまでそのSNSのことに詳しいんですか?」


 客席の方で、劉が立ち上がるのが見えた。

 ――ようやく、本当の目的に気が付いたか。


「それは、俺がそのSNSの“CEO”だからだ」


 今度の作戦を最初に伝えた相手は乙丸だ。しかし、始めから劉の内通者と理解していた彼へ正確な意図を伝えるはずもあるまい。

 狙いは劉ではなく、やはり「ABY」そのもの。

 CEOのセスの立場を通じて嘘の内情を語ることで、「ABY」の過去改変を防御している原因不明の“不変”を、ノアの改変能力でも捕捉可能な因子へと上書きすることだ。

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