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VGOO(ボーゴ)〜嘘の導く並行世界渡航〜  作者: 喫痄
“情報屋”サークル編
26/59

#5 剛毅の悪魔

【前回までのあらすじ】

高慢極まりない未良の元同僚・高千穂真琴、軟派な宇宙飛行士の弟・柏葉陸朗、殆ど言葉を発さない御代龍生の3人が加入することで、“情報屋”サークル「メフィスト」が結成される。

ノアは早速3人へ嘘をつくことでキャンパス内のスキャンダルを現実に起こそうとするが失敗。3人はサークルへ希望して参加したにもかかわらず、ノアの言うことを全く信用していなかった。彼らの真意を明らかにするため、ノアはサークルの「歓迎会」を嘘能力によって開催させた。

 「サークルの歓迎会を既に用意している」。

 ノアにしては珍しいことに自分の行動が過去改変の対象となる嘘だったが、今度の場合その限りではなかった。


「あ!遅いですよ部長!」


 招集場所は、どういうわけか「メフィスト」アジトから然程離れていないファミリーレストラン。

 陸朗(ろくろう)の声に誘われて、4人が集まっているテーブルへと足を運ぶ。ノアへ空けられていた通路側の席には真正面に()(こと)がいて、居心地悪そうにスマートフォンに向き合っている。横に(たつ)()未良(みら)と並び、こちらの隣が陸朗。詳しい経緯を聞くほどのことでもないが、無作為に決まった席でないことは予測がつく。

 

「遅すぎ。1人で何してたって言うの?」


「まあまあ、ノアくんもまだみんなにやることの全部を引き継げだ訳じゃないから……」


 真琴の発言自体は単に性格故のものかもしれないが、こちらを信用していないという結果だけは明らかで、だからこそノアには真実を偽る必要がある。

 それに際して未良が庇うのはこの間で密かにチャットで伝えた段取りの通り。不意な能力の発動を避ける為だ。

 ただそれに対して真琴がこちらをうっすらと睨んでいる辺り、彼女から言葉だけで信用を勝ち取るのは難しいと再確認する。

 その一方で、ノアは未良からも気にかかる視線を感じていた。これまでにあまり向けられた覚えのないもの――憐れみ、といったところだ。


 未良へは既に伝えているが、ノアの歓迎会前の用事とは“般若街”でパソコンを確認し、自身の行動の変化を検証することだった。

 結論として、今回の歓迎会を設けたのはノアではないらしい。正確な経緯は、キャンパスで会う(なつ)()の提案が後押しして、未良が店を予約したということのようだ。

 いくら過去を改変したところで、その当時の人間の性格は変わらず、各々が取る行動には制限がある。未良の表情は、ノアが自分で歓迎会の開催を決めるということを能力に否定されたことに対してだろう。


 しかし、ノアはそれを気に留めていない。ここで確認できた“現象”は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(みや)()()(おん)と確認を取ったが、調査はあまり順調じゃないみたいだ。ただ情報筋としては大方間違いなく、沖宗(おきむね)は例の社長の不倫相手だ。彼女頼りになる以上は仕方ないが、今回は『サク』に先を越されるかもしれない」


 ノアはあたかも麗音との連絡に時間を費やしていたという体裁を取り、小声で語った。

 3人の「ABY(アビー)」を確認しても、今回の対象となった沖宗(おきむね)結乃(ゆの)との接点は見られない。私情で彼女へ信頼を寄せている風でもないということだ。

 こうなれば、彼らの信用を得る為にもこの情報について後へ引く訳にはいかない。この“最終確認”が通じなければ、「サク」でこれを発信し、“事前に情報を握っていた”ということをアピールする。

 信用を獲得し本命の過去改変を押し通すため、別の事項で間接的にでも自分の言葉の正当性を証明する――相手が味方となる今回もそのやり方に変わりはない。


「まあ、これ以上はやめておこう。ここは公共の場だから、基本的に“情報屋”関連の話題は禁止にしておく。

 じゃあ“企画者兼幹事”の牙隈(きばくま)未良さん、音頭を」


「あ!この人、正史だからって……」


 ノアは生意気にも人の生き方を憂いて来た未良へしっかりと仕返しをして、無表情のままコップを手に取った。


「えっと……。みなさんとはまだ打ち解けられてないと思いますし、せっかくなら活動外でも仲良くなれたらなと思って開催しました。高校生に合わせた店で申し訳ないですけど、今回はたくさん楽しんでください――それじゃあ、乾杯」


「かんぱーい!」


 声を張り上げたのは陸朗1人。他は振りだけやって見せたり、完全に無視していたりといった様子だ。


「なんか重いな、想像は付いてたけどさ」


「仕方ない。信頼関係というのは、お互いが手の内を明かさない限りはあり得ない。俺の方からも働きかけが足りなかったかもしれないな」


「謙虚になってるところアレですけど、ノアさん乾杯の時仏頂面で眺めてただけでしたよね」


 陸朗の言葉を聞き流して、ノアは腕を組んだ。


「こんな機会だからこそ扱ってメリットの増える話題がある。『メフィスト』、それも演劇サークルとしての活動の問題だ」


「演劇サークルとして、ですか?別に誰に見られるってわけでもないのに煮詰める必要あります?」


「誰に見られる訳でもない、と誰が言った?前も言ったが、“情報屋”としてのネットワークを広げる為、サークルとして学内での存在感を高める必要もある。というか、俺たちが自分で出来ることの中では最も比重を置くべき要素かもしれない」


「わざわざ表向きの活動目的を作ってるんだから、意味はあるって方がまだ理解はできるわ」


 真琴はコップへ手を付けないまま、足を組んで話す。


「でも、いずれ『サク』に対抗したいって話じゃないの?そんな奴らが片手間って変でしょ」


「着地点はともかく、今のところはどちらかが先行し過ぎるのは望ましくないな。大学に目を付けられない為の名目があって、学生が『ABY』や『イカロス』あたりで噂にする程度なら“情報屋”としては十分。軌道に乗るまでは仕方ない」


「はあ。結局、演劇もやらなくちゃいけないってこと?……だるっ」


「でも『メフィスト』って、立ち上げたばかりの非公認サークルですよね?それが短期間で認知されるのって、簡単じゃないと思いますけど」


「そうだな。お前は何か考えてるのか、未良?」


「え、私ですか?」


「当たり前でしょ。どうせこのサークルだってアンタが提案して演劇でってことになったんでしょ?紛いなりにもプロなんだから仕切ってるつもりで考えてよ」


「そ、そうですね……。でも大前提、ありきたりな劇をやってるだけじゃダメだと思います。人も少ないからクオリティ面での制限も多いですし、それを逆手に取るアイデアが無いと難しいですよね」


 未良は首を捻って考えている。


「だとしたらアリモノの題材じゃなくて、創作で勝負しないと。オリジナル映画を撮るとか。何をするにしても、話を作る人が必要になりますけど……」


 その瞬間、腰の方から着信音が耳に届く。スマートフォンを取り出して確認すると、呼び出しているのは乙丸(おとまる)だった。

 監視カメラこそ取り付けられないが、今回も各々のスマートフォンのハッキングを通して3人の監視自体は続けている。同時に音声も送っているので、彼はこちらの会話の流れを知っていて連絡してきたということだ。

 ノアは皆に一言断って店の外へ出る。


「こんばんは、歓迎会は楽しんでる?」


「冗談言うな。今、直接話さなきゃいけないことなのか?」


「作劇に困ってるって話の流れだったからさ」


「俺が能力持ってるの忘れたのか?そんなの誰かに嘘でも吐いてどうにかするって」


「あの()(しろ)龍生って人に聞いてみてよ。どこかで見覚えがあると思ってたんだけど、たった今思い出したんだ――」



「……本当だよ!本当に見たんだって!」


 ノアがいない間の席も全体として辛気臭いことに変わりはなかったようだが、陸朗と未良の会話だけはそれなりに中身を伴っているらしい。


「えー?私も知ってますけど、いくらなんでも嘘っぽいですよ、それ?」


 未良もここに来るまでは警戒していた様子だったが、彼に対するぎこちない表情も解消されているように映る。

 ボジティブで穿った見方に固執するようでもなく、彼の信奉する「サク」に対抗するとはいえ「メフィスト」の動きに反抗的な様子もない。だからこそこの3人の中で、“こちらを信用していない”という事実について最もその真意が読めないのは、間違いなくこの陸朗だ。


「おい、御代?」


 ノアは席につくやいなや、龍生に声を掛ける。


「……何だ?」


「お前、話書けるだろ。同人誌……描いてるとか」


「え?」


 驚いた未良は隣の龍生を顔を凝視する。龍生の方もそれほど大袈裟ではないものの、目の色は変えたのが見て分かった。


「本当なんですか?ちなみに何の?」


「今は大体『魔球少女ルパン』、だけど」


「えー!ほんとですか!私この前アニメ一気見しましたよ!」


 未良は体ごと隣の方へ捻って素直に興奮している。

 そういえば、未良はクラプロのオーディションに向けてアニメを見て“勉強した”、と言っていた。


「『魔球少女ルパン』?なにその要素の多いタイトルは」


「トンデモ女子野球漫画『魔球少女』シリーズの中でも異彩を放つ名作ですよ!シリーズでは唯一主人公がピッチャーじゃなくてファーストを守ってる作品で、ピッチャーの球を自分のグローブに転送する能力を駆使して相手を隠し球でアウトにするという意欲作!」


「あ、もう大丈夫。理解するのに時間かかりそうだから」


 陸朗には歓迎会を歓迎会として盛り上げたい思惑もあるのだろうが、この時だけは話題にするのを諦めたようだ。


「でも、有名なら私たちの即戦力ですよね!『ABY』のフォロワーだって結構――」


「何その言い方。私への当て付け?」


「あ、そういうことではなくてですね……」


 未良は顔を引き攣らせている。

 こちらが考えている以上に2人の溝は深い。真琴自体の態度はある意味普遍的なようにも見えるが、未良の方が彼女を特別警戒視しているあたりに、何らかの要因はありそうだ。彼女が未良の“従兄妹”としてノアを感知した時点で信用に幾らかの悪影響があったとすれば、最も過去改変を阻止された理由を理解し易そうなのはこの真琴だろう。


「別に僕、漫画家として有名というわけではないよ」


 険悪な雰囲気へ割り込むように龍生は言う。


「というか、部長はどうして知ってる?」


「本当に、どうして知ってるんだろうな……」


 ノアは「乙丸は」の文言までは口に出さずに呟いた。

 

「ちなみに、今見ることって出来ますか?スマホに保存されてるのとか」


「ああ、一応あるよ」


 真琴以外の全員が龍生のスマートフォンを覗き込んだ。二次創作で元の題材を知らないため、話の内容はひとまず飛ばして作画だけに目をやっていく。

 龍生は謙っているが、決して技能不足という印象はない。彼とて大学3年の若者だが、むしろ経験値のようなものを感じさせる出来だ。


「これ、もしかしてアナログか?俺も少しは漫画を読むけど、きょうび同人誌でアナログって、かなり凝ってる方なんじゃないか?」


「ああ、そう言ってくれるのは嬉しいよ」


 龍生はノアの方へ真っ直ぐな視線を向ける。


「子供の頃、親戚の漫画家にペンのお下がりを渡されたのが始まりだったんだ。そこから憧れ半分で使っていたら、高校生の頃人に褒められて。それから本格的に始めたから、こっちの方が慣れてるし、手放せなくてね」


 そこまで話すと龍生は初めて朗らかな笑顔をこちらへ見せてきた。

 確信する――龍生の無口は人見知りなだけで、こちらから呼び水を出してやればそれなりに好意的な反応も見せてくる。しかしノアの嘘を拒んだ理由を知るという意味では、まるで真反対の方向へ素顔を覗かせてきたことにも間違いはない。


「でも実際、結構上手いですよね、野球のシーンにも動きに迫力もあって。これで売れないってどれだけ厳しい世界なの?って思っちゃうくらいには」


「うん。()()()()()()()()()()()()()()、俺も読んでみたいです」


「――あのさ、なんでもいいんだけど」


 場が活気付いていたことに気付くのは、得てしてそれが終わりを迎えた瞬間だ。

 真琴の冷たく尖った一言を耳にして、空気は静まり返る。


「いいの?御代は。このサークルで話書くつもりあるの?」


「ああ、まあね。任されたらそれなりにはやってみるさ」


「……あっそ」


 真琴はこちらを特に見向きもしない。


「ならいいんじゃない、他に適役もいないし」


 真琴はスマートフォンを眺めながら言った。

 いつの間にかドリンクバーのジュースにも手を付けたらしいが、今やそれもこちらへ興味がないということの証左でしかない。


「助かります、龍生さん!それで、やっぱり目標は発表になりますよね」


 未良が身を乗り出す。


「ノアくん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 得意げな顔でこちらの方を見下ろす未良。

 ノアには彼女が何を考えているか、全て想像が付く。要するにこれは演劇部門を押し付けた更なる当て付け、ノアがやりそうな事の先手を行って優位に立とうとしているのだ。


「ああ、大学の学年暦か?さっき3人にも、何かしらの形ですぐ確認できるように用意しておけと言っておいた」


「……え?」


「ああ、それでですか!どの辺でデビューするか、ってのを決めるんスね?」


 陸朗は紙のカレンダーを取り出して見せる。他の2人も、スマートフォンで確認できる状態にしているようだ。

 未良が目を丸くさせているのを見て、ノアは彼女に分かるように鼻を鳴らす。

 ――これが用意周到ということだ。


「え、えっと……。舞台か映像かは龍生さんのアイデアに合わせるって感じでも間に合うとして。こうして見ると発表の目安は来月のオープンキャンパスってところですかね?」


「未良さ、アンタ高校生なんだから適当に同級生呼び込めるんじゃないの?所詮サークルでやってることなんて口コミの拡散力じゃたかが知れてるし、そういうので確実に数字出さないと注目度上がんないよ」


 真琴の普段通りの怒ったような声が、未良の体を震わせる。


「マコ――先輩も、自分のフォロワー使えばいいんじゃないですか?」


「イヤ。今そういうのはやらないって話だったでしょ?てか私、未良にファンを使えって言ってないし。同じことじゃないから」


「まあ、それはそうなんですけど……」


 陸朗も意外に退き際を理解しているらしく、自分が流れ弾を食らわないように真琴を躱し始めている。


「えっと……その。私二足の草鞋だし、あまり学校に知り合いもいないから……。あまり期待できないと思います」


 一方の未良に、そういった要領の良さはない。愛のない言葉を一心に受ければ萎縮を隠す余裕もないようで、小さな声で応じる。


「忙しくないって言ってたじゃん。草鞋って女子高生と女優のこと?それで言うならここで三足目じゃないの?」


「それは……」


「アンタ、昔っからそんな感じだよね、最早七光ですらないわ。ポジショントークばっかで肝心の中身はなにもない。何?芸能人の肩書きにしがみついてないとプライドが保たないってワケ?くだらない。てか時代錯誤でしょ、それ」


 陸朗がテーブルから身を乗り出して、反対側で突き刺すように睨んでいる真琴の視界から未良を遮断させる。


「ちょっと先輩、毎度のことながら言い過ぎでしょうが!」


「は?言っていい限度なんて誰が決めたの?お前?お前に従う義理無いし」


「おい、(たか)千穂(ちほ)真琴」


 ここでノアが口を開く。


「何?いきなりフルネームで」


「最低限協力的な態度は取れと言わなかったか」


「……あー、そうでしたね。謝るつもりないけど」


「構わない、こちらも謝罪を求めるつもりはないからな。ただひとつだけ聞きたいことがある――そんなことを未良に言ってどうしたいんだ?」


 真琴は表情を変えずにソファにもたれかかる。


「どういう意味?」


「他人のことだろ?興味がないなら放っておけばいい。わざわざ角の立つことを丁寧に指摘してやるというのは、どういう心境から来た行動なのかと思ってな」


「なにそれ。私が未良にコンプレックスを抱えてるとでも言いたいの?」


 真琴は一度嘆息し、僅かに顔が険しくなったように映る。


「それってそっちの最もらしい理屈に当て嵌めてみただけでしょ。勝手な妄想で知将ぶんないで貰える?」


 真琴はこちらの至近距離へ顔を寄せて、ゆっくりと続ける。


「未良に聞けばわかると思うけど、これが私だから。気に入らないものは気に入らないってハッキリ言う。アンタはどうせそれにもメリットだデメリットだと喚くんだろうけど、そんなことは私に関係ないの。私の態度が敵を作るとして、私を脅かすのは所詮他人。そして、周囲に媚びたところで代わりに手を貸してくる奴も所詮他人なの。全て偶然の要素。信用に値しないし価値も理解できない」


「……なるほど。大いに参考になったよ」


 ノアは身を逸らして近付いた真琴から距離を取る。

 するとそれを見た真琴は、僅かに笑みを溢した。


「へえ、そっか。アンタって童貞?」


「何の話だ」


「イエスかノーで答えろって。それ答え合わせだから」


「……その言い草で喧嘩すら売っていないつもりか?」


「はっ、ちょっと意外だったから言ってみただけ。でもこう考えた方が色々腑に落ちちゃうものね。シスコンだからって、結論として“コレ”に誑し込まれてるわけだから。……ああ、従兄妹でもシスコンで意味通ってる?」


 真琴は(おもむろ)に立ち上がるとノアの脇に立って、こちらを見下ろしてくる。


「ああ、それと今のは喧嘩、売ってるから。久しぶりに本気で腹立ったんで」


 真琴はノアの座る椅子の足を蹴った後、顎を掴んで自分の方へ寄せる。


「そうだ、サービスで名前で呼んであげるよ、()()。ああ、でも童貞が女子から名前で呼ばれたからって余計な()()、私に報告してこないでよ」


 ノアを頭ごと元の席へ振り落とした真琴は、踵を返していち早く店を後にした。



「――ノアくん、真琴さんは本当にああいう人ですから」


「ああ、大体理解できたよ」


 歓迎会はまもなく解散になり、2人は“般若街”のアジトへ引き返し乙丸と合流していた。


「良かったねノア、下の名前で呼ばれて。フラグだよこれは」


「またお前は、他人事だと思って……」


「はは、確かにデレらしいデレもないしね。ちょっと『ABY』を調べてみたんだけど、現役時代だって世間からあの性格が滲み出てたらしいよ。ヤンキーキャラとか腹黒キャラとか言って」


 未良は先ほどの会話が相当な負担になったようで、俯いたまま椅子に腰掛けている。


「その……やっぱり私、あの人はちょっと苦手というか。どうにも嫌われてるみたいで……」


「それこそ、奴の性格上分からないだろ。……怒ったら“アレ”なんだから、普段は素であの口調と態度なんだろう。割り切って聴き流すしかない」


 それでも俯いたままの未良を見て、ノアは淡々と続ける。


「もっとも、お前が辛いと言うなら強要はしない。そもそもお前が望んでここにいるんだから、出ていくのも自由だ」


「それはいやです!」


 未良は慌てて顔を上げる。


「私、残ります。私自身の不甲斐なさですし、認めてもらえるように頑張ればいいだけですもんね!」


「そうか」


 ノアは目を合わせずに小さく答えた。

 ――何も変わっていない。

 ノアは真琴に伝えた通りだ――何のメリットもない状況で、敢えて角の立つことを言うつもりはない。

 だから未良にも伝えていないだけ。

 少なくとも真琴の言う未良の習性については、ノアが密かに感じてきたことと何ひとつ相違がなかった。

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