#10 邪を知るもの
【前回までのあらすじ】
「サク」の協力者・越智乙丸の提案で、「ABY」との繋がりが疑われる企業として声優事務所の「クライス・プロダクション」(クラプロ)に目を付けるノアと未良。嘘投稿により研修生の追加オーディションを開催させるよう仕向け、未良がそれに参加した。オーディションに関してノアは隠しカメラから中継するだけで特に干渉せず、その間に以前から動向を気にしていた「アビー・シーカーズ」と接触し、内情を探っていた。未良が無事オーディションに合格しレッスン生になる一方、その潜入は過去改変の影響で、探偵兼“情報屋”である渥美駆真の関与を許した。
ノアを「サク」の正体だと疑う彼がクラプロを探る目的は、突如記憶障害を起こし、それを機に勝手に会社を離れ全く別の場所で全く別の人生を送り始める――“離隔”と称する奇妙な現象の調査だった。ノアは駆真と共に主な被害者から話を聞くが、その中で浮上したのがノアとは幼馴染で現役声優の囀きりかだった。部下・宮尾麗音を引き連れてきりかから強引に情報を取ろうとする駆真を避けつつ、ノアはきりかと二人で事情を聞く機会を得る。しかし、彼女からかつて自分が嘘で誤って消失させてしまったはずの同級生・涼霜壮の名を語る男の写真を見せられ、“離隔”への関与を知り動揺する。
ノアは未良へ、“離隔”被害者の内クラプロへ潜んでいたという公安の正体がアイダホ・タチであると説明したのち、共に“般若街”のアジトへと引き返す。その際に、ノアは未良へと自分の体験した8年前の過去について語った。
未良が初めて訪問してきたとき、アジトにある椅子はノアのデスクに置かれたものだけだった。しかし最近は度々人が出入りするようになったので、デスクの背後に円卓と、それを囲う客人用の椅子2つを調達してある。ノアがアジトへ入ると、先に戻っていた未良はそのうちの1つに腰掛けて待っていて、ノアも自身のデスクに着いたあとで、椅子を回転させ未良へ向かい合う。
「さて、じゃあ続きから話すか」
「あれ、乙丸さんは?」
未良は隣の椅子に目をやって言う。
「用事があるらしくて、今日は欠席だ。まあ奴自身の仕事には然程支障のない話だから、わざわざ嘘を使ってまで呼び寄せる必要もない」
ノアはそこまで言うと一呼吸して足を組み、ゆっくりと話し始める。
「きりかの証言を振り返るが、見立て通り『ABY』とクラプロには関係があり、NFT売買の費用を『ABY』が負担することで無償での転載を認められていた。将来報道へ手を出したい『ABY』との利害が一致したんだろう」
「……最初に探ってた方は、随分あっさり解決しちゃいましたね」
「まあ、きりかが関与していることは事前に予想がつかなかったからな。“離隔”という明確なテーマがあり、俺たちの関わる前から駆真の調査が円滑に進んでいたことも大きい」
「『ABY』が特定の企業を贔屓してたってことは、信用を欠く弱みってことになりますよね。きりかさんの証言を『サク』名義で発信すればそれに近づくと思うんですけど。それでもまだ、クラプロの件で動くことがあるんですか?」
「好感度の下がることがあっても、今の普及度を考えると致命的ではない。それに、それが芸能事務所では大衆にとって対岸の火事でしかない。そういう意味でも、今度の例は俺の本命ではなかった」
「芸能事務所といっても、クラプロがやってたのはニュースの“まとめ”でしょ?情報の仕入れ方に公表していない企業が絡んでたなんて、なんだか良くない気がしますけど……」
「当然、クラプロのイメージには良くないだろう。しかし、少なくとも現行犯で偏向報道がされている証拠はないし、公表さえすれば報道番組とスポンサーの関係に変わりはない。バラしたところで『ABY』には、株価の落ちたクラプロを買収するシナリオも用意しているだろう。『ABY』の狙いは『ポスト・メディア』で、報道の空席に関しては自分達が担うことこそ奴らの本懐だ。もしかしたら、ノウハウや知名度が成熟した後で番組ごと取り込むことも想定して、クラプロを誘惑したのかもしれない」
そして考えるに、「ABY」が密かにクラプロを直接支援している理由は、中でも理想的な状況を想定してのこと。「ABY」取材部が主導となって報道を担うための隠れ蓑、“フィルター”としてクラプロを利用することだったからだろう。
拡散機能がないことを筆頭に、投稿を表示するメカニズムが伏せられている「ABY」において(その時点で運営側がユーザーへ一定の影響を与えたいという思惑も見え隠れはしているが)、実際に取材部が「ABY」の中で本営の名を騙って投稿を選定したり引用したりする行為は、場合によってはユーザーからの信用を失うことに繋がりかねない。それは例えば、明確に「ABY」やその他系列の企業の利益に偏った報道をするとき。その際にクラプロという公の利害がない企業が“フィルター”となれば、「公平な報道」についてソースを「ABY」が用意し、自らの手で自由に編纂することが可能になる。
「ABY」の狙いが「ポスト・メディア」であるのは、かつて「サク」へ契約の打診をした際に彼ら自身が語っていたこと。そんな彼らが取材部の存在を伏せて世間に「ポスト・メディア」の狙いを隠しているのは、その言葉がかつてのマスメディアの代役というより、情報の発信源を一元化することによる特権――自分たちの利害に基づいた自在な情報操作を可能にする権限を指しているからに他ならない。
このように未良の指摘する通り今回のクラプロと「ABY」には確かな悪意が渦巻いてはいる一方、取材部の存在も知らない大衆には衝撃を与えづらいのが現状だった。
「じゃあ、骨折り損ってことですか……?」
「いや、収穫はある。それで……」
そこまでいうと居心地が悪くなって、ノアは目線を頭ごと逸らして続ける。
「お前にも、まあそれなりに役に立って貰ったからな。説明しなければ余計な手間も省けるが、今回は一応、お前も全貌を理解するチャンスを与えたってことだ」
「何で照れてるのかよく分からないんですけど……。それに、チャンスっていうのは?」
「単刀直入に言うと、俺がさっき言った『公安の正体がアイダホ・タチだ』って話、あれは嘘だ」
「は、はい!?何でそんな嘘を?“離隔”と関係ないんじゃなかったんですか?」
「普通に考えて、関係もないことをお前に報告しておくわけないだろ」
「というか、また私を使ったんですか!?ノアくん、私をハッタリパワー使うのに都合の良い道具だと思ってるでしょ!」
「否定はしないな」
ノアは何か言いたげな未良を手で制止して続ける。
「今回の場合は少し勝手が違う。『嘘だ』というネタバラシが能力の発動について無効なのは話した通り。つまり、今の世界において、“離隔”の真実は改変された望ましい形のままなんだ。もし元の真相を俺が語れば、お前がそれを信じる事で改変が起き、元に近い形へと戻ってしまう。だからお前へ嘘をついた。俺以外ではお前だけが今、元の事実関係を聞かされた記憶を持ちつつ、改変後の状況を生きている。真実に自力で気付く条件を揃えている。チャンスというのはそういう意味だ」
「わ、私だけ……」
未良は体を震わせながらも、目を輝かせていた。
「で、でもそんなの分かるわけありませんよ!アイダホさんってことで納得しちゃいましたし……」
「大丈夫だ、能力が勝手に発動しない程度に思考の補助はする。それと、そろそろ来る奴もお前の助っ人になるだろう」
すると、ドアを開けてアジトへ顔を見せる者がいた。
「やあ、ノア。君が『ABY』の全貌を掴みかけていると聞いたから、飛んできたよ」
その姿を見て未良が凍り付くのも仕方がない。
入って来るのは、渥美駆真の助手であった宮尾麗音。当然、それがアジトへ侵入する危険性も未良は理解している。
「お、未良もいるんだね。どうしたんだい、少し体が強張っているようだけど」
「牙隈、宮尾は俺の味方の“情報屋”で、『サク』の脅威になる渥美駆真の動きを監視させているんだ。お前が握ってる“離隔”事件の概要を紐解くには役に立つんじゃないか」
「あの、その……。はい、そうですよね……」
未良は、何が起きているのかは理解している。しかし、やはり平静を装うのに苦労しているようだ。
ノアが先ほどまで訪れていたのは、駆真と初めて顔を合わせたバーだった。その店主の桃木は、「ノアが駆真を『サク』として疑っている」という状況のみを聞かされている。それを利用し、引き続き駆真を調べている風を装い、「内部の宮尾麗音がスパイとして潜入している」と嘘を伝えてそれを実現させた(未良は桃木から詮索されないよう、その会話をスマートフォンを通して遠隔で耳にしていた)。
無論、未良への助っ人としてのみの目的で麗音を味方にしたわけではない。先日の取調べに木鋤唯の偽物として参加したことから、駆真の疑いが麗音にも向いていたことはノアも理解していた。しかし嫌疑の晴れたそれ以降、彼女は誰よりも駆真からの信用を得ている。そうなれば、ノアがそのタイミングを隠れ蓑として利用しない手はない。
駆真に関して、ノアの中では一定の推察があって、それを検証せずに彼を直接味方に引き込むのは得策ではない。その上で優位でいる為の選択肢が宮尾麗音、ということだ。
「……宮尾、一応牙隈に駆真のことを教えてやれ」
過去改変を起こす嘘の言霊こそないが、この言い回しはノア自身が情報を得る為の方便だ。乙丸のときと違って真相を明かさないのは、麗音のことを測りかねているからに他ならない。“高校時代の同級生”のように簡単には揺るがない背景もない彼女に対し、「諜報活動が嘘によるもので、実際の過去では正真正銘駆真の助手だった」と無遠慮に説明してしまうと、寝返る可能性も否定はできない。
「ん?ああ、彼は“情報屋”として、『ABY』と情報提供の契約を結んでいるんだ。『ABY』は『ポスト・メディア』制覇の為に取材部という部署を秘密裏に新設していてね。何百人もの“情報屋”による情報網が既に形成されていて、名目は報道の為のツールとしたいらしい。まあ今のところ、邪魔な『サク』の足取りを辿るだけの組織だけど」
概ねは想像の範疇だった。駆真が見せる「サク」に対する抜かりのない注意は、自らの野心や“離隔”の実行犯故の意識とも考えられたが、取材部の後ろ盾があるのであれば彼のスタンスにも納得がいく。
「しかしそんな奴に、まさか正体どころか能力まで暴かれかけているとはな……」
「能力だって?私は駆真のそんな様子見たことがないけど」
「奴は俺に公安が誰か当てさせようとしていた。考えすぎでなければ、あの取調べの狙いのひとつが、俺にあの場で能力を発動させることだ。しかし、そこまで真相に近付いているとしたら、あの場面で俺がハッタリを言うわけにはいかない。俺を『サク』だとする確信の度合いによっては、改変を逃れる恐れがある。そうすれば即刻詰みだ」
「なるほど、一度のチャンスから何重もの仕掛けを用意して複数の可能性を同時に検証していたとは。流石は渥美駆真といったところかな」
「それはいいですけど、私が気付かなきゃいけないって話ですよ!ノアくんの言ったことが本当なら、麗音さんも元公安の正体はアイダホさんだと思ってるんですよね?」
「何だって?まさか、違うのかい?」
「はい、一応私の持ってる記憶を一通り説明しておきますけど――」
未良は隣に座った麗音へ、駆真から聞かされていた取調べの内容を説明していく。
ノアはその間に、また椅子を回転させてパソコンの活動誌を確認する。麗音との関係は桃木へ不自然にならない程度に指定したが、念の為彼女の危険性を把握しておく必要はある。
そしてもうひとつは、「サク」としての投稿を予約しておくこと。これはノアによる具体的な攻撃策になるものだ。
「うん、一応私の体験したものと変わらないと思うけど。まあ当然か、その状況を元に組み立てたのが未良へ説明したノアの嘘なんだから」
「そうですよね!それで嘘って言われても、今更何が違うのかなんて……」
「矛盾を探すより、アイダホ・タチが元公安であるとお前が納得した理由を考えた方がいいな」
2人から背を向けて、ノアは助け舟の言葉を吐き捨てる。
「記録の消されたスマホが発見された時期に、『イカロス』のアリバイ、あとはハッタリパワーの実験が成功したのが決定的だって…」
「そうだね。『イカロス』は直接的でこそないけど、木鋤さんの可能性を消すことに対しては特に反論もない。どのみち『イカロス』に証拠が揃っているなら、疑うのは最後で構わないからね。そうなると、ひとまずノアの検証が問題になるかな……」
「答えだけは俺の口から伝えておくが、嘘の実験については結果が本当でも導き出される結論を偽ったんだ。……それは今の本筋の話ではなくて、“離隔”の手口を推測させるだけのものだがな」
「えっと、『声優のアイダホ・タチさんが今は記憶を失って別の仕事をしている』と松波夏海さんにチャットで伝えて。それが嘘になったってことは、本当は記憶を失っていなかった――“離隔”が偽装だったって話でしたよね。これが、“離隔”の手口と何の関係があるんですか?」
「……順を追って考えよう。嘘だ、という答えは既に得ている。ノアが松波夏海へ送った文章の何が偽りだったのか……」
「夏海さんとやり取りしている途中でアイダホさんの『ABY』の画面やバーチャル背景は変わった。嘘で過去が変わったってこと自体は、嘘じゃないんですよね?」
ノアはマウスの手の動きを止める。
「そこだ。夏海へ送った文章に、嘘と言える部分はなかったんだ。だからこそ、あれは“実験”だった。それが嘘になった――逆に言えば、その文章はあの“館平仁”にとって、異なる過去に該当したということだ」
「まさか……」
麗音は狼狽する。
「この“離隔”という奇妙な現象から予測出来なかったわけじゃない。ノアもそれが引っかかっていて、検証したところ当たりを引いてしまった、ということなんだね」
「あの、一体……」
「つまり、“離隔”は対象者の過去ごと塗り変えている。被害者はその反動からか記憶を失うが、あたかも自らの過去に則っているかのように、“慣性”で別の人生を送りだす――これなら辻褄が合うだろう?」
「え、ええ!?そうなんですかノアくん!?」
「仮にそんなことが可能なら、手口も最早何でもありだな。駆真が敷いた幾つもの保険程度じゃ、足がつくはずもない」
ノアは断定しないよう客観的な物言いを保っているが、ここでは否定しないことがその答えに等しいということを、未良も麗音も理解できているようだ。
「これは本当に俺の仮説だが、これまでやってきた過去改変の中でも、突飛で異質だったのは涼霜壮の消失と出現だけだ。俺はこの原因を奴が能力者だからだ、と考えている。恐らく、奴が能力を宿したという事実は、幾多の可能性が存在した歴史の中でも一定の確定性を有している。だから“あの時”の嘘が不在を仄めかす程度の軽いものでも、適用するには壮の存在ごと消去するしかなかったんだと。そして多分、その仕組みは俺にも当てはまる。もし俺がこの口で、やってきたことや『サク』を否定すれば――」
そこまで話して二人が神妙な雰囲気を醸し出していることに気付くと、ノアは咳払いをする。
「と、そんな話じゃなかったな。結局のところ、アイダホ・タチを公安と断定する要素はないということだ。まあ俺が被験者として彼を選んでいる時点で、彼への疑いを改めて語る必要がないことは分かるだろうが」
「……ああ。再検討すべきなのは囀きりかの元マネージャー・八鍬大紀か、囀きりかと親しかった先輩の声優、吉木沙李奈。二人が候補から除外された理由は、スマホの発見と“離隔”の時系列だったね」
「この二人はスマホが発見される前に“離隔”に遭った人でしたよね。でも、そしたら記録が消されてるのは……」
「まずは余計な前提を疑うんだ。そいつは元々工作員としてそこにいるんだ、どんな搦手もあり得ると思え。逆に考えて、“離隔”後にスマホの記録を消すとしたら、どういう状況があり得ると思う?」
「……そっか、分かりました!もし記憶が維持されていたとしたら?」
「未良、どういうこと?」
「これはノアくんの嘘でしたけど、スマホを紛失した後に会社から消えたアイダホ・タチさんは、結局“離隔”に見せかけて記憶を失っていなかったって論理でしたよね?それで思い付いたんですよ。公安の人が“離隔”に偽装して組織を離れたって可能性をはじめから当てはめれば、そもそもスマホの紛失と“離隔”の時系列には何の関係もないってことです!どうですかノアくん?」
「ああ、俺もそう考えている。自分の記憶さえ残っているなら、スマホのデータなんていつだって消去できる。それ以前に“離隔”の被害にあったという二人も公安の候補に上がるだろうな」
「でも、何故そんなことを?八鍬と吉木はそれぞれ“離隔”の1件目と2件目だろう?どちらも、事件に紛れようとするには違和感のあるタイミングだ。そもそも、普通に“離隔”なんてせずに退職・退所した方が目立たずに済む」
「えっと、アイダホさんに公安の疑いを向けさせる為、とか?」
「誰に対してだい?まず、『公安がいるかもしれない』と思わない限り、他人に向くような疑惑はそもそも無い。しかし問題なのはスマホのデータが削除されていることで、知らしめるどころか事実を隠そうとしている。公安警察の関与は、駆真が調査して初めて明らかになった事実のはずだ」
「ノアくん、これってどういうことなんですか?」
「四人を比較しただけではこの矛盾を解消することはできないだろう。そもそも公安がクラプロへ潜入した狙いについて、ここも前提を覆してみれば自ずと理解できるはずだ」
「私たちと似たような着眼点――じゃないってことですよね。うーん、流石に情報が少なすぎて……」
「……いや、そういうことか。私は少し話が読めてきたよ」
宮尾が何か思い当たったのを受けて、ノアは活動誌の確認を終え、再び二人の方を向く。
「なるほど、渥美駆真から話を聞いたのか」
「まあ、陰謀論くらいに受け止めていたけどね。でも、もしこれが本当なら、彼の目的がどこにあるかも明白に見えてくる」
「あのー、一体どういう話ですか……?」
「概要は話したよな、“離隔”の主犯は恐らく涼霜壮。問題は奴を俺が過去改変で消したはずが、どういう訳か舞い戻って来ていることだと。まずは何故奴が復活したか、俺のついた“どの嘘”がそれを引き起こしたのかということから考えてみるんだ。俺は定期的に活動誌と記憶との違いを照合しているから、この場合考えられる嘘は精々2つ。1つ目はクラプロに“情報屋”のリークがあって春からの研修生が総辞退、急遽追加オーディションを実施するだろう――という嘘。2つ目はその直後投稿した、『アビー・シーカーズ』が『サク』に対して接触を図ったという嘘だ」
「能力が辻褄合わせをするプロセスを考えれば、そのどちらかの嘘を成立させるのに、涼霜壮の存在が必要不可欠になったから復活した、ということになるよな」
「なら、クラプロの方じゃありませんか?クラプロで起きてる“離隔”の原因として涼霜壮さんが浮上したんですよね。レッスン生の辞退が“離隔”として説明付けられてる訳だし」
「正直、辞退の件を“離隔”とするのが辻褄を合わせたことになるかと言うと、違和感がある。それに涼霜壮がシーカーズとの接触を契機に囀きりかに接近したことを考えると、後者も看過はできないとは思うけど」
「確かにそうですけど、ノアくんの嘘がどうはたらくか、なんて神のみぞ知るところですし。涼霜さんがクラプロに目を付けた理由があるなら分かりますけど……」
「理由ならあるだろう。そこには“笠井希理花”がいて、“架殻木ノア”も潜入を図っていたんだからな」
「え?じゃあノアくん、今回の件で幼馴染のみんなが集まったのは偶然じゃないって言うんですか……!?」
「そうだ。今回の件、元は自然に形成されていた物事の流れに、壮という存在が捩じ込まれたことで歪みが生まれた――と考えた方が自然だ。再三言うが、過去改変の余波が“離隔”ほど激しい振幅を見せたのは、壮を消した8年前以来だ。お前の考えにも一理あるが、『神のみぞ知る』と結論付けるより、その違和感に拘った方が賢明だと俺は思う」
「つまり涼霜壮は、『アビー・シーカーズ』についての嘘で出現したと。しかし、何故そんなことが起きたんだ?彼が、消失する前の小学生時代からシーカーズに所属していたわけでもあるまい」
「……牙隈、俺がシーカーズについて嘘の投稿をしたとき、お前や乙丸にはそれを伝えず過去を変えたよな。その理由を何と伝えたか覚えているか?」
「えっと、はい。シーカーズは非営利団体というのもあって、ノアくんの言う通りになった場合は組織の性格も変わってしまう恐れがあったから、過去を変える前と後とで変化がないか、私達に口頭で教えてもらう為だって」
「その通り。涼霜壮がそのタイミングで出現した以上、シーカーズの方針を改変するには彼が必要だったことになる。そしてその方針とは当然、『サク』と通じる気があるか否かだ」
「ノアの嘘が無ければ――涼霜壮という外部の存在が影響しなければ、シーカーズには『サク』と対話するつもりがなかった。それが何を意味するのか……」
「な、何なんですか?2人とも」
「考えてもみろ。きりかが『ABY』とクラプロの癒着を正そうとシーカーズを求めた結果、次に起こったのがそちら側の人間が起こした“離隔”だ。公安も、組織を離れる手段に関して“離隔”という事件の一部と見せる必要があった。これは、“脅し”以外の何だと言うんだ?」
「え……?」
「『ABY』、そして『アビー・シーカーズ』。一般に反目していると見られるこの両者はグルだ。体制と反体制――相対する勢力で大衆を囲い込み、意のままに統治する大きな枠組みが、この社会の真相だ」




