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7:ニャニャニャ狂想曲

「では、交流体育祭の競技メンバーはこれで決定となります。どこのチームにミャルさんが入っても、変更は受け付けませんからそのつもりで」


 ミャルの可愛さに翻弄されつつも説明を続け、学校の事などある程度教え終わると、ちょうど話し合いも終わったようだ。

 後で書記からメンバー表を送ってもらわないと……なんて思っていたら、突然田中が手を挙げた。


「レイア様! まだ休み時間まで時間ありますよね? 提案なんですけど、この後はミャルちゃんと仲良くなれるように自由に話をするのはどうでしょうか!」


「そうね。今日は初日だし早めにミャルさんを帰す必要があるけれど、十五分程度なら大丈夫かしら。先生もよろしくて?」


「ええ、構いませんよ。ただし、ミャルさんに迷惑はかけないようにね」


「よっしゃ!」


 田中の提案が了承されるとみんな一斉に立ち上がり、キラキラした目でミャルの所へやって来る。


 気持ちは分かるよ。憧れのUMYAだし、直接話してみたいよな。

 ただ、突然囲まれてミャルはタジタジだった。


 正直止めようか迷ったけど、ミャルは根が優しい子なんだろう。

 尻尾だって膨らんでるのに嫌がったり逃げようとしたりはせず、少しでも親しくなろうと口々に自分の名前を言うみんなの言葉を一生懸命聞いている。頷くのに精一杯だろうに、ちゃんと一人一人に耳をピクピクと向けて聞く姿は微笑ましい。


 幸いにもお触り禁止は守られているから、ここはしばらく見守るべきなんだろうなぁ。いつまでもみんなを止めておくわけにもいかないし。

 チラリとレイア様を見てみれば無言で頷かれたから、やっぱりこれでいいみたいだ。


 あ、みんなの勢いに押されて、言い出しっぺの田中は南條と共に後ろの方に追いやられてる。

 流れに任せるとなるとあいつらの番が回ってくるのはかなり後だろうけど、もはや僕に出来ることは何もない。ごめんな、二人とも。


 そうしているうちにミャルも慣れてきたようで。一言二言、言葉を返すようになってきた。

 僕らのクラスでは数が少ないけれど、他惑星から留学してきている姿形の違う異星人たちとも問題なく挨拶出来てるみたいだ。


 羽の生えてる子なんかに猫の本能が刺激されたりしたらって心配だったんだけど、そんな事もなかったみたいだ。やっぱり猫とは似ているようで違うんだろうか?

 とにかく良かった。安心した。


 でも残念ながら、落ち着いて見ていられたのはここまでだった。

 この時僕はすっかり忘れてたんだ。ついさっきまで、僕が何に骨抜きにされてたかって事を。


「私は木下(きのした)成美(なるみ)だよ。成美って呼んでね」


 それは一人の女子生徒が、ごく普通に自己紹介をした時に起きた。


「ニャルミちゃん、よろしくニャ」


「ニャ……ニャルミ⁉︎」


「名前にナが付くと、あんな可愛く呼んでもらえるの?」


「キャー! 可愛いー!」


 ミャルとしては単に返事をしただけなんだが、周囲はそれどころじゃない。

 呼ばれた木下はうっとりとして動かなくなったけど、周りはお祭り騒ぎだ。


「えっ、羨ましい! 私っ、私は鈴畑(すずはた)加菜子(かなこ)だよ!」


「カニャコちゃん? よろしくニャ」


「私は斎藤七海(ななみ)っていうの!」


「わ、私は春森(はるもり)奈央(なお)! 奈央って呼んでくれる?」


「ニャニャミちゃんとニャオちゃんだニャ。よろしくニャ」


「やーん! 可愛いぃぃ!」


 黄色い声が響き渡り、この騒ぎをどうしようかと焦る。でもミャルも可愛いを連呼されて嬉しかったのか、満更でもなさそうだ。

 だけどそうなれば、男子だって黙っているはずもなくて。


「なあなあ、オレは墨川(すみかわ)直樹(なおき)っていうんだけどさ! 直樹って呼んでくれよ!」


「俺も、俺も! 高橋夏彦(なつひこ)っていうんだ。夏彦って呼んでいいぜ!」


「ちょっとあんたたち、図々しいわよ! ミャルちゃん、男子は名前で呼ばなくていいからね!」


「おい、なんだよそれ! 女子だけズリィだろ!」


「そうだそうだ! 自分がニャで呼んでもらえないからって、俺たちに突っかかってくるなよ!」


 当然というか何というか、クラスメイト全員が名前に「ナ」が付くわけじゃない。苗字にも名前にもなくて、「ニャ」入りで呼んでもらえなかった女子のやっかみが、こんな形で飛び火したらしい。

 止めるべきかとレイア様に目を向ければ、レイア様は愕然とした様子で固まっていた。


 あ……、そういえばレイア様も「ナ」がつかないや。これ、僕がニャカムラって呼ばれてるのに気づかれたら詰むやつ?


 嫌な予感に震えていたら、タイミングが良いのか悪いのか、南條と田中が前に出てきた。


「お前らいい加減にしろ」


「喧嘩なら外でやれよー。今は時間ないんだからさー」


「うっせー、南條、田中! お前らだって俺らの気持ちが……って、まさか!」


「ミャルちゃん、初めまして。おれは田中っていうんだ。で、こっちは南條。おれたちはナカムー……じゃなくて、世話係になった中村とも仲いいからさ。よろしくなー!」


「タニャカ君とニャンジョウ君は、ニャカムラ君のお友達ニャ? よろしくニャ!」


 楽しげにミャルが応じたのを見て、さっきまで喧嘩してた男女が一緒になって悔しがってる。ちょっと待て、こいつらマジ泣きしてないか?


 他のクラスメイトたちはといえば、男子は「田中たちは希望の星だ」と喜んで騒ぎだし、女子は「ニャニャニャ男子じゃん、ウケる」とか言って笑い出すしで、もう訳が分からん。


 でも僕にとって一番の恐怖は、知られちゃいけない人に知られてしまった事で。


「中村……あなたはいいわね、可愛く呼んでもらえて。なぜわたくしは……」


 ゆらりと顔を上げたレイア様の瞳が昏く光って見える。


 ヤバいヤバい。これはもう切り上げないとマジでヤバい。

 命の危険を感じた時、仕掛けておいたタイマーが十五分経ったと軽快に知らせてきた。


「あっ、もう時間だ! 今日はここまで! みんな、席に戻って!」


「えー! もうそんな時間なのー?」


「明日もミャルには会えるから! レイア様、昇降口までミャルを送りにいこう!」


「……そうね」


 レイア様の良い所は責任感がある所だ。やるべき事をやるために、深く息を吐いて顔を上げる。そこにはさっきまでの薄暗さは消え去っていて、僕はようやく息が出来た。とりあえずは生き延びたようだ。


「ミャル、鞄は持った?」


「持ったニャ! みんニャ、また明日ニャ! さよニャら!」


「サヨニャラー!」


 ノリの良い田中を始めとして、なぜかクラス中がミャルの挨拶を真似て明るく送り出してくれた。この短い時間で、すっかりミャルに馴染んだって事だろう。

 喜ばしいような、羽目を外しすぎないか心配なような……。まあ、ここで考えても仕方ないな。




 教室を出れば、いつもは放課後まで別行動の岩熊さんがボディガードを数名連れて待っていてくれた。

 そのまま岩熊さんたちは僕らを囲むようにして、昇降口まで付き添ってくれる。


 学校内でミャルが移動する時は必ず僕かレイア様が同行する事になってるけど、これからしばらくの間は念のため岩熊さんたちも協力してくれるんだ。


 ミャルは僕と同じぐらいの身長で意外と大きかったけど、大柄な岩熊さんたちが囲んでくれれば周囲からはあまり見えない。

 二年A組にUMYAが来たことは、この時間のうちに他のクラスでも周知されてるはずだから無茶な事をする生徒はいないと思うけど、学校のみんなが慣れるまではこの方がいいだろう。


 今だって、授業終わりのチャイムが鳴る前だから大丈夫かと思いきや、各教室のドア窓からみんな覗いているし。僕とレイア様だけじゃちょっと怖かったと思うんだ。

 その点、岩熊さんがいれば安心だ。


 ほんの短い時間の割には波乱の初日となったけど、どうにか無事に終わりを迎えられそうだ。いきなり任命された世話係だったけど、なかなか良い滑り出しじゃないだろうか。


 ミャルも今日は疲れただろうな。僕らはまだまだ授業があるけど、ミャルは一足先にゆっくり休んでほしい。


「今日はありがとございましたニャ。レイアちゃん、ニャカムラ君、これからよろしくニャ。また明日ニャ」


「ええ、またね。ミャル」


「お疲れ。また明日、学校で会おうな」


 互いに笑顔で別れを告げると、ミャルを乗せた車はすぐに空へ飛び立った。


 さて、僕らは教室へ戻ろうと振り向けば、校舎の窓辺には無数の顔、顔、顔……。

 いやみんな、どんだけミャルを見たかったんだよ。気持ちは分かるけどさ。あまりのみっしり加減に、ホラー映画か何かかと思うぐらいだぞ?


「ところで中村。ミャルさんの呼び方の件なのだけど」


「あー、それね。アハハ……」


 あのまま流してくれるわけじゃないのか。そうなのか。

 ……本当のホラー展開はこれからだったのかもしれない。


 これからぶつけられるだろうレイア様の不満について、覚悟はしておくけどさ。どうにかして田中と南條にも分散してもらえないかな……。ニャニャニャ仲間としてぜひお願いしたい所だ。

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