6:それに挟まれるのが夢
さて。学校からミャルに貸与された物の使い方について、説明をしていくわけなんだが。
どうも話を聞く感じ、モフモフ星にも携帯できるノートパソコン的なデジタル機器は普及してるらしいけれど、タブレット的な平易な物はまだ一部でしか使われていないようで。
ネットワークの活用もまだまだ発展途上で電子書籍なんて当然なく、教科書もノートも全部紙製だったらしい。そりゃ、こっちのやり方に驚くわけだよな。
地球では、普段の生活に使用するのはほとんどがデバイスによる空間表示だ。入力はエアタッチか音声入力が主流。
ただ、学校では文化保護と学習効果の観点から筆記入力が基本になっているから、文字を書く感覚を掴むため今でも薄型電子パッドとデジタルペンが使われている。
ミャルのパッドは、もちろんモフモフ星人用に翻訳されている……はず。
うん、見てみたら知らない文字になってるから、やっぱりそうだ。
これ、さっきミャルにはパッドに教科書が全部入ってるって言ったけど、厳密に言えば違うんだよな。
ネットワーク上にある教科書データを個々人のデバイスを通じてパッドに表示させる仕組みなんだけど、その時に翻訳システムも通してあるから、音声と同じく文字も自動変換されて表示されるんだ。
だからぶっちゃけ、教科書を読むだけならパッドはいらないんだけども。
まあ、そういったデバイスの詳しい事については追々教えるとして、とりあえず最低限このパッドとペンの使い方だけ教えてしまおうと思ったわけだが……。
「パッドのここが電源。それでこれを押してこっちをスライドさせると教科書の一覧が出てくるんだけど……。ミャル、押せそう?」
「やってみるニャ!」
僕ら地球人の指なら簡単に押せるアイコンも、ミャルのモフモフまん丸な手では難しいかもしれない。
ペンでの操作を教えた方が早いか? なんて思ったのも束の間。
ミャルは手をムギュムギュと数回開いたり閉じたりすると、爪を一本ニュッと出して器用に操作し始めた。
あんな可愛い手からこんな鋭い爪が出てくるなんて、やっぱりそこは猫なのか!
背を丸めてパッドに顔を近づけ、少しだけ出した爪でそっと押していくとかナンダコレ……! 可愛すぎるだろが!
「すごいニャ! 触るだけで色んニャ教科書が出てくるニャ! ウニャ⁉︎ 数学がどっか行ったニャ⁉︎」
ハッ、危ない、危ない。頑張ろうと思った先からこうだよ。しっかりしろ。
「ああ、それはほら、こっち。パッド上の空間に表示されただけだよ」
「何にもニャい所に浮いて見えるニャ⁉︎」
「ノートとる時に表示されてたら邪魔になるから、入力フォームにすると教科書はこっちに表示されるんだ」
ああ、驚いてるのもやっぱり可愛い……じゃなくて!
爪入力を凝視するのはとても危険だと分かったので、早々にペンの使い方を教える事にしよう。
「ここにはデジタルペンで文字が書ける。試しに書いてみて。あ、ペン握れそう?」
「うん、ペンは平気ニャ」
髭をピンと張ってミャルは自信満々にペンを手にする。
グッと手を開いて肉球の間にペンを挟むようにって……に、肉球だとぉ⁉︎
手が大きいから当たり前だけど肉球も大きくて、しかも綺麗なピンク色でめちゃくちゃ可愛い! あれ触ったらプニプニするんだろうか、絶対プニプニだよな⁉︎
ああ、ペンが羨ましい、今すぐあのペンになりたい……! アレルギーとか関係ない、肉球に挟まれて死ねたら本望……!
「すごいニャ! 本当に書けたニャ! ほら、見てニャカムラ君! ニャーの名前を書いてみたニャ! あ、でもニャカムラ君には、ニャーの文字読めニャいニャ?」
ハッ、いかんいかん! 今何を考えていた⁉︎ 僕は世話係、僕は世話係!
「いや、大丈夫だよ。そこの右上を押すと僕らの文字に変換したものを一緒に出せるから。テストの時もこれで提出して大丈夫だからね」
「これかニャ? おー、すごいニャ! ニャーの名前、地球ではこんニャ風に書くニャ」
ミャルは好奇心いっぱいにまん丸の目をキラキラと輝かせて、また文字をいくつか書いてみたり、教科書を出したりしている。
ああ、まずい。これは非常にまずい。可愛いの過剰摂取で心不全起こしそう。
猫アレルギー関係なしにミャルの可愛さで召されそう。もうそれでいい気もする……わけがない! ちゃんと生きろ、僕! 世話係だろがっっ!
気持ちを落ち着けるためにも、交流体育祭について話し合ってるレイア様に目を向ける。
うん、凛々しいレイア様を見てると気が引き締まるな。いつも一緒にいなきゃならないのを面倒くさいとか思ってばかりだったけど、今日ばかりはレイア様に感謝したい。今までごめん、レイア様。
そして話し合いの方は大体決まってきたみたいだ。
あー、リレー選手の選出で揉めてるのか。去年までのデータをまとめたのも作ってたから、これも出しておこう。
「ウニャ? ニャカムラ君、さっきから何してるニャ? 虫でもいたニャ?」
「ん? ああ、これ? これはほら、みんなが話し合ってる交流体育祭の資料をあそこの壁に映してるんだよ」
「手を動かすだけでそんニャことも出来るニャ⁉︎」
「デバイスを使えばミャルもすぐ出来るようになるよ。こっちもこれから少しずつ教えていくね。授業については先生から何か聞いた?」
「しばらくは午前中だけだから、体育祭の練習だけで終わっちゃうって聞いたニャ。普通の授業は本番が終わってからって言ってたニャ」
「そうだね。体育祭については説明聞いたんだね?」
「うん。ニャーは一個一個試してから、どれに出るか決めるって聞いたニャ」
「そうそう。ミャルたちの星にも体育祭はあったかもしれないけど、競技も同じとは限らないから。翻訳システムもまだベータ版だし、やってみたら違う事もあるかもしれないからさ。教科書の中身もたぶんミャルたちのとは違うと思うから、授業が始まるまでに一通り読んでおくといいよ。分からない事があれば、聞いてくれれば教えるから」
「分かったニャ。よろしくお願いするニャ」
頭をペコリと下げてお願いしてくるとか可愛い。可愛すぎる。
モフモフ星にもお辞儀文化ってあるんだなとか、どうでもいい事を考えないとまた沼にハマりそうで危険が危ない。
いやこれ、本当に慣れるまではかなり気をつけないとな。まさかこんな事になるなんて、世話係を引き受けるって決めた時は思ってもみなかった。
しばらくはレイア様の氷の眼差しをいつでも心の片隅に置いておこう。うん。
注)本文中の重言はわざとです。
いいね、ブクマ、評価ありがとうございます!
めちゃくちゃやる気出ました!
中村君が弾けすぎてて恐縮ですが、引き続きお楽しみ頂ければ幸いです!