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4:これが本物の猫娘⁉︎

「では中村君。くれぐれもよろしくね」


「はい、失礼します」


 留学生への対応についてもろもろ話も終わった所で、僕らは理事長室のある最上階からエレベーターで下へ降りた。


 本当は理事長室で留学生と顔合わせをしてから一緒に高校校舎まで車で移動するはずだったらしいけど、色々事情が変わったようで僕たち二人で向かう事になったんだ。

 留学生と事前に会えれば良かったけれど、残念ながら教室で会う事になる。


「留学生ってどんな子なのかなぁ」


 いつものようにレイア様の荷物持ちもしつつぽつりと溢すと、レイア様が呆れた顔で振り向いた。


「さっきまで嫌がってたのに、変わり身が早いわね」


「もう引き受けたんだし、世話する子の事を知りたいのは当然だと思うけど」


 もちろんそれだけじゃなく純粋に興味もある。何せ僕は猫好きなんだから、ちょっぴり浮かれてもしょうがないと思うんだ。猫アレルギーは今も怖いけど!


「それより、レイア様は一度会ってるんだよね? どんな子だった?」


 そう、羨ましい事にレイア様は一足早く留学生と対面してきたらしい。UMYAの一団は昨日秘密裏に地球へ到着したらしいけど、その際に受け入れ側の一人として理事長と一緒に出迎えをしたそうだ。


 西宝院グループCEOであるレイア様の父親は遠方の惑星に出かけていて同席出来なかったし、後継のお兄さんたちも他銀河に留学中でいないからその代行だったという事だけれど、それなら秘書役の僕を連れてってくれてもいいと思うんだ。

 こういう時だけ省かれるとか、本当割に合わない。まあ、極秘という事で出迎えは全宇連の施設で行われたらしいし各国首脳まで集まっていたそうだから、僕みたいななんちゃって秘書が同行できなくて当然なんだけどさ。


 それでもやっぱり羨ましいから、ついつい非難がましく聞いてしまう。けれどレイア様がそう簡単に言ってくれるはずもなくて。


「そんなのわたくしが言わなくてもすぐに分かることじゃない」


「それはそうだけど、教えてくれたっていいじゃないか」


「あら、そもそもあなたのせいで会う時間がなくなったのよ? 文句を言われる筋合いはないわ」


「えっ、僕のせいなの⁉︎」


「当たり前でしょう。何のためにあんな早い時間にわざわざわたくしが迎えに行ったと思っているの。本当なら会う時間ぐらい確保出来たはずなのよ」


「それは……ご、ごめん」


 迫力満点のレイア様の冷たい目は、ものすごく心臓に悪い。

 僕の説得に時間がかかったからとか、そもそも僕が家を出るのが遅れたからだと言われてしまうと、ぐうの音も出ない。


 ため息を堪えて本部棟から一度外に出ると、今度は学園内の至る所で無料貸し出しされている個人用立ち乗り円盤、シェアサークルに乗った。


 まあ何せうちの学園は広いから、これがないと移動が大変なんだ。どこで借りても各施設そばにあるポートに返却すればいいからすごく便利。

 ランニングより少し早い程度の速度で地面から数センチ浮いて動くだけだけど、円盤の上に立って目的地を言えば勝手に運んでもらえるから楽なものだ。


 周りに目を向ければ、僕らの他にもたくさんの人が同じようにシェアサークルに乗っている。学園敷地内には学生寮や職員住宅もあるから、そこから通う人たちだ。

 中には今や趣味でしか使われない自転車を漕ぐ人や、普通に歩いてる人もいるけれど、僕らの乗るシェアサークルはぶつかる事もなくスイスイと走っていく。


 心地いい風を感じつつ上空を見上げれば、スクールバスが何台も下りていくのが見えた。中等部に通う妹の楓も、あの中の一台にいるはずだ。


 高等部にUMYAの女の子が来るって聞いたら、楓は驚くだろうな。しかもその世話係を僕がやるなんて聞いたら楓の事だ、相当羨ましがるに違いない。

 教えてやるべきか、しばらく黙っているべきか悩ましい所だなぁ。



 ◇



 そんな事を考えながら辿り着いた高等部の校舎は、いつも以上に騒がしかった。

 至る所で生徒たちが集まり、今朝のニュースについて語り合っている。どうやら今もUMYA発見の特番は続いているようで、中にはデバイスでそれを見ている強者もいるみたいだ。


 朝のホームルームまでそんなに時間があるわけでもないのに、いつまでも廊下でそんなの見ていて遅刻したらデバイス没収されるぞ?


 そしてその騒ぎは、僕らのクラスでも似たようなものだった。


「ご機嫌よう、みなさん。もうすぐホームルームですわよ。お喋りは構いませんが、せめて映像を見るのはおやめなさいな」


「あっ、レイア様! おはようございます!」


「はーい、分かりました! ニュースはやめときまーす!」


 教室に入るなりレイア様がピシャリと言い放ってくれたおかげで、うちのクラスから没収者は出なさそうだ。


 それでも思い思いに固まって話し続けているクラスメイトたちを横目に、教室前方にあるレイア様の机に預かっていたカバンを置いて、レイア様のために椅子を引いた。

 座るやいなやすぐに女子に囲まれるレイア様に視線で許可をもらってから、ようやく僕は教室後方にある自分の席へ向かう。


 さすがに教室内でまで隣だと居心地が悪すぎるから、席だけは離してもらってるんだ。

 いくら秘書役を求められても、四六時中女子の只中にいるのはあまりに辛い。


「中村、ようやく来たのか。珍しく遅かったな」


「ナカムー、はよー。相変わらず今日も執事してるねー」


「南條、おはよ。ちょっと理事長のとこ寄ってきたからさ。そして田中。何度も言ってるけど、僕は執事じゃなくて秘書な」


「どっちも大して変わりないじゃん」


 最初に声をかけてきた、坊主頭でいかにも運動部所属ですって顔してる体格の良い男が南條。(でも本当は運動音痴で実家が寺なだけ。ちなみに部活は茶道部)


 次に声をかけてきて、今もケラケラと楽しげに笑う軽い雰囲気のヒョロっとした男が田中(こいつは見たまんまのチャラ男で軽音部所属)だ。


 南條とは初等部から、田中とは中等部からの付き合いで、僕ら三人とも全く系統は違うけど不思議と気が合う良い友人だった。


「なんだ、理事長の呼び出しか。てっきり今朝のニュースに釘付けになってたのかと思ってたのに」


「だから言ったっしょー。いくらナカムーが猫好きでも、真面目くんなんだからそれで遅刻にはならないって。だいたい、レイア様がそんなの許すわけないっての。賭けはおれの勝ちだねー」


「クソッ、今月の飯代が」


「何だよ二人とも、賭けとかするなよ。てか、南條の話も外れてはいないし」


「おっ、やっぱりそうか! 中村なら絶対あれに食いつくって信じてたんだ!」


「えっ、マジで⁉︎ それで理事長のとこも寄ってきたのに、この時間に間に合ったの?」


「うん。まあ、レイア様が迎えに来てくれたからだけど」


「ならおれの予想も外れてはいないのかー」


「そうなるな。今回は引き分けにしておくか」


「はー。今日こそスペシャル和定食食べれると思ったのになー」


 さっきまで悲壮感漂わせてた南條がホッとした顔になって、喜色を浮かべていた田中がガックリと肩を落とした。


 まさかこれ、昼飯丸ごと賭けてたのか? しかもスペシャル和定食って、高校の学食なのになぜか一万円もする限定五食の天ぷらと寿司、うなぎの白焼のセットの事だよな? 謎に人気で競争率が高いとかいう。(さすがVIPの集う学校だよ)

 僕が珍しく遅れてたからってそんなの賭けるとか、こいつら馬鹿じゃないのか。


 いや、もしかしたら今朝のニュースでこの二人もそれなりに浮ついているのかもしれない。二人とも猫好きってわけではなかったと思うけど、UMYA発見なんて大ニュースだし。


「それで中村、理事長から今度はどんな難題吹っ掛けられたんだ?」


 あ、それ聞いてくるんだ。まあどっちにしろ、先に言っておこうとは思ってたけど。


「今日から留学生が一人来るんだけどさ、それの世話係を頼まれた」


「へぇ、留学生? ずいぶん中途半端な時期に来るんだな」


「それって男? まさか女の子だったりする? 可愛い系? 綺麗系?」


「女の子だけど、まだ会ってないからどんな子なのかは僕も分からないよ」


「よっしゃ、女の子ぉおお!」


「おい、田中。聞くのそこなのかよ。何星人なのかとか、他にも聞くことあるだろ?」


「いや、そこが何より大事でしょ! どうせうちのクラスに来るんだから人型なんだろうし、何星人でも大して変わんないよ。どこ出身でも可愛い女の子ならおれは愛せる! あ、もちろん綺麗系でも大歓迎!」


「お前なぁ……。節操なさすぎだぞ。そんなだから結局誰とも付き合えないんだ」


「フッ、南條甘いな。おれはたくさんの女の子を愛でるのに忙しいだけで、一人に絞れてないだけだ!」


「はいはい、言ってろ」


 田中の言う通り、多種多様な形態の異星人が集う学園だというのに、僕らのいる二年A組は不思議と人型の生徒しかいない。

 クラスメイトの大半は地球人だし、数人いる異星人も耳が尖ってたり体色が違ったり角があったりはしても、基本的に顔や手足の形は僕ら地球人と酷似している生徒ばかりなんだ。


 ただ今となっては、もしかしたらUMYAを受け入れるためにこういうクラス編成にしたのかなとも思う。

 ニュースで見た感じ、人型に猫耳と猫尻尾がついてるのがUMYAみたいだし、いきなり姿形の掛け離れた異星人と馴染むのは大変になるだろうから。


 それにしてもUMYAの女の子かぁ。どんな子が来るんだろう?

 猫娘といえば歴史上色んな作品に出てくるけれど、我らが日本が生み出したのは大抵が可愛い系。海外産の猫娘は綺麗系が多いイメージだ。どちらにせよ、猫耳と尻尾は確実だとして。


 耳はピンと立っているのも可愛いが、スコティッシュフォールドみたいな垂れ耳でも可愛いよな。毛の色と髪色は同じなんだろうか、目はやっぱり猫目で瞳孔が細くなったりするのかな、なんてついつい想像してしまう。


 漫才みたいな二人のやり取りを眺めつつそんな事を思ってたら、急に田中が突っかかってきた。


「なんだよナカムー! ニヤニヤしやがって! クソ羨ましすぎるぞ! 女の子の世話係だからって自慢してるのか、そうなのか⁉︎ たまにはおれと代わりやがれ!」


「いや、そんなこと言われても」


「おいやめろって、田中。世話係なんて大変なだけだぞ」


「止めるな南條! 大手を振って女の子と密着出来るチャンスなんだぞ! なぜ選ばれるのがナカムーなんだ! ナカムーにはレイア様がいるのに!」


「むしろその実績を買われての抜擢だろうが」


 荒ぶる田中を南條が止めてくれているのは助かるけど、ちょっと複雑だな。そんな実績は僕も重ねたくはなかった。


 しかし、留学生がUMYAだって事も話してしまおうかと思ったけど、これはやめておいた方がいいな。どうせ後からうるさくなるんだろうけど、二回に分けるより一回にまとめた方が楽だ。


 そして気がつけば僕の留学生が来る発言はあっという間にクラスメイトにも広がっていき、UMYAの話からどんな子が来るのかと話題が変わっている。

 いや、ある意味変わってはいないのか。みんな中身は知らないだけで。



 ――キーンコーンカーンコーン



「はいはい、みんな席に着いてねー」


「げっ、先生だ!」


 チャイムの音と同時に担任の山本先生がやって来た。身長は低めだしポッチャリしている山本先生は一見すると人の良いおばちゃんなんだけど、怒らせるとめちゃくちゃ怖いから南條も田中も騒がしかったクラスメイトたちもみんなすぐ席に着く。

 山本先生はニッコリ笑顔で教卓についた。


「今日はみなさんにお知らせがあります。今日から留学生を一人、このクラスにお迎えすることになりました」


 いよいよ来た、とクラス中の期待が高まるのが分かる。

 先生はレイア様と視線を交わすと、おもむろに言葉を継いだ。


「その留学生ですが、今朝のニュースでも話題になっていた猫型宇宙人UMYAの女の子になります」


「えぇぇぇぇ⁉︎」


 みんなポカーンとしたのは一瞬だけ。ものすごい驚愕の声が響き渡る。

 うんうん、そうだよな。驚くよな。その気持ち分かるよ。


 正気に戻った生徒から「マジかよ」「UMYAの女の子が⁉︎」とざわつき始めた所で、レイア様が立ち上がりパンと手を打った。


「みなさん、お静かに。先生のお話が終わらないと、留学生がいつまでも入ってこれませんわ」


 さすがレイア様だ。みんなあれだけ騒いでたっていうのに、教室の隅まできっちりと声が通る。

 みんながハッとして口を噤んだ所で、山本先生から簡単な事情説明がされた。


 さすがに僕らが理事長からされたような詳細な話とまではいかないけれど、今回の留学はお試しで、うまく行くかどうかで今後のUMYAとの付き合い方が変わるという事。

 そして一番大事な約束として個人に対する質問は良いけれど、種族やUMYAの星の事について問いかけない事(情報規制されてるから、留学生も安易に答えられない)、いつも通りお触り禁止や口外厳禁などの留学生受け入れの諸注意も伝えられる。


 ここで下手を打ったらせっかくのUMYAの女の子が星へ帰ってしまうと分かったからか、さっきまで煩かったのが嘘みたいにみんな真剣に聞いていた。


 でもきっと脳内では、色んなタイプの猫娘をそれぞれ想像してるんだろうな。特に男子なんかニヤニヤしすぎてみんな顔がヤバいぐらい崩れてる。

 田中とか目がギラギラしすぎてて怖いけど、ちゃんと話は聞いてるよな? 頼むから暴走しないでくれよ。


「留学期間は年度末まで。慣れてもらうために午前中だけの出席から徐々に登校時間を延ばしていく事になります。一年足らずの期間となりますが、約束事は厳守するように頼みますよ。では、そろそろ留学生に来てもらいましょう。どうぞ、入って」


 さあ、いよいよ留学生の登場だ。

 いったいどんな子が来るのか、みんな固唾を飲んで見守る。マスクと手袋を装着して準備万端となった僕も、心臓が口から飛び出そうだ。


 そうして教室の扉から入ってきた留学生の姿は……。


「うえぇぇええ⁉︎ そっちぃぃいい⁉︎」


「きゃぁああ! 可愛いぃぃ!」


 制服こそ着ているものの、二足歩行の巨大な猫そのままとしか言いようのない、全身もふもふでつぶらな瞳の猫娘だった。



説明多めはここまで!

次話、中村弾けます。

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