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3:カッコいい所を見せるのは難しい

「それで、レイア様はいつミャルの宇宙服のことを知ったの? まさか、最初からなんてことは」


「もちろん最初からよ。決まってるじゃないの」


「はっ? 本当に最初から⁉︎」


「そうよ。実際に宇宙服を脱いだミャルさんを見たのは、我が家に来てもらってからだけれど」


 ようやく混乱した頭も落ち着いた所で、二杯目のアイスティーをもらいつつ改めてレイア様に聞いてみれば、実に楽しげにレイア様は話した。

 またしても衝撃の事実だ。一杯目は驚きすぎてせっかくのアイスティーの味が分からなかったけれど、この分だと二杯目も危ういかもしれない。


「なんでわざわざ隠したわけ? 宇宙服の上から制服まで着せてさ」


「そんなの、その方が面白いからに決まってるじゃないの」


 そうだった。レイア様はこういう人だった。

 何かしら真っ当な理由があったとしても、一番は自分の楽しみを優先させる我儘お嬢様なんだよ。


「それにあの姿が宇宙服だと知らなかったのは、あなたたち生徒だけなのよね」


「嘘だろ。先生たちも知ってたのかよ……」


「先生だけでなく、他のUMYAの滞在先でもよ。知らないのはうちの生徒だけね」


 ミャル以外にも数人UMYAが地球にやって来ている。各地域に散らばってそれぞれが留学等を行い、全宇連加盟後の変化を体験しているらしいけれど、他の所では最初から宇宙服を着ていると明かされていたらしい。

 本当に僕たちだけだったんだな、知らなかったのは。なんてことだ。


「二学期からはもう宇宙服を着ないってことでいいんだよね?」


「もちろんそうよ」


「どうするんだよ、絶対混乱するぞ」


「そこはあなたが何か案を出しなさいな」


「無茶振りが過ぎるよ」


 レイア様を睨んでみても、本人はどこまでも済まし顔だ。

 まあ実際、考えがないわけじゃないんだ。今が夏休みでまだ良かったよ。二学期が始まるまで色々と準備は出来るから。


「ウニャ……。でも、ニャーが本当はこんニャ姿だって知ったら、みんニャどう思うのかニャ。ちょっと心配ニャ」


 ミャルももう地球の料理を食べれるから、一緒にアイスティーを飲んでいる。

 不安げに耳をぺしょんと伏せてストローをくるくる回してるけれど、それもまた可愛いな……じゃなくて。


「そこは気にしなくて大丈夫だよ。みんな可愛いって思うだけだから」


「本当かニャ? 猫っぽくニャいってガッカリされニャいかニャ?」


「ならないよ、絶対。そこは僕が保証する」


「わたくしも保証しますわ」


 ミャルが不安に思う気持ちは分かるけど、百パーセント杞憂で終わると思う。

 というかミャルには悪いけれど、たぶん元々これを狙ってレイア様はミャルが宇宙服だって事を黙ってたんだと思うんだよ。


 だってもし事前にミャルが宇宙服だと知られていたら、みんな好き勝手に中身を想像したはずだ。

 特に僕ら日本人は、地球人の中でも猫型宇宙人への渇望が凄かったから、それぞれ勝手な理想を抱いてた人が多いと思う。


 そんな中で下手に予想を持たせてから実際の姿を見せたら、場合によってはガッカリされるなんて事もあると思うんだ。

 でもそこを隠していたからこそ、意外性のインパクトがあるわけで、どんな姿のミャルが出て行っても好意的に受け止められるだろう。


 何せ初めての挨拶の時に、みんなが猫そのままの姿に驚いたんだから。人型になって出ていくだけで、大盛り上がりになると思う。

 その興奮を抑えるのは大変だけど、下手にミャルを傷つける結果になるよりはいいだろう。


 でもミャルとしては、まだ心配が残っていたみたいだ。


「それにそもそも、ニャーがいきなりこの格好で出ていっても、ニャーだって信じてもらえニャいかもしれニャいニャ」


「いや、その心配もないと思うよ」


「ウニャ……。ニャカムラくんがすぐに気付いてくれたのは嬉しかったけど、みんニャもそうとは限らニャいニャ」


 うーん、僕の言葉だけじゃ説得力が薄いか。

 実際のところ、レイア様がこれがミャルの本当の姿だって言えばみんな納得せざるを得ないんだけど、ミャルがそこまでレイア様の影響力を知ってるとは思えないし、どう言えばいいんだ?


「そういえば中村はどうしてミャルさんだと分かりましたの?」


「それはだって仕草とかさ、ミャルそっくりだったから」


 いくら外見が変わっても中身は同じミャルなんだ。好きな子だし、そりゃ分かるに決まってる。さすがにそんなこと言えないけど。

 ああ、でも……。


「それに耳も尻尾も髪の毛も、宇宙服とそっくりだし。さっきみたいに隠したりしなければ、見た目でもみんな納得すると思うよ」


「そうかニャ? そうだったらいいニャ」


「そう思えば、着ぐるみみたいな宇宙服も役に立ったということですわね」


「まあ、そうなるね」


 良かった。納得してくれたみたいだ。

 用意した悪ノリ部署がそこまで考えていたとは思えないけど、ミャルの安心感に繋がるならそれでいい。

 あとは夏休み中の準備を利用して、ミャルにもっと安心してもらえるようにしていこう。


「さあ、お喋りはこの辺にして、そろそろ課題を始めますわよ」


「そうだったニャ。すっかり忘れてたニャ」


「最初は何からやる? 数学?」


「そうね。数学ならミャルさんも同じ内容ですし、一緒に出来るものから仕上げてしまいましょう」


 色々話しているうちに、ずいぶん時間が経ってしまった。昼までに少しでも進めようと、僕らはパッドを取り出す。

 ミャルのためにと考えていた夏休みの計画も見直さなくちゃいけないけれど、その話はまた休憩時間にだな。


 そんな事を考えつつ始めた数学の課題は、平凡な僕には難しすぎて、またしても僕はミャルの前で情けない所を見せる羽目になった。

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