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35:待ちに待った

「あー、ようやく明日から夏休みだー!」


「海だ! 祭りだ! 花火だー!」


 楽しいと時が過ぎるのはあっという間で。いつの間にやら梅雨は終わり、一学期も最終日となった。明日からは夏休みとあって、みんないつも以上に朝から浮ついて騒がしい。

 でも忘れてはいけない。一学期が終わるということは、最後にアレもあるんだよ。


「落ち着け二人とも、まだ朝だぞ。そもそも南條はともかく、田中はそう簡単に休めないのを思い出せ。赤点も取ってただろ」


「グハッ……。おかしい、消去した記憶が戻ってきただと⁉︎」


「良かったー。俺はギリギリ回避出来て」


「ずるいぞ南條! お前も道連れにしてやる! 評定1が並ぶ呪いを食らえ!」


「やめろ、俺はまだ除霊出来ないんだぞ!」


 呪いが除霊で防げるのかは謎だけど、田中と南條は楽しそうに追いかけっこしてるからまあいいや。


 とにかく今日は一学期の評定が出る日でもある。

 つい先日行われた期末テストで赤点を取った生徒はもちろん、評定で1を取った生徒も夏休みは補習で潰れてしまうから、一部の生徒は落ち込んでたり田中のように開き直っていたりする。

 それでも大半の生徒からすれば夏休みが来るのは当然だから、浮かれて盛り上がるのも仕方ない。


 そんな中でミャルはといえば。


「ニャーはちゃんと夏休み出来るかニャ」


「ミャルちゃんなら大丈夫だよー!」


「そうそう! ミャルちゃんは毎日真面目に授業受けてるし。私なんて宿題出してないからヤバいかもだよー」


「そうかニャ? そうだったらいいニャ」


 女子に囲まれているミャルは補習にならないか憂い顔だけど、はっきりいってその心配はなかったりする。

 夏休みを利用して地球や全宇連の事を知ってもらうためというのもあるけれど、そもそもミャルへの評価はまだ付けられる状態じゃないからだ。


 交流体育祭直後に行われた中間テストの時は、ほとんど授業を受けていない状態だったこともあってミャルの試験は免除されていた。僕らがテストを受けてる間、ミャルはひたすら自習の時間だった。

 そして期末テストでは、ミャル用に作られた難易度低めのテストを練習も兼ねて受けただけだった。


 というのも、ミャルがこれまで受けてきたテストは地球のものと形式から違っていたんだ。

 まずモフモフ星の学校では、普段は口頭テストとレポートの提出で理解度を確かめるのみで、筆記試験が行われるのは入学と卒業の時だけらしい。ただ、この筆記試験も僕らの知るそれとは違っていて、なんと制限時間がなかった。

 とにかく自力で解きさえすれば、一時間でも二時間でも、何なら丸一日かかったって構わないという驚きのシステムだそうだ。

 だからまずミャルには、制限時間内に解答用紙に記入するという事に慣れてもらわないといけなかったわけだ。


 そもそも授業自体、元の学習内容の違いからほとんど自習みたいなものも一部あるから、みんなと同じように評価する事は出来ないんだよね。

 だから今日渡される成績表も、ミャルのだけは特別製になる予定だと聞いている。


 ちなみに全てにおいて平凡な僕は、つい先日行われた期末テストでも平均点を取ったからたぶん評定もいつも通り3が並ぶはずだ。

 だから夏休みは普通にとれるはずなんだけど、残念ながらレイア様の秘書役には夏休みなんて存在しない。家族旅行でもない限り、ほとんどレイア様に連れ回されて終わるのが毎年恒例だ。


 レイア様の我儘に付き合わされて、いつもは面倒くさいと思うしかない夏休み。

 でも今年はそんな境遇に心から感謝してたりする。


「ねえ、それよりミャルちゃん。夏休みはどうするの?」


「レイアちゃんがプライベートビーチに連れて行ってくれるって言ってたニャ」


「いいなー! さすがレイア様!」


「ていうかビーチって、ミャルちゃん大丈夫なの?」


「そこはほら、海に入らなければ平気なんじゃない?」


「泳ぐのは好きニャ。海も楽しみニャ」


「えっ、そうなの⁉︎ 意外ー!」


 良かった、女子のおかげでミャルも気が紛れているみたいだ。

 それにしても、そんなに楽しみにしてくれてるんだな。僕も楽しみだけど。


 ミャルの言うように、今年はレイア様のバカンスにミャルも同行する事になっている。

 しかもそれだけじゃなくて、みんなには秘密だけどミャルは夏休み中レイア様の家にホームステイする事が今朝決まったんだ。ちょうど地球の料理への検査が終わり、明日からは僕らと同じ食事が出来るようになるかららしい。


 という事はつまり、僕は夏休み中もミャルと会えるんだ!

 レイア様の秘書ごっこに付き合ってきて良かったと初めて思ったかもしれない。



 ――キーンコーンカーンコーン



「はいはい、みんな席に着いてねー」


「あっ、先生だ!」


 チャイムの音と同時に担任の山本先生がやって来た。早く夏休みを迎えたいからか、ソワソワしつつもみんな素早く席に着く。

 夏休みの課題はすでに各授業で言われてるけれど、改めてそれらをまとめた説明に、夏休みの注意事項も伝えられ、いよいよ成績表のデータが配られた。


「補習対象の人には補習日の詳細も入れてあるから、きちんと確認してくださいねー」


 みんな即デバイスを開いて確認し、歓喜の声や悲鳴をそれぞれ上げている。

 田中はともかく南條も揃って机に突っ伏してるから、あの二人は仲良く補習が決まったみたいだ。南條は普段の授業態度はいいんだけどテストはギリギリだし課題はサボりがちだから、何かの科目で評定1がついたんだろう。


 ミャルもイカ耳になりつつ恐々と確認していたけれど、すぐに嬉しそうに耳と尻尾を立てた。


「ウニャ、やったニャ! 3だけど花丸も並んでるニャ!」


「良かったね、ミャル」


「ニャカムラくんは大丈夫だったニャ?」


「うん、僕も3だよ」


「お揃いニャ! 夏休みニャくニャらニャくて良かったニャ」


 思った通り、僕の成績表には3が並んでいたけれど、ミャルの花丸ってどういう事だ。特別製とは聞いていたけれど小学生じゃあるまいし、先生も弾けすぎじゃないか?

 まあミャルが喜んでるからいいんだけどさ。


「ニャカムラくん、夏休みもよろしくニャ」


「こちらこそ。たくさん遊ぼうね」


 未だ留学してる事が秘密なミャルは、簡単には外に出れない。

 それでも少しでも夏休みの思い出を増やしてほしいから、レイア様と僕とで色々と計画中だ。


 出来ることは限られているけれど、たった一度の共に過ごす夏だ。きっと良い夏にしよう。



〈一学期編おわり〉



次話から夏休み編に突入します。

投稿は来週月曜になる予定です。

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