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33:ミャルもただの女の子

「あっ、焼き上がったよ!」


「うわーん、私の形崩れちゃった!」


「アハハ、何それ! めちゃくちゃ膨らんでるー!」


 そうこうしているうちにシュプレが焼き上がり、完成品を手にした部員たちが笑い合っている。

 さて、僕らのシュプレはというと。


「やったニャ! ちゃんと綺麗にリボンみたいにニャってるニャ!」


「ウン、上手に出来たな。モルなしでもなかなかいいカタチに焼けた」


「なぜナノ……。あれほど完璧に仕上げたノニ……」


「まだドリュアさんのは良い方よ。わたくしのなんて、これですもの」


「レイア様の分も僕が代わりに作ったのに、その言い方は酷くない? 確かに予想外の出来だけど、ある意味リアルになったとも言えるし」


「お黙りなさい。言い訳なんて見苦しい」


 ミャルとミカーリさんのは綺麗に焼けてたけれど、残念ながらドリュアさんのは薔薇というよりただの渦巻きに。

 そして僕が苦労して作り上げた星形は、なぜかシンプルな丸になっていた。


 膨らんだのは分かるけど、どうしてそうなる。くびれはどこに消えたんだ。


「大丈夫ニャ。まん丸も可愛いニャ。元気出すニャ」


「ミャル……ありがとう」


「ミャルさんは優しいわね。でも中村、甘えてはダメよ。次はもっと精進なさい。あなたはわたくしの秘書なのだから」


「はいはい、分かったよ」


 せっかくミャルが励ましてくれたのに、レイア様は鬼だ。鬼がここにいる。大体、秘書だからって手先の器用さは関係ないと思うんだ。

 でもレイア様が厳しいのはいつもの事だから、軽くスルーしてお待ちかねの試食タイムといこう。


「ほらレイア様、食べよう。味は変わらないはずだから」


 お茶のお代わりを用意して、丸いシュプレを食べる。

 うん、僕としては結構美味しく出来たと思うよ。


「ん……形はイマイチだけれど、味は悪くないわね」


「そうダネ。こんな形でも結構美味しいヨ」


「モルなしで作ったわりに、かなり近い味だとワタシも思う。ナカムラの母君は素晴らしいな」


「ありがとう、ミカーリさん」


 どうにかレイア様も納得してくれたらしい。

 それにしても本場の人に認められるというのは嬉しいものだ。母さんにも伝えたら喜ぶだろうな。


「そんニャにちゃんとしてるニャ? 食べるの楽しみニャ!」


 みんなが試食してるのをミャルも楽しそうに眺めているけれど、まだ食べられない自分が作ったシュプレを見る目はやっぱりどこか寂しそうだ。


 せっかく来てくれたのに、ミャルをこんな顔で帰したくないな。僕らと過ごす時間は、どれも心から楽しかったと思えるものでいてほしい。

 僕が世話係だからとか、全宇連加盟に向けて良い印象を持って欲しいとか、そういう気持ちからじゃなくて、もっと純粋にミャルには笑顔でいてほしかった。


「ミャル、良かったらこれも持っていって」


「ウニャ? これ、ニャカムラくんのシュプレじゃニャいニャ?」


「こっちは余った生地を丸めたやつだよ。でも物は同じだから、これを検査に出すといいよ。自分で作ったのは全部食べたいでしょ?」


「ニャカムラくん、ありがとニャ! 嬉しいニャ!」


 すぐに食べれない分、後からちゃんと味わってもらいたいから、最初からミャルには余分に持ち帰ってもらうつもりだった。

 とはいえ、実を言えばさっき僕が食べたのが余り物で、今渡したのが失敗した元星形のものだったりする。本当は綺麗に出来上がったものをあげたかったけど、失敗した事でかえって気を使わせなくて良かったかもしれない。


「じゃあ、持ち帰りやすいように、ミャルのと一緒に包んでおこうか」


「ニャにからニャにまでありがとニャ!」


 いつもはこんな事なんてしないけれど、ついでに部室に置いてあるラッピング材を使って出来る範囲ではあるけれど可愛らしく包んで渡せば、ミャルは嬉しげにシュプレを抱きしめた。

 やっぱりミャルは、落ち込んでるより元気な姿の方がいいな。


「レイアちゃん、ミカーリちゃん、ドリュアちゃん、みんニャ見てニャ! 可愛くしてもらったニャ!」


「ヨカッタね、ミャルちゃん」


「うん、可愛いネ」


「あら、珍しく気が利くわね。中村もやるじゃない」


 そのままミャルは、ラッピングしたシュプレをみんなに見せに行く。


 別に大したものでもないのに、僕が渡した物でこんなに喜んでくれるなんてなんか幸せだ。

 それは友達だからとか、世話係だからとか、そんなあっさりした気持ちじゃないって分かってしまって、自分でちょっと戸惑う。


 でもレイア様たち女子と戯れる姿を見ていると、猫型とか人型とか関係なしにミャルもただの女の子なんだってつくづく感じて。

 マイノリティかどうかなんて気にしなくてもいいんじゃないかなと思えてくる。


 もしかしなくても僕はきっと、女の子としてミャルが好きなんだ。僕の手で笑わせたいって思うぐらいに。

 いい加減それを認めてもいいんじゃないかなって、そんな事を思った。

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