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32:コネコネの時間

 準備も終わった所で早速調理に取り掛かる。

 部員たちは班ごとにそれぞれ分かれて調理台を使っているんだけど、僕はいつもレイア様とミカーリさん、ドリュアさんと同じ班だ。そこに今日はもちろんミャルも加わっている。


 材料を計量する時もレシピに従って順番に混ぜ合わせていく時も、使う器具がミャルの知る物とはとことん違うようで、瞳をキラキラと輝かせるミャルがとにかく可愛い。

 エプロンを着けてるって時点で、そもそもいつもより可愛いが突き抜けてるんだけどな。


「今日のポイントはこれね。ラスカの実という、最近地球でも輸入され始めた食材よ。おばさまの話だと、これを生地に混ぜて焼けばシュプレの独特な食感に近くなるらしいわ。ラスカの実は、ドリュアさんの星の豆なのよね?」


「そうダネ。でもこんな風に蒸して潰すなんて初めてヨ。カリッと揚げて食べるものだカラ」


「揚げると美味しいお豆ニャ?」


「味見させてあげたいケド、まだ無理だったヨネ。ミャルチャンもそのうち食べてみるとイイヨ」


「きっと食べるニャ! 楽しみニャ!」


 ミャルは楽しそうに参加してくれているけれど、完成品を食べるのはまだ無理なんだよなぁ。

 ただシュプレは長期保存に向いているパンでもあるから、詳しい検査をしてもらって大丈夫そうなら後日ミャルも食べることは出来るだろう。


「ワタシの星で、シュプレは元々祭りの時に作っていたものなんだ。カミに捧げるものだったから、カタチはみんなそれぞれ工夫して出来る限り華やかに作る。タトエバこんな風にリボンみたいにしてみたりな」


「難しいニャ。こんな感じニャ?」


「ウン、いい感じだ。モットモ、コレにモルは入っていないから、焼いたら崩れてしまうかもしれないが」


 もうミャルはすっかりミカーリさんの翼にも見慣れたから、ミカーリさんの方も警戒心はない。

 二人仲良く並んで生地を成形しているのを見ると、なんかほのぼのしてくるな。


 そして気が付けば、ミャルは尻尾を腰に巻き付けている。もしかして尻尾が揺れて埃が立つ事を気にしたんだろうか?

 細かい所にも気がつくとか、可愛いだけじゃなくて優しすぎるだろ! 髭に小麦粉つけつつも一生懸命にコネコネしてる姿も可愛いし、控えめに言っても最高すぎる。


「中村、もう少し綺麗に出来ませんの? 星型なんて簡単でしょう?」


「そんな文句言うならレイア様が自分でやればいいじゃないか」


「人には向き不向きがあるというものよ」


 僕はといえば、不器用なレイア様の分まで成形してたりする。僕だって得意なわけじゃないんだから無茶を言わないでくれ。

 レイア様はミャルの爪の垢でも煎じて飲むべきだと思う。まあそんなことは心の中で思うだけで、絶対に死んでも言えないけどな。


「私も出来たヨ。こんな感じでどうカナ」


「うわっ、すごっ」


「まあ、素晴らしいわ。さすがドリュアさんね」


 一人で黙々と取り組んでいたドリュアさんは、何をどうやったのか薔薇のような形を作り上げていた。

 レイア様も、僕じゃなくてドリュアさんに頼めばいいのに。


 みんなでワイワイしながら作業を続け、最後に焼くのはオーブン任せだ。

 汚れた器具も全部食洗機に突っ込んで、あとはお茶を飲みながら焼き上がりを待つだけ。


 そのお茶はといえば、僕が全員分入れてサーブしていく。

 入部と同時にレイア様の命令で始まった待ち時間恒例のティータイムは、執事カフェみたいだと部員全員に好評だ。

 でも、何度も言うが僕は秘書だからな!


「ニャカムラくんが淹れてくれるお茶、ニャーも飲みたかったニャ」


 ミャルは一人だけ持参の水筒だ。物欲しげな視線をじっと手元に注がれると、胸がむず痒くなってくる。


「ミャルが地球の食べ物も大丈夫になったら、いつでも淹れてあげるよ」


「本当ニャ?」


「もちろん。いくらでもミャルのために淹れるから、楽しみにしてて」


「分かったニャ!」


 こんなに楽しみにしてもらえると、紅茶にコーヒー、緑茶や抹茶に至るまで、全てのお茶というお茶の美味しい淹れ方を覚えた苦労も、やって良かったと思えてくる。

 お茶入れも世話係も元はといえばレイア様の無茶振りから始まった事なのに、ミャルの笑顔のためなら何だってやりたいと思えてくるから不思議だよ。

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