30:部活選びも一苦労
ミャルが来てから一ヶ月が過ぎて、六月ももうすぐ終わるという頃。ようやくミャルは丸一日学校にいて、全ての授業を受けるようになった。
ここまで来ると、今までは放置していた部活動についても考える必要が出てくる。
西宝院学園では部活動は必須というわけではないけれど、ミャルが色んな事を学ぶためにはやっぱり部活には参加した方がいい。
放課後どこかへ遊びに行きたいと思っても極秘留学の身の上では難しいんだから、学内での活動内容を充実させるのが最適だろう。
そしてそんな考えは、僕が言い出すまでもなくみんなも気付く事で。
ミャルがそろそろ帰りのHRにも出る事になりそうだという話が出回るや否や、待ってましたとばかりに様々な部から見学に来てほしいという誘いが僕の元へ殺到した。
何せ僕は世話係だからね。ミャルに関する事は全部僕を通してもらう事になってるから。
さばくのは大変だったけど、手は抜かずに全力で当たったさ。
まず、運動系の部活は軒並み勧誘に来た。
交流体育祭でミャルの活躍を見たら、ぜひにと言いたくなる気持ちは分かるよ。
でも陸上部や登山部、剣道部やサバゲー部はいいとして、サッカーやテニス、バスケにソフトボールと、球技系はダメだ。申し訳ないが、その場で即断らせてもらった。
僕らのクラスにも部員がいるからミャルにボールは危険だと伝わっているはずなのに、どうして自分たちはダメなんだと食い下がられたりもしたから、諦めさせるために見せてもいいかな? とも思ったりもしたけれど。
暴走するミャルを止めるのは僕の役割になるわけで、余計な手間はかけたくない。断固拒否させてもらった。
唯一沈黙を保ったのは水泳部ぐらいだ。猫型だから水は苦手だろうと遠慮してくれたんだろう。ミャルは泳げるみたいだけど、希望者をこれ以上出したくもないから教えていない。
文化系の部活からは、美術部に写真部、漫研から真っ先に声が上がった。被写体として是が非でも来てもらいたいという欲があったみたいで、めちゃくちゃ熱量が高かった。
どんなにいい作品が出来上がっても公には出来ないし、自宅にも持ち帰れないけどいいのかと聞いても、それでも構わないという。
いや、どんだけミャルをモデルにしたいんだよ。てか、それでミャル自身が楽しく活動出来ると思うのか?
まあその辺はミャルが決める事になるだろうから、勝手に断ったりはしなかったけど。
そして次に来たのは、意外にも演劇部だった。
なんでも交流体育祭でドーバル君に送った声援が演技だったと気付き、ミャルには才能があると確信したからスカウトしたいんだそうだ。常日頃の塩対応を見ていれば、確かにあれが演技だったと気付くよな。
気の早い部長は、すでにミャルを主役にした台本まで書き上げてきていて、これまた熱の籠ったプレゼンをされた。
これが結構面白くてぜひ見たい気もしたけれど、相手役とのキスシーンがあるのはいただけない。あくまでも振りとは分かっていても、やっぱり何となくそんなシーンは見たくないんだ。
もしミャルが入りたいと言ったら、このシーンだけは絶対に変えてもらうつもりだ。
他にも文化系からは、宇宙交流部や天文部、吹奏楽部に華道部、園芸部や生物部と様々な部から勧誘が来ている。
運動系と文化系合わせて二十を超えるから、全部を見ようとするとかなりの日数が必要になるだろう。
だからというわけではないけれど、まずは僕が入っている部活から紹介する事にした。
勧誘に来たみんなには、見学はひとまず保留という形で伝えてある。ミャルが見たい順に見てまわり、決まったらそこで終了というシステムだ。
「ミャル。部活見学なんだけど、特に希望がなければ料理研究部から行ってみない? しばらくは作っても食べれないとは思うけど、僕とレイア様も入ってるんだ。色んな星の料理も見れるしさ」
「もちろん良いニャ。他の星の料理、どんニャのがあるか気にニャるニャ。でも、ニャカムラくんも料理するニャ?」
「一応はね。メインは裏方だけど」
僕らが料理研究部に入ったのは、元を辿れば僕の母さんがきっかけだ。
母さんはちょっとした料理研究家で、各惑星の料理を地球の食材でいかに似せて作れるかを追究している。
父さんが仕事柄、色んな星への出張が多いんだけど、そこで食べた珍しい料理の話をしてくれたり、現地で人気のお菓子をお土産に買ってきてくれたりするんだ。
母さんはそれを自分でも作ってみたいと思ったらしい。
そんな母さんはたまにテレビに出たりレシピ本も出しているけれど、オンラインで料理教室もやっていてそこそこ人気だったりもする。
料理研究部員もそれを知っていて、僕が入学した時に熱心に勧誘を受けたんだ。母さんのレシピを部活で使わせて欲しいという話も合わせて。
それにいち早く乗ったのは、僕じゃなくてレイア様だった。
レイア様も母さんの料理のファンで、オンライン料理教室にも参加してみたいと思うほどだったけれど、レイア様の家にはシェフがいるからそうもいかなかった。
そもそも台所に立たせてもらえないから料理経験は学校での調理実習のみだったレイア様は、僕の家で直接母さんから教わろうともしたけれど何かと忙しく、時間が合わずに機会がなかった。
そんなレイア様も、部活ならいくらでも料理を出来るというわけだ。
結果、レイア様は現在料理研究部部長になっている。
僕はといえば一応料理もする時はあるけれど、基本は裏方。食材の手配や部費の管理なんかが僕の仕事だ。
だってさ、部員の中で男は僕だけなんだ。
最初は男子部員も結構な人数いたんだけど、レイア様に不必要に近づこうとするから退部させられたりしたんだよね。残った男子の先輩方も卒業しちゃったし。
女子ばかりの中で一緒に料理するって、かなり肩身が狭い。
「ミャルが入ってくれたら嬉しいけど、無理はしなくていいから。試してみて他の部活がいいってなれば、僕もそっちを一緒にやるし好きなのを選んでね」
「料理研究部やめちゃうニャ?」
「ううん、どっちもやる事になるかな。ほら、僕は裏の作業が多いから。兼部しても負担にはならないから、気にしなくて大丈夫だよ」
「そう言ってもらえるニャら、気に入ったのにさせてもらうニャ!」
僕にとってはイマイチ居心地の悪い料理研究部だったけど、ミャルが入ってくれるなら女子ばかりというのは利点だ。他の部活だと、男子の動きを何かと気にしないといけなくなるから。
それに僕だって料理は嫌いじゃないんだ。ミャルと一緒に出来たら楽しくなるだろう。
別にミャルの手料理をもらえるかもしれないなんて思っていない。もしもらえたら、めちゃくちゃ大事に食べるけどな。




