19:あの素晴らしいモフモフをもう一度
長らくお待たせしてごめんなさい!
コロナと後遺症でダウンしてましたが、復活したのでぼちぼち更新再開していきます。
南條を始め、波乱の綱引きでの負傷者が軒並み保健室へ運ばれた後、少しの休憩を挟んでスプーンリレーが始まった。
目立つクラス対抗リレーに残念ながら出られなかった田中が、ここで魅せるとばかりに張り切っているようだ。
でもすまない、田中。相変わらずガードされてるミャルの後ろに控えてる僕からは全く見えない。
さらに言えば、正直周りを見ている所じゃないというのもある。
実際目の前で、またしてもミャルがミカーリさんの羽根にじゃれ始めているけれど、僕の思考は全く違う方に向いている。
いやだってさ、さっきのモフモフは何だよって話だよ。
めちゃくちゃ柔らかくて滑らかでフワッとしていてほんのり温かくて、ほんの短い間だったけど極上としか言いようのない肌触りのモフモフを感じたのは、気のせいなんかじゃなく間違いなく事実だった。
あのモフモフは一体何だ?
僕の上にはレイア様が倒れ込んできたわけだけど、当然ながらレイア様はモフモフしていない。
どちらかといえば……って、思い出しちゃダメだ。万が一にもこんな事考えてるってバレたら僕の命が危ない。
それでつまりあの場で感じたモフモフは、レイア様の上にいたミャルの腕か尻尾あたりの可能性が高いわけで。
なのにモフモフに直に触れた僕の腕や脚には、アレルギー反応は何一つ出ていない。
という事は、もしかしてもしかすると僕の猫アレルギーはミャルたちUMYA相手には発症しないんじゃないか?
たった一度触れただけで決めるのは早計な気もするけど、少しくらい試してみてもいいのかもしれない。
何よりあのモフモフ触感をもう一度味わいたい!
もし本当に何のアレルギー反応も起きないなら、ぜひとももっとじっくり堪能してみたい‼︎
でもミャルには不用意に接触しないという全生徒共通の約束があるし、そもそも女の子のミャルに「ちょっとだけでいいから触らせて」と頼むのはあらゆる意味でよろしくない。
そんな事を口にすれば変態認定一直線、レイア様のみならず女子全員からフルボッコにされること間違いなしだ。
仮にそうならなかったとしても、真正面から頼んでもしアレルギー反応が出たりしたらきっとミャルは傷つく。
可愛いだけじゃなく、優しくて良い子なんだよミャルは。
それに下手したら世話係すら外されるかもしれない。せっかく仲良くなれたのに、それはさすがに嫌だ。
偶然を装ってほんの少しだけ触れて個人的に確かめてみるのが最善かつ唯一の方法だと思う。
今日はこの後、僕とミャルは大縄跳びに出るけれど、残念ながら猫アレルギーの僕のためにと並び順は少し離れている。
最後に控える三十人三十一脚に至っては、クラスの女子全員が僕とミャルとの間に入るし、何がどう間違っても絶対にモフモフに触れる事は出来ないだろう。
でもこの機会を逃したら、もう偶然に皮膚接触出来る事はなさそうなんだよな。
手袋さえ外してしまえば握手ぐらいなら出来るし、その程度は許してもらえるだろうけど、いきなりそこまでガッツリ触れるのもそれはそれで少し怖い。そもそもそこでアレルギー反応が出たらミャルが傷付くというのは変わりないし。
うーん、どうするべきか。諦めるしかないのかな。
目の前に座るミャルのゆらゆら揺れる尻尾の先っちょだけにでも、ほんの少し触れたら充分なんだけどなぁ。
僕がそんな煩悩に塗れている間に、スプーンリレーは見事一位で終了した。
良かったな、田中。勝利に湧く女子と肩を組もうとした所をすげなく断られてるみたいだけど、僕はおめでとうを言うよ。きっとお前の勇姿を認めてくれる女子もどこかにいるはずだ。僕は何一つ見てないから、本当に活躍したのかは知らないけど。
あーでも、競技で一位取れたらあんな感じでどさくさ紛れに僕もミャルに触れたりするのかな。
ハイタッチぐらいならさり気なく出来るんじゃないか? 大縄跳びは手袋外して挑もうかな。
というわけで、こっそり手袋を外して大縄跳びに出たわけだけど、結果から言えば作戦は失敗に終わった。
観戦中ミカーリさんの羽根でとことん遊び尽くしたおかげか、競技自体はミャルが暴走する事もなく無事に終わったんだけど、残念ながら一位を取れなかったからだ。
せっかくのチャンスだったのに悔しすぎる!
「くっ……あと少しだったのに……!」
「珍しいわね、中村があんなに悔しがるなんて」
「それはほら、おれみたいに活躍してる所をミャルちゃんに見せたかったんじゃないかなー。まあどっちにしろ、並び的にミャルちゃんからナカムーは見えなかっただろうけど」
「あら、田中。あなたいつ活躍なんてしてましたの?」
「えっ、レイア様見てないんですか⁉︎」
「悪いけどミャルさんも見てないと思うわよ」
「グハッ、そんな……!」
「レイア様、田中にトドメ刺すのはやめてあげてくださいよ。中村もそう落ち込むなって。まだ三十人三十一脚があるんだからさ」
保健室から無事に復帰してきた南條が肩を叩いてきた。
そうだよな、まだ最後のチャンスが残ってるんだ。次こそは絶対に一位を取ってやる!




