17:八百長? いえ、実力です
レイア様が決勝で待つみたいな事を言ったし、やる気を出してるミャルのために頑張ろうとは思ったけど、正直言って僕らのクラスが勝ち上がる確率は低かった。
人型の生徒しかいない僕らのクラスのほとんどは地球人。中には宇宙人とのハーフやクォーターもいるけれど地球人の血が強く出ている生徒だけだから、当然綱引きメンバーも地球人ばかりで構成されている。
例外はミャルとミノレス君ぐらいだ。
対して他のクラスはといえば、生粋の宇宙人がゴロゴロいるわけで。象やサイ、ゴリラみたいなパワー系宇宙人に、普段は人型になってるけど実はクジラ型なんていう超重量系大型宇宙人まで多種多様。
そんな彼らのほとんどが、こぞって綱引きメンバーに選出されてるわけだ。トーナメント運次第では初戦敗退も有り得る厳しい戦いが予想された。
されたんだが……。
「やったニャ! ニャーたちの勝ちニャー!」
どうしてか僕らは順調に勝ち続けている。
最初は運が良かったのかなと思ってたけど、それこそ相手チームの半分がパワー型だった時点でさすがにおかしいと気づいた。
でも考えてみれば理由は簡単だった。
今も勝利に喜ぶミャルを相手チームがほんわかした笑顔で見ているように、みんながミャルを見続けたいからだった!
まあね、気持ちは分かるさ。
ミャルが出場してる間は空中に巨大なホログラムスクリーンで顔が映し出されるわけで、負けた瞬間に全生徒からブーイングが上がる事間違いなしだもんな。
程よく試合を盛り上げて頑張るミャルの姿をみんなで堪能し、疲れる前に勝たせて喜びの姿を噛み締める。ミャルもみんなも嬉しくてwin-winの形だ。
けどだからっていいのかこれは⁉︎ おもてなし精神どころの話じゃないだろ⁉︎
さてはレイア様、こうなる事を分かってたな!
「何かしら、中村?」
「いや、別に……」
「わたくしは何もしてなくてよ」
僕はそんなに分かりやすい顔をしていたんだろうか? まだ何も言ってないのに応えられてしまった。
でもそうか、レイア様が誘導したわけじゃないのか。こうなる予想はついていたのかもしれないけれど、八百長ではないんだな。
純粋な忖度による決勝出場……。
正直複雑な心境ではあるけれど、ご機嫌に尻尾を立てているミャルを見ているとこれもいいかと思えてきた。ある意味、可愛いも実力と言えるわけだし。
うん、気付かなかった事にしよう。
そしてレイア様に挑戦状を叩きつけられた形の橘だけど、あっちも無事に決勝まで勝ち上がってきた。
隣のクラスだからか向こうも僕らのクラスと似たような感じで地球人の割合が多い。メンバーになった生粋の宇宙人はドーバル君ともう一人熊系宇宙人がいるぐらいで、橘はハーフ。
当然、苦戦する可能性もあったけれどそうはならなかった。
もっともこれは、忖度の結果じゃない。
女子生徒の視線を独り占めする橘は男子生徒からは何かと敵対視されるから、かなりの激戦になったはず。それでも勝ち上がってきたのは橘のアレがあったからだろう。
今年も聞こえた、何も知らない一年生女子からのガチな悲鳴には苦笑してしまった。
アレがあるから、女子に人気なはずの橘に直接言い寄る子がいないんだよ。レイア様が橘の好意を素直に受け取れない理由もここにある。
トーナメント戦は複数同時に行われてるから僕らからは橘の試合は見えなかったわけだけど、アレを見たらミャルもビックリするだろうな。
驚くだけならまだしも、猫の本能が刺激されてじゃれつこうなんて思ったらどうしよう。
とはいえ、ここまで来たら避けようがない。
聞くより見る方が断然早いし、事前にじゃれるなと言った所で通じるはずがないだろうし、もうこのままやるしかないと腹を括ろう。
「よく決勝まで来れたわね。褒めて差し上げるわ」
決勝戦を前に入場口で向かい合った橘に、レイア様がツンと顎を上げて言い放つ。
対する橘は、柔らかく微笑んで返してきた。
「愛するレイアとの約束だからね、もちろん守るさ。ところで提案なんだけど、ボクが勝ったらデートしてもらえないかな」
「ふざけたことを。わたくしがそんな話に乗ると思って?」
「別にいいじゃないか。叩きのめしてくれるんだろう?」
「安い挑発ですこと。ですが、もし勝てたら考えて差し上げてもよろしくてよ」
「さすがにそのまま飲んではもらえないか。でもいいよ、今はそれで。逃がす気はないからね」
橘の碧眼がキラリと光った気がして、ちょっとゾッとした。いやこれ、煽りすぎなんじゃないかレイア様。大丈夫か?
「キシャー! レイアちゃんは渡さニャいニャ! 絶対負けニャいニャ!」
「フン、ルイが負けるハズないダロ」
そして気がつけば、犬系宇宙人のドーバル君とミャルが威嚇しあっていた。
猫みたいな威嚇声をUMYAも出すんだな。ミャルの尻尾がブワッと膨らんでて可哀想だけど可愛い。
……じゃなくて、ミャルのためにも頑張らないとな!
「いいわね、中村。必ず勝ちますわよ!」
「え? あ、うん」
「中村、あなたねぇ……! ミャルさんが親身になってくれてるというのに、何ですのその気の抜けた返事は!」
ついついミャルに見惚れていたら、レイア様に怒られた。
そうだった。レイア様のデート権も何故か掛かってるんだった。
「分かってるでしょうけど、もしわたくしがデートする事になったらあなたも行くのよ!」
「えっ、マジで⁉︎」
「わたくしの秘書なのだから、当然でしょう!」
いや、デートに秘書付いてるとか初耳ですけど⁉︎
でもレイア様には逆らえないし、とにかくここは勝つしかない。全力を出さないと。




