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16:天敵?があらわれた

 新たなメンバーとして女子二人を加えた大玉転がしは、高等部二年の中で第三位というなかなかの滑り出しとなった。

 続いて行われた玉入れでは玉拾いのプロ南條の活躍もあって第二位になり、優勝も狙える位置をキープしている。


 そうして迎えた第三競技は僕らも出る綱引きだ。ミャルが校庭へ移動を始めると、全校生徒の熱い視線も動く。


 人のこと言えないけどみんな見過ぎだろう。ミャルが変に緊張しても可哀想なので、綱引きメンバーでさり気なくミャルを囲んで視線をシャットアウトした。

 舌打ちやブーイングも漏れ聞こえたけど知らないふりだ。競技中は大画面にも映るし、いくらでも見れるんだから今は我慢してくれ。ミャルのためなんだからな。


 学年別ではあるけれど全クラス一斉に戦った玉入れと違って、綱引きは大玉転がしと同じくトーナメント形式になっている。

 グラウンドに綱が何本も用意されるのを入場口近くで待っていると、一人のキラキラしい男子生徒が近づいてきた。


「やあ、レイア。君が綱引きに出るなんて珍しいね」


 声をかけてきたのは隣のクラスの学級委員長、(たちばな)ルイだった。


 宇宙人とフランス系日本人のハーフである彼は、どこの王子様かと思うようなイケメンで金髪碧眼の持ち主だ。

 実際、宇宙有数の金融企業の社長令息というだけでなく、かなり順位は低いものの、宇宙人の母親の星では王位継承権もあるらしい。


 見た目と家柄の良さはもちろん、爽やかな性格も相まって女子の人気がめちゃくちゃ高い。

 今も、ゴツい男ばかりが集まるグラウンドに降りた橘の姿に、キャーキャーと黄色い悲鳴が上がっている。


 そんな橘が寄ってくるなんて、ものすごく面倒だ。でもミャルではなくレイア様に用とあっては邪魔は出来ない。僕らは渋々ながらも橘を通す。


 とはいえ僕はレイア様の秘書でもあるから離れられず、レイア様の後ろに控える。

 ミャルは僕のさらに後ろ。メンバーに囲まれてるから安心ではあるけれど、ある意味では安心出来ない。こいつら、ミャルにちょっかい出したりしないよな? 僕の背中に目があったらなぁ。


「橘……何の用ですの?」


「冷たい事を言わないでくれよ。ボクと君の仲じゃないか」


「おかしな事を言わないでくださる? わたくしとあなたは、ただの同級生というだけですわ」


「そうだね、今はね」


 ニッコリ笑った橘に、レイア様は顔を赤くしながらもツンと外方を向いた。


 見てわかると思うけど、橘は昔からレイア様に惚れている。家を通して婚約の打診もしているみたいだけど、レイア様は断っているらしい。

 でも見る限り、レイア様も満更でもなさそうなんだよね。まあ渋っている理由も、僕には分かるんだけど。


 そしてそんな二人の様子には、ミャルも興味津々なようで。


「ニャカムラ君、その人誰ニャ? レイアちゃんの友達ニャ?」


 後ろからそっと問いかけられてドキッとした。ミャルの声は合成音声だから耳元で囁かれるとかそういうわけじゃないんだけど、何といっても距離が近い。

 このドキドキは、猫アレルギーだからとかそういう嫌なドキドキじゃなくて、ソワソワしちゃう感じの良いドキドキだ。


 つい顔を赤くして固まっていたら、橘にも聞こえたのか笑みを向けてきた。


「ああ、ミャルさんだったよね。初めまして。2-Bでクラス委員長をしてる橘ルイだ。ボクとレイアは、今は友達だけど未来の恋人って所かな」


「橘! 勝手なことを言わないでちょうだい!」


「アハハ、ごめんね。でもボクの本心だから」


 レイア様が怒っても気にも止めず、橘はパチンとウィンクを飛ばす。途端、キャーと黄色い悲鳴が観客席の女子たちから起こった。

 キザな仕草だけどこれがまた似合うんだよ、この男は。あまりに見慣れて悔しさも起きない。そもそもレイア様に睨まれたりしたら、僕は震え上がるだけだし。


 でももしかして、ミャルもこんな橘に見惚れたりするのかなと思うとなんか腹立たしい。

 不安を感じつつ振り向いてみたんだけど、幸いにもミャル本人は、ごく普通に納得したという風に頷いていた。


「ウニャ……。タチバニャ君の片想いってことニャんだニャ」


「残念ながら、今のところはそうなるね」


 橘は苦笑して返したけれど、この会話にレイア様が目を見開いた。


「なっ……! 橘、あなたもですの⁉︎」


「ん、何のこと?」


「中村といい、橘といい、どうしてあなたたちばかりが……!」


 これはあれだ、ニャの恨み再びだ。せっかく落ち着いてきたのに、またぶり返すとは。下手をすると僕に全ヘイトが向きかねない。

 頭を抱えたくなったけれど、それより先にレイア様がビシッと橘に指を突きつけた。


「見てなさい、橘! この恨み、今日ここで晴らさせていただきますわ!」


「どうしたのかな、レイア。突然そんな怒って」


 あまりの剣幕にさすがの橘も戸惑っている。これは理由を教えてやらないと可哀想だな。


「あー、橘。問題なのは僕らの名前なんだよ。ミャルの翻訳は、ナをニャに変えるようになってるから」


「なるほど? そういうことならレイア、何も問題ないよ。ボクと同じ苗字になれば全部解決さ」


 最低限の説明しかしてないのに、察しのいい橘はこれだけで全てを理解してくれた。

 理由を知った橘の切り替えは早い。橘は艶やかな笑みを浮かべて、レイア様に手を伸ばす。


 けれどその手を、レイア様は即座に叩き落とした。


「お黙りなさい! わたくしがそんな話に乗るわけがないでしょう! 余計なことは言わずに、決勝まで上がってくることね。そこで叩きのめして差し上げるわ!」


 分かってはいたけど、レイア様が聞く耳を持つはずないよね。

 まあでもこれで僕は助かるというわけで。橘には悪いけど、捌け口になってもらおう。


「ルイ、ダイジョブか? ケンカか?」


「ああ、平気だよ。待たせてすまなかったね。行こうか、ドーバル」


 少し離れた所で待っていた、橘のクラスメイトの犬系宇宙人ドーバル君が心配そうにやって来た。

 ドーバル君は、二足歩行の大型犬そのものという見た目だ。毛は長めだけど目付きが鋭く、黒と茶という体色も相まってドーベルマンとシェパードを掛け合わせた感じに似ている。


 ドーバル君を見たミャルが尻尾をブワリと膨らませたけれど、橘とドーバル君は何も言わずに去っていった。


「ビックリしたニャ。犬みたいニャ子もいるんだニャ」


「さっきのは犬系宇宙人のドーバル君だよ。橘のボディガードみたいな感じでいつも一緒にいるんだ。やっぱり犬は苦手な感じなの?」


「べ、別に苦手じゃニャいニャ! ただちょっと、噛みつかれたら怖いだけニャ。あの子も(つニャ)引きに出るニャ?」


「さすがに噛みついたりはしないから大丈夫だけど、綱引きには出ると思うよ。今ここに集まってるのは、出場メンバーだけのはずだから」


「それニャら、ニャーも頑張るニャ。レイアちゃん、絶対勝とうニャ!」


「ええ、もちろんですわ。優勝しますわよ! みなさんもよろしいわね?」


「オー!」


 なぜかミャルもやる気を出して、二人に引きずられるように他のメンバーたちも気勢を上げる。

 正直僕はこの勢いについていけないけど、犬系宇宙人に対抗心を燃やしてしまうミャルは可愛い。ミャルのためにも、僕なりに精一杯頑張ってみようかな。

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