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14:どうしてもムズムズしちゃう

 ミャルが暴走した昨日は早々に帰る事になったけれど、特に問題なければ今日はもう少し登校時間を伸ばしてもらう事になっている。

 そんなわけで、小休憩を挟んで二時限目に突入だ。引き続きの体育の時間、最後に残った大縄跳びを試すことになる。


 屋上校庭の片隅では、休憩時間中もみんなから突き上げを喰らっていた南條が魂を飛ばしているが気にしない。


 まさか南條が、ノリノリでミャルの言葉を真似するばかりか、抜け駆けしてハイタッチまでするとは思わなかった。田中ならいくらでも予想出来たけど、南條は基本真面目な男なんだ。

 それだけミャルの可愛さが突き抜けていたという事なんだろうけど、羨ましいのは変わりない。当然の報いだと思うぞ。うん。


 そうして始まった大縄跳びは、どうにか無事に乗り切る事が出来た。どうにかというのは、つまり進行には問題が起こらない程度の問題はあったという事だ。

 例の如く、僕とミャルが接触しないよう、ミャルの前後は女子生徒と順番が決まっていて、僕は離れて跳ばなければいけないという悲しい事実はあるんだけど、問題はそこじゃない。


「フワフワしてるニャ。ムズムズするニャ」


「我慢、我慢だよ、ミャル」


「分かってるニャ。でも気にニャるニャ」


 ミャルが何を気にしてるかと言えば、懸念していた縄ではなく、それを回す生徒だった。


 真っ白で大きな翼を持つ、通称エンジェル星人の女子生徒ミカーリさん。そしてコウモリみたいな翼と尖った尻尾、羊みたいな巻角に尖った耳を持つ、通称デビル星人の男子生徒アスモド君。

 とにかく翼が大きい二人は、他の競技に出ると翼がみんなの邪魔になってしまうという事で、大縄を回す係として立候補して大縄跳びメンバーになっていた。


 この二人、翼や尻尾等があるだけで顔や体は人型なんだけど、その顔が物凄い美形だった。だから常に人目を惹きやすい人物ではあるけれど、ミャルが気にした理由は違う。


 どうしても縄を回す時には彼らの翼も動いてしまうようで、それにミャルが気を取られてしまったんだ。

 大縄に入って跳び始めてしまえば気にならないみたいだけど、それまではどうにもミャルの本能が疼くらしい。


 二人は初日にミャルの姿を見た瞬間から一応警戒していたようで、これまでは出来る限り翼を動かさず、かつ遠目にミャルを見ていたらしい。

 彼らのもう一つの出場競技はクラス対抗リレーなのもあって、これまでミャルに翼の存在は気付かれなかったみたいだ。

 それなのに、ここにきてこれだもんなぁ。


 練習はとりあえず終えたけれど、今もミャルの視線は二人の翼にロックオンされたままだ。

 可哀想に、二人は完全にビビって距離を取っている。今の彼らは天使と悪魔というより、猫に狙われる小鳥とコウモリに見える。


「レイア様、どうする? 競技自体は問題無さそうだけど、違う人に交代してもらう?」


「いいえ、このまま続行してもらいましょう。二人には心労をかけてしまうけれど、ミャルさんも一応は我慢出来るようだし、あまり甘やかしても良くないわ。クラスメイトだもの、少しずつ慣れてもらわなくては」


「それもそうか」


 レイア様の冷静かつ無情な判断で体制続行が決まった。心なしか有翼星人二人の顔色が青ざめて見えるけれど、僕にはどうしようもない。

 せめてミャルを抑える事だけは頑張ろう。


「ミャル、そろそろ次にいこうか」


「次? これで終わりじゃニャいニャ?」


「うん。一番大変なのが最後に残ってるよ。たぶん本番までに一番練習しなくちゃいけないんじゃないかな」


 無事にミャルの出場種目が決まった所で終わりに出来たら良かったけれど、残念ながらそうもいかない。


 これからやるのはお試しじゃない。最難関競技にして全員参加、ミャルも絶対に出なくちゃいけない三十人三十一脚だ。

 こればかりは出身星関係なく、とにかく練習をこなさないとゴールテープにすら辿り着けない。もちろん綱引きや大縄跳びの練習も本番まで続けるけれど、最も練習が必要になるのはこれだろう。


 幸いなのは、UMYAゆえの失敗がないだろうという事だ。

 何せ目指すはゴールのみ。みんな横並びで進むから、ミャルの気になる翼が目に入る事もない。


 初めての挑戦となるミャルは、少しでも進みやすいようにと列の一番端になるようにしてある。

 ミャルの隣はもちろんレイア様だ。二人の身長差は大きいけれど、ガッツリ肩を組んで進まなきゃいけないから他の人には任せられない。


 身長的には僕が隣で組めたら良かったけれど、残念ながら僕は猫アレルギーだから無理だった。

 レイア様の事は羨ましいけれど、どうせ僕はミャルに触れないんだ。クラスの勝利だけを考えて精一杯励むさ。


 決して悔しくなんか、悔しくなんか……やっぱり悔しいに決まってる‼︎

 でも諦めるしかないんだよなぁ。ため息しか出ないよ。


 その代わりに僕が任されたのは、列のど真ん中、男子と女子の境目だった。

 そう、この競技は体を密着させる関係上、左右を男女で分けた並びにしている。レイア様曰く「中村なら女子も安心出来る」という事らしい。確かに僕は田中と違っておかしな事を考えたりはしないけれど、それはそれで何とも複雑だ。


 ちなみにミャルの反対側、男子の端となる位置は危険人物田中ではなく運動音痴の南條だったりする。

 最悪の場合南條は引きずられる事になるが、それはそれで仕方ない。そうなった時は尊い犠牲にさせてもらおう。


 というわけで、ここからはとにかく練習あるのみだ。


「ミャルさん、行きますわよ」


「はいニャ! レイアちゃん、よろしくニャ!」


 レイア様は自然にミャルと手を繋ぎ、みんなが並ぶ列の端へと歩き出す。


 いいなぁ、僕も手を繋いでみたい。いや、繋ぐまでいかなくても、ほんの少し肉球に触れられるだけでもいい。手袋越しならそれぐらい平気だと思うんだけどな。


 きっと僕だけじゃなく、クラスのみんなも似たような事を思っているんだろう。互いの足を結びながら、クラス全員が羨ましそうにミャルとレイア様を見ていた。

 とはいえ、南條の時と違ってさすがにレイア様に文句を言う者はいない。文明の発達した二十二世紀でも、弱肉強食の掟は変わらずあるんだ。世知辛い世の中だよね、本当に。

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