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10:驚きの柔らかさ

「ミャルちゃん、おはよー!」


「みんニャ、おはようニャ!」


「うわ、半袖ハーパン着てる⁉︎」


「うひょー! めちゃくちゃ可愛いじゃん! 似合ってるねー!」


 大校庭に着くやいなや、ミャルは田中や南條を始めとしたクラスメイトのみんなに囲まれた。昨日だいぶ打ち解けていたからか、ミャルも元気に挨拶している。

 僕と同じように、結構な人数がミャルの体操服姿にノックアウトされてたけどみんな楽しそうだ。


 大校庭までは岩熊さんたちも付いてきてくれていたけれど、みんな全く躊躇せずに突っ込んでたなぁ。まあ、岩熊さんたちもクラスメイト相手には、特に阻むような事もしないんだけどさ。

 それでも強面で威圧感たっぷりなのに軽く無視されてしまったからか、苦笑いを浮かべて去っていった。


「お前ら、そろそろ始めるぞー」


 体育の澤谷先生が、軽くホイッスルを鳴らして集合をかけた。

 柔道部の顧問でもあるかなり大柄な男の先生で、パッと見はヤのつく職業かと思うほど凶悪な顔付きなんだけど、基本的には優しい先生だ。


 そんな漢の中の漢って感じの澤谷先生だけど、やっぱりUMYAには興味があったのか、ミャルに向ける視線はいつも以上に柔らかかった。


「お前が留学生か。本当に猫そのままだな! 俺は体育を担当している澤谷だ。しばらくは体育祭の練習になるが、一年間よろしくな。困った事があれば何でも言うんだぞ」


「ミャルですニャ。澤谷先生、よろしくお願いしますニャ」


「おう、いい返事だな。よーし、それじゃまずは柔軟からだ! いつも通り、みんな二人一組になって始めるぞ。ミャルは西宝院と組むように」


 もしかして世話係だから僕がペアをやれと言われるかと一瞬身構えたけど、そんな事はなかった。

 まあ、僕は男でミャルは女の子だし、さすがにペアはレイア様が妥当だろう。それにきっと僕が猫アレルギーだって事は、澤谷先生も知ってるんだろうし。


 そんな事を呑気に思っていたら、澤谷先生はとんでもない事を言い出した。


「中村は前に来い。俺が組んでやる」


「えっ、僕がですか⁉︎」


「どうせ一人余るし、お前はミャルの世話係だろう。ちゃんと手本を見せてやらないとな! ミャル、よく見て真似するんだぞ」


「はいですニャ!」


 僕らのクラスは元々三十人で、ミャルが来る前までは生徒だけで綺麗にペアが組めた。

 そこにミャルが加わったから、確かに一人余るのはそうなんだけど、こういう時って体育委員が先生と組むものなんじゃないのか⁉︎


 でも、断りたくても世話係だから手本をと言われてしまうと断れない。僕はそこから、地獄の柔軟を味わう羽目になった。


「いいか、向かい合って両手を掴んだら、片方が後ろに倒れる。この時、引っ張られる方は両足を曲げずに伸ばしたまま、体の力を抜くんだ。痛くなるまでしてはいかんぞ」


「うぐっ、せ、先生苦し……」


「中村、痛くはないんだろう。少し我慢しろ。みんなもいいか? そのままキープして、1、2、3……」


 基本的に優しい澤谷先生だけど、指導に関しては結構スパルタだ。それはストレッチにも反映されてて、確かに痛みはないけれどいつも以上に伸ばされてる僕は涙目だ。

 それなのに、僕以外はみんな和気藹々としていて。


「ミャルさん、すごいわね。まだ伸びますの?」


「全然平気だニャ。こんニャのでいいニャ?」


「さすがにこれ以上はわたくしが無理よ。もうご自分で好きなだけ伸びなさいな」


「そうするニャ」


 レイア様とミャルの楽しげな会話を聞く限り、どうやらミャルは猫みたいに柔軟性を遺憾無く発揮しているようだ。

 ぐぬぬ、見たい。見た過ぎる。


「すげーな、ミャルちゃん! 完全に地面に付いてるじゃん! さすが猫だよ、驚きの柔らかさ!」


「本当だな、まるで溶けてるみたいだ。バレリーナも真っ青って感じだな」


「ウニャ、そんニャに言われると照れちゃうニャ。このぐらいニャーたちには普通ニャ」


 な、何だって⁉︎ そんなに驚くほど伸びてるのか。しかも田中と南條に褒められてミャルは照れてるみたいじゃないか!

 あいつら、ミャルの貴重な照れ顔を見たとか羨まし過ぎるぞ! 僕も見てみたいけど、とてもよそ見出来る状態じゃないというのに。


 これから先も、ストレッチでは毎回僕が先生と組まなきゃいけないのか? このままじゃ、いつまで経ってもミャルの伸びが見れない。

 ただでさえ猫が体を伸ばしてる様は可愛いんだから、ミャルの姿はさらにもっと超絶可愛いに決まってる。何が何でも見たい!


 さすがに明日には間に合わないだろうけど、近いうちに必ずや誰かと交代してやる。

 とりあえず田中だな。あいつは僕よりも体が固かったはずだ。ただの八つ当たりなのは重々承知しているが、ミャルの溶け具合と照れ顔を僕より先に見たんだから変わってくれてもいいだろう。うん。


 そんな傍迷惑な決意を固める事で苦しさを紛らわせつつ、どうにか地獄の時間は終わった。


「よし、ここからは西宝院に任せるぞ。用具は体育委員が準備してたからな。好きなように始めるといい。もうメンバーは決めてあるんだろう?」


「ええ、もちろんですわ。それではみなさん、最初は大玉転がしから始めるわよ。メンバーの方は所定の位置へ。中村、ミャルさんにルール説明をお願いね」


 ようやく交流体育祭の練習開始だ。競技は全部で七種目あるけれど、団結力を高めるという趣旨だからその全てが団体戦だ。

 大玉転がし、玉入れ、大縄跳び、スプーンリレー、綱引き、クラス対抗リレー、そしてクラス全員が参加する三十人三十一脚がある。


 このうち、全員参加の三十人三十一脚以外の六つの競技に、一人最低二種目参加する事になっている。

 リレーだけはメンバーはすでに決定してるから、それ以外の五つをそれぞれ試してみて、一番ミャルが上手に出来たものに、ミャルと世話係の僕も加わる事になる。


 まず最初は大玉転がしから始めるみたいだ。僕はミャルにルールの説明を簡単にしながら、用意された紅白の巨大な玉の元へ向かった。

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