1:今週の注目度No. 1ニュース
ストレスフリーで気楽に読めるほのぼのラブコメを目指して書いていきます。
序盤は説明多めですが、徐々に弾けていく(主に中村君が)予定です。
よろしくお願いします!
「ユキ兄、ユキ兄! 大変だよ、ちょっと来て! 今すぐ来て!」
「ええ? 今髪セットしてる所なんだけど」
「そんなの後でいいでしょ! とにかく早く! 絶対にユキ兄が喜ぶビッグニュースだから!」
「おい、楓! 引っ張るなって! 分かったから」
僕の名前は中村雪成。三人兄弟の真ん中で、この春高校二年生になったところだ。
顔は典型的な日本人顔で至って平凡。先日行われた身体測定の結果、身長も体重も例年通り年齢別平均値ピッタリと分かった。特別勉強が出来るわけでも運動神経がいいわけでもなく、特筆するような特徴なんて何もない、どこにでも埋没しそうないわゆるフツメンというやつだ。
そんな僕はファッションにも特に拘りなんてないけど、毎朝念入りに髪をセットしている。というのも髪型は、とある理由で小学生の頃から七三分けと決まっているからだ。
校則の関係でヘアワックスが使えないから、ドライヤーだけで整えるのはなかなか大変なんだぞ、コンチクショー。
とはいえ今年中学に入ったばかりの可愛い妹に引っ張られたら、兄としては無碍に出来ない。大学入学を機に家を出ている兄さんの分まで、僕は末っ子の楓をとにかく可愛がっているのだ。
中途半端になっている髪はとりあえず後にして、これまた「キャラ立てに必要だから」という意味の分からない理由で義務付けられている伊達メガネを掛けて楓を追いかける。
百年前ならいざ知らず、今は視力矯正にメガネを使うなんて時代遅れなんだけど、ファッションとして残ってるんだよね。
あ、ちなみに自分の事を「僕」と言うのも僕の趣味じゃない。本当は僕だって俺とか言ってみたいけど、普段から言い慣れておかないとうっかり間違えた時に悲惨な目に遭うから仕方なくこうしている。いや、本当に大変なんだって。
「ほら、ユキ兄! これ、このニュース!」
両親こだわりのオープンタイプのLDKに行ってみれば、リビング側にあるホログラムテレビのニュース画面を母さんが食い入るように見つめていた。
ちょうど僕の朝食をダイニングテーブルに並べようとした所だったみたいで、中腰のまま固まっているのがちょっと笑える……なんて思ったのは一瞬。
「えっ、嘘だろ⁉︎ これフェイクじゃなくてマジのやつ?」
「そうだよ! だってこれMHKだもん!」
お堅い番組の多い公共放送局の名前を言われて、それならこれは本当なのかと僕も画面に釘付けになる。
リビングに浮かび上がる立体映像には、どこかの星に降り立ったらしい宇宙服姿の惑星探査員が、スーツ姿の中年のおじさんに猫耳と猫の尻尾を付けたようにしか見えない宇宙人と笑い合う姿があって。
画面の端では「ついに発見! 猫型宇宙人UMYAは実在した!」と派手な文字が踊っていた。
◇
今は21XX年。本格的に宇宙へ進出を果たした人類が、初めて地球外知的生命体に出会ってから約百年が経つ。
僕たちは歴史の教科書でしか知らないけれど、この百年は色々あったらしい。それこそ、世界大戦や宇宙戦争が起きるかという危険な時代もあったんだとか。
けれどそんな事、今は全く感じられない。五十年ほど前から地球は全宇宙惑星連合(略して全宇連)に正式に加盟しているし、宇宙人観光客はもちろん、地球に移住している宇宙人だってたくさんいる。
それこそ宇宙進出初期に噂されていたグレイタイプはもちろん、博物館や美術館にある紙製の絵本によく出てくるタコやイカに似た宇宙人。
地球人によく似た人型もいれば、肌の色が青や緑の蛍光色といった人々、体の一部が伸縮したり、触手や粘液のようなものが本体だったり、ガス状宇宙人なんてのもいたりして、それはもう多種多様な宇宙人を地球の色んな国々で見かける事が出来る。
姿形の違う様々な姿が集まる光景に僕らの世代はもうすっかり慣れているけれど、祖父母世代はあまりに人型からかけ離れていると未だに驚くらしい。
でもそんな祖父母世代も違和感なく受け入れるのが、犬や熊、兎などに似た動物系宇宙人だ。
昔の物語や映画、アニメなどによく出ていた獣人に似ているという事で、見た目が人に近くても動物に近くても、どちらでもとにかく老若男女に人気だ。地球では歌手やアイドル、俳優なんかをしているほど。
僕の好きなロックバンド「RE:Ptilia」にも、ワニやカエルに似た宇宙人がメンバーにいてカッコいいんだ。……ロックを聞くなんて、あの人には絶対に秘密なんだけども。
まあとにかくそんな宇宙人が色々いる中で、唯一見つかっていなかったのが猫に似た宇宙人だった。
猫型宇宙人の発見は、地球人類のほとんどが渇望していたと言っても過言では……いや、過言かもしれないけど、歓迎しない人はいないだろう。
◇
そんなわけで朝一番のトップニュースになっていたわけだし、母さんも固まって当然で、妹がわざわざ僕を呼びに来たのも納得出来た。
「すごいなー。ついに見つかったんだ。執念だね」
「ちょっとユキ兄、なんでそんなに冷静な感想なの? さっきまで結構驚いていたじゃない! もっとこう、ワー! とかキャー! とか言わないの?」
「ワーはとにかく、キャーなんて僕が言っても気持ち悪いだけだろ?」
「それもそうかも? ……ってそうじゃないよ! だから何でもっと喜ばないの⁉︎」
僕としては充分に驚いているし喜んでもいるのだが、楓は満足しなかったようだ。
まあ、僕が猫好きだって楓は知ってるもんな。なぜかこれはキャラ立てとやらの邪魔にならないらしくて公認だし。
でも、残念だったな。
「楓。悪いが僕はこれ以上は喜べない」
「だからどうして!」
「だって僕は猫アレルギーなんだぞ。忘れたか?」
そう重々しく告げると、楓はしまった! と露骨にショックを受けた様子で崩れ落ちた。
「ごめん、ユキ兄! 一番辛いのはユキ兄なのに!」
「いや、分かってくれたならいいんだ」
今や時代は二十二世紀。当然猫アレルギーの治療薬だって開発されている。
……されているのだが、なぜ神はこんな試練を僕に与えるのか! 僕はその治療薬にもアレルギー反応が起きるという厄介な体質なのだ!
(いや、僕は別に何の神様も信仰してないんだけど、まあここはほら、その方がそれっぽいから言ってみた)
両親も兄も楓も僕ら中村家は全員が猫好きだというのに、僕が猫アレルギーなせいで猫が飼えない。直接触れるのはおろか猫カフェにも行けないし、中毒性があると聞く猫吸いなんて夢のまた夢。
せめてと猫グッズが家中に置かれているぐらい、僕たちは猫好き一家ではあるのだけれど、我が家では要注意の話題でもある。僕の猫アレルギーの件に触れたら最後、母さんが「私のせいだわ。私が元気に産んであげられなかったから」と泣き出してしまうから。
きっと例に漏れず、発見されたUMYAの星もそう遠くないうちに人気観光地になるんだろうけれど、僕が行く事はないだろう。
いくら猫型といっても相手は宇宙人なのだから猫とは別物で、アレルギー反応が出るとは限らないのは理解している。とはいえ、それがまだ分からないからこそ怖いというものだ。
君子危うきに近寄らず。僕は長いものに巻かれるタイプなので、故人の教えは大事にしている。画面越しに見るだけなら幻の存在だったこれまでと大して変わらないのだから、僕の感動が少々物足りないものとなっても許してほしい。
◇
というわけでコソコソと兄妹の会話を終えた僕たちは、未だに中腰でニュースに見入っている母さんをさり気なくリビングのソファに誘導すると、いつも通りに朝食を食べた。
やけに長いなこのニュースと思ったら、母さんは他局のニュースもチェックしていた。あ、これさっきのもう一度流してるな。いつの間に録画したんだ。
――ピンポーン
「あれ? 誰か来た?」
「ユキ兄、もしかして遅刻なんじゃないの?」
「まさか。出る時間にはまだ全然余裕だよ」
食事を終えて、さてそろそろヘアセットの続きをと思った所で、突然チャイムが響いた。僕は首を傾げつつ玄関ドアを開ける。
すると目の前には、同じ高校に通っている幼馴染―― 西宝院レイアが仁王立ちしていた。