誘惑
俺はあきらめの悪い男だ。
今はしがないフリーターに甘んじているが、子供の頃からいつだって、夢を描いて生きてきた。
戦隊ヒーロー。プロ野球選手。国立大学進学。大手企業に就職。
戦隊ヒーローは横に置いといて、それ以外の夢は、一応俺なりに真剣に目指してきたつもりだ。
しかし、俺、島田均は夢に破れ続け、定職にも就けずに25歳になってしまった。
そんなことを考えながら、あてもなく街をぶらぶらしていると、通路から突き出た四角い小屋から、録音された男女の声が威勢よく聞こえてきた。
「ご通行の皆さん!」
「宝くじ、一等5億円!」
何と耳障りの良い言葉なのだろうと島田は思った。しかし、島田は気付けば宝くじ売り場の目の前に整列していた。
「宝くじ、10枚ください」
島田は薄給にもかかわらず、なけなしの金を叩き、三千円で夢を買うことにした。
その日の晩はそわそわしてあまり眠れなかった。そもそも、島田はギャンブルすらしたことのないような人間だし、何より他力本願が嫌いだった。
島田は掟を破ってしまったような、罪悪感に苛まれた。そして、我ながら今まではお堅い人間だったんだなと、自分を顧みた。