⒎ リリースって言ったもん
依頼は、ハチワレの女の子。野良出身。
保護されて、避妊手術後に引き取られて数ヶ月。
今だ、名前を呼んでも振り向かないし、爪切りも抱っこもさせてくれないと。
どれどれとハチワレ女子の顔を見れば、おおっ!野生味しかないな。
この子の中身は、野良のままじゃないかな?
『こんにちは。爪切りさせてくれないのは、どうしてかな?』
『いつ元の場所に戻るか判らないから、爪は研いでおかないと!』
『君はもう家猫なんだよ。爪研がなくていいから。
お名前よばれてるの、判ってるよね?』
『自分に向かって何か呼んでるのは判ってる。でも私の名前じゃない。」
『飼い主さんからご飯貰えて、暖かいベッドもある。家猫だよね?』
『ご飯がそこにあるから食べてる。ベッドがそこにあるから寝てるだけ。
でも、いつリリースされるか判らないから、私は家猫じゃない』
リリースとは???どう言う事かな?
飼い主さんに事情を聞いてみれば、ハチワレちゃんの避妊手術後、
スタッフ間で「これ以上は無理だからリリースするしかない」発言がでていたと。
直接ハチワレちゃんに言ってはいないが、離れた場所で確かにその発言がありましたと。
そっかぁー。ハチワレちゃんは、しっかり聞きとっていましたか。
リリースの意味も、ちゃんと理解してたんだ。
リリースありの立場なら、野良で生きる知恵を忘れたりしないもんね。
リリース予定の自分に飼い主は居ないから、名前はよその猫の事だと。
飼い主さんを、全力で拒否してたかー。
『君はもう家猫だよ。リリースは無し!!ずっとこの家の子だよ。』
『ご飯だよー、ベッドだよー。ここで暮らすんだよーって言われたけど、
誰も、リリースはしないって言ってくれなかったもん!
うわぁああああーーん!!!』
そっかぁ。ずうーっと自分はリリースされるって、不安を抱えたまんまだったか。
辛かったねぇ。野生を失くすまいと頑張ってたんだね。
『大丈夫。リリースしないからね。君はここのお家の猫。
野良ねこじゃないよ。家猫だよ。君の名前は○○ちゃんだよ。
家猫さんは爪切りするの。野良じゃないから。
爪が折れると痛いから、爪切りしようね。君は家猫なんだから。』
翌日、ハチワレちゃんは爪切りさせてくれました♪
猫と侮るなかれ。人の言葉をしっかり理解しています。
野良から保護されて引き取られた場合、思考が野良のままの子がいます。
君の居場所はココ〈家猫〉だと、教えてあげて下さいね。
自分が〈家猫〉だと自覚出来たら、野性の凶暴さが消えていきます。