9.復活
無理して倒れた一件以来、筋トレは毎日ではなく時々日を空けて行い、運動をする時間にも気をつけるようになった。
だんだん呼吸だけでなく、座ったまま膝を伸ばしたり、腿を持ち上げたり、スクワットや踵上げなどの立ってするトレーニングへと進めた。
そんなことをしている間も定例の月イチの王子様とのお茶会は行われていて、食事やトレーニングのことまでは話していないけど、歩き方や振る舞いから少しずつ健康を取り戻していることを感じて喜んでくれているようだった。
4ヶ月目には、一般的な10歳児の体力に近づき、小走り程度ができるようになった。やっぱり若いと回復が早い!
柔軟性もまだ満足じゃないけど、ストレッチはまぁまぁできるようになった。
声はよく出るようになり、ジニア達は私がとても歌を歌うのが好きな女の子だと思っているみたい。
「お嬢様が歌う曲はどれも聞いたことがないですが、とても素敵です。あんなメロディを思いつくお嬢様は、天才かもしれません!」
ジニアが部屋の花瓶に花を活けながら褒めてくれる。
私が好きな曲は日本のJ-POPと洋楽である。
あと、劇団の劇中歌でよく歌われていた賛美歌。
それらの歌詞は10歳の女の子が好みそうにないものがほとんどなので、いつもラララでメロディだけを口にしているのだ。
説明が面倒なので、自分が思いついたことにしている。
「本当に… お小さい頃はお声を聞くことも珍しいくらいでしたが、最近のお嬢様は綺麗な声でお歌まで歌われるようになり、みんな本当に喜んでおります。
将来は歌姫さまでしょうか」
カシアはリリーの髪を結いあげながら、鏡の中の私に微笑みかけた。
今の所、私は第一王子の婚約者だから将来は王妃なんだけど、王妃とか荷が重いし私はやりたいことがあるから、できれば王子に早く別の好きな人を作ってほしいなぁ。
人並みに元気になると欲が出てくるもので、もとの体育会系人間の血が騒ぎだし、今世でも体操やフェンシングを復活させたくなってきた。
公爵家の部屋はどれも広いけど、自由に走り回れる体育館みたいな場所はなくて、体操や剣技の練習ができるようなスペースはない。
外でもできなくはないけど、仮にも公爵令嬢が泥だらけで屋外で飛び狂ってたら変な噂が立ちそう…
土に手をついたら痛いしな。
「困ったなー」
ジニア達が部屋から離れてからつぶやく。
とりあえずこれまでのストレッチや筋トレを続けながら、Y字バランスや片足立ちなど、皆に知られずに部屋でできる静かなトレーニングを追加した。
スペースはあまりないけど天井は高いので、棒をバトン代わりにして投げたりひと回りして受け取ったりして遊んだ。