72.探検隊①
リリーは探検に行ってみますとは言っても、どこにどんな名所があるか分からないので、まずは公爵邸に戻って、皆に聞き込み調査をすることにした。
Q.貴方がこの国で1番綺麗と思う景色や建物は何ですか?
ジニア:
「私は、エートゥルの森だと思います。
ブナの原生林が自然のまま広がっていて、下からは空が見えないほど生い茂っているのですが、葉が陽の光を通すので空に広がった葉が、キラキラした緑の天井みたいに見えるのです。
空気も良いですし道も平坦なので、気軽に散策ができるんですよ」
カシア:
「私は王都の中央広場の時計塔だと思います。
誰でも入れるように開放されていて、王都が一望できるので、ちょっとした観光スポットになっていますよ」
マリー:
「うーん、、私はあんまり綺麗なものに興味はないけど、友達はフルフィーユの丘がすごいって言ってた気がします。何かの花か草?がとにかく綺麗らしいです」
ロータス:
「モアナ湖が良いのではないでしょうか。
傍らにある水車小屋が湖面に映って美しいですし、静かで落ち着く場所ですよ。
私もよく妻と行きました」
ジェイバー:
「俺は、やっぱり砦から見る雪山ですかね。
寒いですけど」
ベイジル:
「僕はキュステ・コスタ海岸がおすすめですね。
よく魚釣りに行きますが、美味い魚も釣れるし、水も綺麗なんですよ」
なるほど…
三者三様というか、皆さんジャンルが丁度バラバラですな!
リリーはメモをとりながら、それぞれの場所を地図に書き込んでいった。
2日で回り切るために、6つの名所を距離や場所を考慮して2つに分けた。
今日は近場を中心に、つまり公爵領のある国の北側と、東側のスポットを巡ることにした。
つまり『エートゥルの森』と『北の砦』と『キュステ・コスタ海岸』だ。
この、突然始まった観光巡業には、ジェイバーとジニアが同行することになった。
そもそも、北の砦に行くためには、エートゥルの森を通らなければならないらしい。
馬車に揺られること1時間。
馬車酔いで死にそうになりながら、エートゥルの森に到着した。
「まぁ、ジニアの言った通りね!」
喉元までせり上がっていたものを、吐くもんか!!と根性で顔を上に向けたら、陽に透けた葉っぱから木漏れ日がきらきらと差し込んでいた。
ブナの幹は基本灰白色だが、苔が生えている部分は深緑〜黄緑色だったり、黒い樹皮の木もあった。
触ると意外にもすべすべしていて、冷たい。
ひんやりとした空気も心地よく、リリーは酔いが覚めるまで森の散策を楽しんだ。
そこから更に馬車で1時間かけて、北の砦に着いた。
エートゥルの森までの道は土だったが、北の砦までの道は岩や石が多く、馬車はいっそう揺れ、リリーは何度もお尻を打った。
加えて、酔いがキャリーオーバーして息も絶え絶えだったので、砦の仮眠室で少し休ませて貰うことにした。
コンコン!!
ノックにしては元気すぎる音が響き、こちらの『どうぞ』の許諾を待たず、扉が勢い良く開いた。
「お嬢サン、お久しぶりですね! 元気でしたか!?」
アシュトンがニカッと笑ってやって来た。
忘れていたけど、アシュトンはこの砦を守っているのだ。