6.身体の資本は食事から
朝。
昨日はまずベッドから転落したが、今日はとりあえず立つことはできた。まだ生まれたての子鹿レベルで、数分立っているだけで足がプルプルしてくる。
いくら病弱といっても、2週間でここまで体力が落ちるなんて…。
多分、刺繍や読書が好きだったようだし、もともとの体力が無かったんじゃないかと思う。
今朝のメニューはスープと果物とパンだった。
貴族なのに、うちは貧しいのかしら…
「ハムとか卵とかは無いの?」
と尋ねると、
「珍しいですね。お嬢様はそういうものやお肉はめったに召し上がらなかったのでお出ししていませんでした。
主に野菜や果物を好まれていましたので。
今日はそのようなご気分でしたら、ご用意しましょうか?」
どうやらリリーはお肉が苦手だったらしい。かといって、豆とかの植物性たんぱく質も食べて無さげだから、たんぱく質が大幅に不足してるんだろう。
なるほど… これも筋力と基礎体力が低い原因だよねー。
しかし、そうなると、長年食べていないお肉をいきなりガッツリ食べるのは、リリーの腸や内臓に優しくないかもしれない。
「ちょっと、料理長とお話がしたいの」
まだ屋敷を歩き回る体力はないので、料理長を呼んでもらうことにした。
「はいお嬢様、お呼びでしょうか」
料理長はベイジルという大柄の男性だが、優しそうな人で一安心した。焦げ茶色の髪がクルクルとくせっ毛だから、本当に熊みたいな見た目だ。
「私、今回の病気で自分の体力の無さをとても感じました。
病気になりやすい身体も変えたい、元気になりたいの。
そのためには、今まで苦手だったものも食べていかなきゃと思うのよ」
「なるほど!それは良いですね。野菜も良いですが、やっぱ肉を食べないと元気が出ませんよ。
今晩のディナーは肉汁たっぷりのステーキをご用意しましょう!」
ベイジルはリリーの話を聞いてニコニコしながら頷いてくれた。
「あっ、えっと、でもね、多分いきなりそういう重い?のは身体に無理がきそうだから、できたら私の希望を叶えて欲しいなと思って相談なんだけど… 」
私の一家が所属していた劇団はたくさんの家族の集まりだったから、他家との交流もしょっちゅうだった。
赤ちゃんが生まれたり子供のいる家も多かったから、段階的にたんぱく質に慣れさせる様子もよく見ていた。
つまり、離乳食の手順である。
私はベイジルに、まずたくさんの豆を柔らかく煮込んだスープをお願いした。それが一皿ちゃんと食べられるようになったら、少しの油でソテーした白身魚、卵、青魚と進め、体調に問題なければお肉へ。ソースはデミグラスのようなコッテリしたものでなく、シンプルな塩や香草の味付けから出して貰うようにした。
主食…炭水化物はパンだけではなく、時々はビタミンや食物繊維の多い芋に変えてもらい、蒸したり焼いてガレットにしてもらうようにした。