57.ジェイバーの選択②
「俺は… もし、もしもお嬢様がお許し下さるなら、お嬢様の護衛を続けさせて頂きたいです…!
自分は、護衛任務を引き受けたにも拘わらず、誠実に職務にあたらず怠慢に過ごしていました。
こんな自分はお嬢様の護衛にふさわしくないと、辞するべきだと分かっております。
それでも!
お嬢様がもしも私にやり直す機会を下さった時は、今度こそ誠心誠意、お嬢様をお守りすることを誓います!!」
ジェイバーはリリーの前に跪き、震える声でそう述べた。
「いえいえジェイバー、貴方はよく務めてくれていましたよ!誠実じゃないなど、思ったことはありません。
ただ、貴方のような有能な騎士が、私のような子供の護衛に就くのは、人材の損失というか無駄遣いというか、とにかく勿体ないと思うのです」
慌ててリリーは言った。
「いいえ!!私はこの度、自分の見識の低さ、狭量さに初めて気づかされました。 気づかせて下さったリリーお嬢様は、間違いなく私の主君です。 どうか、私に一度だけ慈悲を頂けないでしょうか…!」
最後の方はもはや懇願だった。
うーん… なんでこうなったんだろ…
困ったな。
私はまだまだ鍛えるつもりだから、絶対護衛騎士とかいらなくなると思うのよねー。
何て言って断ろう…
リリーがちらりとジェイバーを見ると、あんなに屈強頑丈なジェイバーが、チワワの瞳でこちらを見上げていた。
うっ…
「はぁ…。分かりました。
でも、砦の兵団に戻りたくなったら、絶対私に遠慮せずに言って下さいね。お父様は私が説得しますから。」
リリーは目をつぶってそう言うしかなかった。
「あ、、ありがとうございます!!!」
ジェイバーは歓喜の声をあげ、これまで仮面のような表情だったのに、サッと頬に朱が刺し、キラキラとした瞳でリリーをまっすぐ見つめていた。
あれ? ジェイバーって、こんな感じの人だっけ…?
ディアマン家に、また盲目的なリリー推し強火担が生まれた瞬間だった。
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ただただただっ タッタ
トンッ(手)
タンッ(足)
トンッ(手)
タンッ(足)
トンッ(手)
ダンッッ(足)
くるくるストン!
「おぉおぉぉ〜〜〜〜〜!!」
あれからアシュトンとジェイバーが床技を少し見せて欲しいというので、前方倒立回転+前宙1/2ひねりを見せてみたら、えらく喜ばれた。
「すごくカッコいいですね!!どうやってするんですか!?」
ジェイバーは興味津々だ。
「え? えっとね、まずこうするでしょ」
リリーは両手をバンザイした。
「そして、こうするでしょ」
足の前の床に両手をついた。
「そして、床を蹴って…」
片足ずつ床を蹴って逆立ちを通り越し、そのまま弓なりに身体をのけぞらせ、足を手の前に着かせる。
「そして、起き上がる」
ブリッジの姿勢からお腹に力を入れ、手で床を押して身体を起こす。
「ただ、これを繰り返すだけ、よ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
みんな、そんなこと言われてもできるわけがないという顔をしていた。




