5.王子様との対面
お風呂から上がると身支度はどうしてもメイドさんが整えてくれると譲らないので、お任せすることにした。
青白くさえあった陶器のような肌が、少しだけ血色が良くなり、香油でつややかにまとめられた長い白金の髪はふんわりと腰回りで揺れている。
ようやく伝い歩きができる程度の体力では、重いドレスを着て歩くことができないので、今日はワンピースを着ることにした。
お忍びで街を歩く時のために何着かワンピースがあり、その中で1番軽い、淡い水色のシフォンを選んだ。
「なんて可愛いの… 」
鏡に映る自分の姿に思わずつぶやく。
まだまだ不健康そうな顔色ではあるが、パーツパーツは本当にフランス人形のようだ。
百合子は平均的な日本人の容姿だったのと、そもそも体育会系で動きやすさ重視だったから、こんな服を着たことがない。着たいとも思わなかったし多分似合わなかったと思う。
でもだからといって、こういう服が嫌いだったわけじゃなくて、こうして似合う姿になれば、似合って嬉しい、可愛いなぁくらいは思うのだ。
「もちろんお嬢様は世界一可愛いです!」
ジニアに胸を張られると、少し恥ずかしい。
コンコン
「どうぞ?」
執事のロータスが部屋に入ってきた。
「お嬢様、王子様から先触れがあり、夕刻にお見舞いに来られるそうです」
「まぁ」
表面的な婚約者なのに義理堅い王子様だこと。別に気にしなくても良いのにな。
ため息をつきながら、来訪に合わせて少しお化粧やヘアセットを行い、メイドさん達に花やお菓子、紅茶の準備をお願いした。
太陽が少し低くなり、エルム王子がディアマン公爵邸に訪れた。傍仕えのオリバー様も一緒だった。
「やぁリリー、久しぶりだね。今回は長く伏せっていたから心配したよ」
エルム王子は柔らかく微笑みながら見舞いの口上を口にする。
エルム王子は金髪に緑の目の色をした整った顔の少年だった。
リリーはジニアに支えられながらギリギリ歩いている、といった様子ではあるが何とか王子を出迎え、二人を応接室に案内した。
リリーはもともと色白で儚げな容姿であったが、今回のことでますます白く、また更に痩せてしまったためかなり弱々しい見目となっている。
「エルム王子様、この度はわざわざご足労頂いて恐縮です。今朝方ようやく目を覚ますことができましたが、まだ力が入りませんのでこのような姿でお目にかかるご無礼をお許し下さい」
通常はドレスに着飾り、姿勢もきちんととってカーテシーでお迎えしなければならないが、リリーにはまだとても難しいため一旦謝りを述べておく。
「気にしないで。こちらも病み上がりにいきなり訪ねて申し訳なかったね。顔を見たら安心したから、今日はあまり長居をせずに帰るよ」
王子はそういうと、最近の出来事を世間話程度に少し話したあと、挨拶をして早めに帰ってくれた。
実にありがたい。
リリーも今日はディナーまでは食べられそうに無いからと、早めに休ませてもらった。