43.初めてのお茶会③
「さぁそろそろ、はじめましょうか!」
参加者の皆様としばらく歓談した後、マルグリット先生が声を掛けると、何人かの令嬢が支度を始めた。
「あの、何か始まるのでしょうか?」
「私のお茶会では毎回テーマがあって、それを得意とする方にご披露頂いているの。前回はお紅茶で、皆様がおすすめの茶葉を持ち寄って品評会とかをしたわ」
「あの時はアイビー様の茶葉が1番人気でしたわね」
隣の令嬢が微笑みながら教えてくれた。
「今日は音楽がテーマなのよ。だから、楽器の演奏が得意な方々が、その腕前を披露するの。私は音楽が得意じゃないから、こうしてその綺麗な音楽を聞きながら紅茶とお菓子を楽しむというわけ」
ぱくっとマドレーヌを口に入れる。
マルグリット先生はマナーが気になったのか、ちょっと顔をしかめたけどすぐに笑顔になって、用意ができた様子の子にテラス席を勧める。
テラスにはピアノがあり、黒に近い茶色のセミロングの女の子がその前に立った。
「ブルーノ・オブシディアン・リノンです。宜しくお願い致します」
カーテシーで挨拶をし、椅子に着席する。
リノン伯爵令嬢の指が鍵盤を滑らかに滑り始め、お茶会の参加者はしばらくその音色に聞き惚れた。
「素晴らしいですわ、さすがリノン様!」
リノン様と呼ばれる女の子は、ピアノの名手として有名だったようだ。
みんなからたくさんの拍手をもらったので、嬉しそうにお辞儀をして席へ戻られた。
リリーも元々音楽を聴くのは大好きなのと、噂好きのご令嬢の方々としばらく会話をしなくて良いらしいことに安堵し、この場を楽しむことにした。
次にテラスに立ったのは…
その姿をみて驚いた。
最初、ジェイバーと同じ、誰かの護衛騎士かと思った。
だって、ドレスじゃなかったから。
家紋の入った騎士服を着ていて短髪。
白銀色の髪をベリーショートにした令嬢だった。
私はこの世界で髪の短い女性も、パンツ姿の女性も初めてみたのでとてもビックリしていた。
貴族は髪を切っちゃいけないのかと思うほど、皆さんロングヘアばかりだったから、こんな女性がいることが分かって、とってもとっても嬉しい!
そして頭の形がきれい!
「アゲート・フィッダ・シエルです。どうぞ、宜しく」
低い声で、ニコッというよりは、ニッと口の端を上げて笑うのが蠱惑的で、色気すら感じてしまう。
キャーーーーーーー!!
大勢の令嬢軍団も例に漏れず胸を撃ち抜かれたようで、ほうぼうから黄色い悲鳴が上がった。
どの世界にも男装の令嬢はいて、それにハートを奪われる淑女は多いことが分かった。
シエル様は公爵令嬢らしく、リリーと家は同格だ。
騎士の家門で、陛下をお守りする近衛騎士を多数輩出し、兄弟が近衛隊長、当主が近衛師団の総帥という、生粋のシュヴァリエ家系だ。
シエル様が綺麗な布につつまれていたフルート出して小さな唇に当てると、微笑むような口元から静かに演奏が始まった。
高くせつなく澄んだ笛音は気高く、美しい。
リリーは、こんなに長い時間息が続くなんて、どんだけの肺活量だ!とつっこみたい気持ちと、その歌うような音色に酔いしれる気持ちの間で揺れ、結局後者を選択したためにメロメロにされてしまった。
シエル様も大きな拍手を迎え、片手は腰に、片手を胸に当てたお辞儀をして、去っていった。
次にテラスに現れたのは、猫目の赤い髪の令嬢だった。
ジェイバーと似たような髪の色だなぁと思ってみていると、目があった。
その子はチラリとリリーを見て、リリーにしか分からないように、笑った。




