36.下準備
次にリリーはメイドの3人に声をかけた。
「ねぇ、運動は得意?」
3人は予期せぬ質問にギョっとしたが、目を泳がせて答えた。
「私は正直、運動は全くダメで…」
「私も… あまり運動とかほとんどしたことないです」
公爵家に仕えるメイドは皆、一応貴族の出なので、やはり運動はしたことないというか、運動って何だろレベルのようだった。
しかし、マリーはなかなか答えない。
「マリーは? マリーも苦手?」
「私は… 私は男兄弟の中で育ったので、小さい頃からお転婆で。木登りから水泳まで一通りやりましたし、動くのは大好きなんです。ディアマン公爵家に仕えるまでは、女騎士を目指していたので、兄たちと木刀で打ち合いとかしちゃってました」
女は淑やかであれという風潮のこの世界だから言い出しにくかったようだ。
少し恥ずかしそうに教えてくれた。
ヨッシャァ!!
そろそろ、隠すのも限界だし、これから先の練習には相手がいる。
ぜひマリーに付き合ってもらおう。
「体育館が完成したし、私はもっと運動を頑張りたいの。マリーにはそのお手伝いをしてもらいたいわ。
カシアには動きやすい服を用意してもらいたいの。ドレスじゃ運動はできないでしょう? 平民の服で構わないから、パンツタイプの服が欲しいのよ。」
今までリリーは寝室でトレーニングしていた。
寝室といってもかなり広いのでそれなりに動ける。
寝室だから基本誰も入ってこないので、実は下着姿でトレーニングしていたのだ。
しかし体育館ではそうはいかない。
手入れや掃除の時に、誰かが入ってくるかもしれないのだ。
運動着が必要だ。
ジャージがあれば言うことないが、贅沢は言えないので、とにかくズボンが欲しい。
「お嬢様がお元気になられて嬉しいですが、急に運動をしてお身体を壊されないか心配です…」
ジニアが前に立ち、不安を口にする。
「大丈夫よ、ジニア。あなたにはこういう棒と、このくらいの鞠を用意してほしいわ。鞠遊びなら、危なくないでしょう?」
ジニアには先に穴の空いた50cmくらいの棒と、鞠をお願いした。
2人は私の運動の内容に安心した様子で、『鞠遊びは良いですね。可愛い鞠を探してまいります!』 と元気に了承してくれた。




