306.王城会合②
近衛騎士総隊長こと、アゲート侯爵が話し始める。
「騎士試験はご存知の通り、志願書の時点から厳密な審査があり、出自から血筋、素行、学歴などを調べます。
もちろん身代わり受験などがないよう、姿絵も提出が義務付けられています。
今回のようなことは、本来であれば担当教官であったアルダー隊長が気づかなければならなかったことです。
勿論、リリー様のなさったことは、前例の無いことですしかなり危険なことでしたから、とてもお勧めはできない行いかとは思いますが、その責任はリリー様だけのものではありません。
そもそも…
リリー様にそのような心配を抱かせてしまった近衛騎士も問題ですし、しかも今回の襲撃では確かにリリー様のお力をお借りすることになりました。
それは私と、現近衛騎士の不徳の致すところです。
何も申し開きができない不祥事です…
申し訳ございません」
クッ…
と歯を食いしばり、悔しそうに顔を歪める。
「誠に不本意ではありますが、我々を欺き、実力を示したグリスと言う者は、確かに騎士の力量があるかもしれません。
私は直接指導にあたっておりませんが、リリー様…グリス様は弓騎で1位の成績を修められました。
失礼ながら、さすがに年若い女性に男性騎士用の弓騎はまともに引けません。
引けたとして、1位を勝ち取ることはほぼ不可能だと思います。
娘のシエルも、かなり鍛えている方ではありますが、それでも女性用の弓騎を引いています。
多分、弓騎の訓練や試験を受けられた時は、グリス氏だったのではないですか?」
「はい。弓騎訓練を受け、試験を受けたのはグリス様です」
(実際は少し違うというか、途中交代?だけど…)
「やはりそうでしたか。
弓騎の腕前が、今の騎士見習いで右に出る者がいないのであれば、試験を受ける資格は十分にあると考えます。
さすがに無条件で騎士資格を与えることはできませんが、騎槍、弓騎、騎馬、剣技の再試験を行い、厳正な審査の結果、騎士に足る能力が認められれば、入隊を許可しましょう」
「あ… ありがとうございます… !!」
良かった!良かったグリス…!
リリーは涙を流さんばかりに喜んだ。 が、
「ただし私は、この件が終結し次第、総隊長を退こうと思っております」
!!?
「私には、近衛騎士総隊長たる資格はありません。
この上は、1隊員に戻るか、騎士そのものを辞するか、この部分は王命を仰ごうと考えております」
「そんな… なぜ…
私の自分勝手な振る舞いのせいで、侯爵様が退任される必要はありませんわ…!
私こそ、王子妃の資質に欠ける者です。
婚約破棄を命じられても異論はございません。
侯爵様の退任など、断じて認められません!」
「いいえリリー様。
そもそも今回、上総国からの急襲を許したこと、そのような計画を事前に気づけなかったこと、王妃様の御身を危険に晒してしまったことは、リリー様の事とは関係無く、近衛騎士隊の責任です。
加えてこのような事態となったことで更に咎を深めはしましたが、根本的な問題ではありません。
近衛騎士隊の緊張感や情報収集能力、有事の際の機転、それらが不足しているからこそ、王妃様への危害を許し、リリー様に不安を抱かせたのです。
私は近衛騎士隊を率いるのに足る働きができていなかった、その責任をとる必要があります」
あわわ…
予想外の方向に話が転がってる!!
このままではアゲート侯爵(シエル様パパ)が退任されてしまう!
どうしたら…




