3.現状把握②
私の名前は白井百合子…だった。
うちは少し変わっていて、家族みんなが世界各地をめぐって興行を行う劇団フィオーレのメンバーだ。
劇団員といっても父は大道具、母と姉は衣装係に就いていた。
私も女の子だからと衣装係を期待されていたけど、元気一杯飛び回るのが好きな私は、針もミシンも性分に全く合わない。それよりも格好良く殺陣をしたりアクロバティックに舞台を跳ねる俳優に憧れていた。
何なら将来は女スタントマンも良いな、と思ったりしていた。
小学校から体操を習い、高校からはフェンシングを始めた。たまたま私の通う高校にフェンシング部があり、珍しさから気まぐれに始めたが、性に合っていてハマってしまった。
体操はずっと続けていて、バク転、側転、宙返りなどの床の体操競技も、リボンやフープを使う新体操も難なくできる。
18歳になると、正式に劇団に就職する場合、身内であってもちゃんと試験がある。
私はもちろん俳優部門に申し込んでいて、これまで培った身体スキルを遺憾なく発揮しよう!と意気込んでいた。
試験をあと2週間先に控えていた時、私は突然体調を崩した。
世界巡行中にヨーロッパで流行っていた熱病にかかり、しかも重症化したため入院することにまでなってしまった。
窓がなく昼と夜が分からない隔離病棟、朦朧とする意識の中で落ちる点滴を眺める日々。
何とか試験の日までに治って欲しいと祈りながら、今日は何日だろうと考えて眠りにつき…
気づいたら10歳で虚弱体質のビスクドールになっていた。
なんでこんなことになったのか全然分からないけど、だんだん落ち着いてきたら、この世界のことをリリーの身体と頭が思い出してきたようだ。
小さい時から病弱で体調を崩しやすいリリーは性格的には百合子とは逆で、部屋で読書をしたり刺繍をしたりするのが好きだったらしい。
娘に興味の無い父親と兄は見舞いにも来ない。
あと、3歳から親同士が決めた婚約者がいる。婚約者とは月に一度のお茶会で交流を深めており、その日は体調を崩さないよう屋敷スタッフ一同が何日も前からピリピリする。
…て、 えっ!!
「婚約者!?」