29.王子様と観劇②
ははーん。
王子様はまだ恋愛にうとい、お子ちゃまなわけだ。
ちょっと背伸びしてデートなどしてみても、まだまだ本当の所は分からないんだろうな。
リリーはそう思い、
「でしたら、今度はぜひアクション系の劇を観にいきましょう!」
と言った。
百合子は両親と遊園地やショッピングモールに行った時に、戦隊モノの催事があっていたら必ず観に行った。
本当の舞台より勿論演出はちゃちいけど、兄はとても楽しんでいたし、王子くらいの男の子や男性は、恋愛モノの劇よりも戦闘やアクション系の劇のほうが楽しめるはずだ。
「アクション系…?」
王子様は完全なキョトン顔でこちらを見ている。
オリバー様もジェイバーも一様に同じ顔だ。
えっ
まさか、アクション系の劇が無い!?
「劇ってもしかして、恋愛題材のものばかりですか?」
「それだけではないけど、ほとんど恋愛の内容が多いよね。たまに、家族や動物が題材のものがある気はするけど」
なんてこった!
殺陣や剣技で血湧き肉躍るアクションシーン満載の舞台が、
無い!!!
リリーは大変衝撃を受けた。
そんな…
リリーは前世でアクション俳優を目指していた。
今世は身分や状況から、アクション俳優への就職は難しいんじゃないかと思っていたけど、まさかジャンル的に存在しないとは思わなかった。
もう見ることすらないのだと思うととても悲しく、絶望すら感じた。
「リリー、大丈夫? 少し疲れちゃったかな。こんなに長い時間起きていたわけだし、知らない場所は緊張するよね」
突然糸が切れた人形のようになった私に、エルム王子は優しく声をかけ、そろそろ帰ろうと支度を指示した。
「そういえば、あとは公爵邸に送るだけだけど、どこか寄りたい所はある? あまり外に出られないみたいだから、もし行きたい所があれば寄り道できるよ。でも無理してはいけないから、体調が悪いなら、勿論やめておこう」
リリーはボーっとしていたのをハッと気を取り直して考えた。
そして、
「あの、私、リボンが欲しいのです。リボンの種類をたくさん置いているお店はご存知ありませんか?」
リボンはメイドさん達に頼んだこともあったのだが、今ひとつイメージと違ったので、やはり自分が見て選びたいなと思っていた。
「リボンの店か… 誰か心当たりある?」
王子様に尋ねられて手を挙げたのはジェイバーだった。
「妹と一度行ったことがあります。確か、このホールから近かったはずです」