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病弱な令嬢に転生した体育会系女子は、今世でも鍛えたい  作者: 雪熊猫
最終章✜クルール王国 王城篇
280/325

280.騎士訓練生㉒

「まぁ、酷い…」


連れてきたジニアもグリスの状態に驚く。

冷たい水で冷やし、軟膏を塗って手当を始めた。


ジニアにはグリスに連絡して迎えに来てもらうよう頼んだ。

ジニアは、急いで伝令を飛ばしに行った。



リリーは再燃したらしい捻挫の所には、処置の後に再びテーピングを行う。

今日のテーピングではほとんどギプスのように、少しキツめにガッチリ巻きつけた。



「今してるテーピングは、足首が全く動かないようガチガチに固定をしています。そうすることで、帰るまでは何とか歩けると思いますが、家に着いたらすぐ剥がして下さい。

多分まだ腫れるので、締めすぎが長引けば鬱血して壊死することも有り得ます。

帰宅し次第、必ず外して下さいね」



「う、うん。分かったよ。 帰ったら、外すね」


ふうふうと荒く息をしながらグリスが答える。



「明日からは、またあの子に代わりを頼みますね」


リズが言うと、


「いや、今度はもう、棄権しようと思う」


グリスが答えた。



「騎士訓練の日程もあと僅かだ。

多分それまでに、僕は回復できそうにない。

前の怪我の時を知っているから、予想ができるんだ。

最初彼に頼んだ時は、すぐに復活するつもりだった。

1、2日休んだら参加できると思ってたんだ。

だから代理案を了承したんだけど、そしたら案外中々治らなくて、交代がかなり遅くなってしまった。

本当に申し訳なかったよ。

さすがにもう、棄権する。 残念だけど…」


額の汗をリリーが拭う。

グリスは目を閉じて苦しそうに呻いた。


リリーはしばらく考えて、


「もう棄権を決められているなら、あの子に続きを任せて貰えないでしょうか」


と言った。


「あの子の力では、騎士試験には通れないかもしれません。

それでも、棄権するお気持ちならば、ダメでもともと、挑戦させて欲しいのです。あの子は騎士訓練を、とても楽しんで受けていました。

何より、貴方をこんな目に合わせた奴を、このまま騎士にしたくありません」


リリーはグリスに懇願した。


「うーん…  こんな目って、これのこと?

朝も言ったけど、木から落ちた自分が原因なんだから、更に試合で傷めたことは仕方ないよ。別に、相手のせいじゃない。

手は、ちょっと痛いけど、そもそも僕が弓の管理をしてなくて残り物を使うことになったんだから、質が悪い弓だったのも仕方ない。

どっちの怪我も、騎士訓練には間に合わなくてもちゃんと治ると思うから、そんなに悲しい顔をしなくても大丈夫だよ」



グリスは優しくリリーに笑いかけ、でも心配してくれてありがとうと言った。



「ただ、その子(代理グリス)が、騎士訓練にまだ参加したいと思ってるなら、別に構わないよ。

元々、棄権する身だから試験に落ちても問題無いし、楽しく参加していたなら、引き続き伸び伸び経験してくれて良い。

その子は平民なの?自身が騎士に応募する参加資格がなかったのかな。

騎士試験は、今回も8年ぶりの募集だったし、次回は多分僕らの年齢的に参加は難しい。

今年しかないその気持ちはよく分かる。

訓練だけでも参加したいというなら、止めないよ」



あくまでも、騎士訓練を受ける資格を譲る目的なら、リリー(代理グリス)の参加を認めると話した。

仕返しなどは必要ないという気持ちが目で伝わってくる。



「では、あの子にそう伝えますね」



リリーはグリスの優しさに触れて、腹の奥に渦巻く感情に、何とか蓋をした。

グリスは、弓に細工をしたのがバルサムだと知らないのだ。そんなこと、知らない方が良い。

まっすぐで純真に、自責で幕引きを考えている少年に、煩わしい情報はいらないと思った。




そうこう話しているうちに、ジニアがグレイを連れてきた。



「グリス…  どうしたんだ…」


朝は足だけだった怪我が、手まで包帯に巻かれ、赤い顔でぐったりしている弟の姿を見て驚く。


リリーが事情を説明した。



「そうか… その、代理の子には無理をしないよう伝えてくれ。

グリスの代わりに騎士訓練に参加することは構わないが、どうも何か嫌な予感がする。

自分の身体を1番に考えるようにしてほしいと」



何かを察したらしいグレイは真剣な顔でリリーにそう話し、グリスに肩を貸して馬車まで歩いていった。

ジニアと一緒に2人を見送る。


片肩を担がれても、痛む足と熱で思うように動かない身体を運ぶのは、傍目からみてもかなりしんどそうだった。

馬車までの道のりが、かなり遠く感じるはずだ。



ジェイバーがいたなら、軽々と担いでくれるだろう。

そうしたらもっと楽に馬車まで行けるのに。

でも今、リリーには秘密を共有して手足となって動いてくれる人がいないのだ。

それがすごくもどかしい。



やっぱり、リリー専属の近衛騎士は必要だ。

そして、その人材は誰でも良いわけではない。



リリーは初めてそう思い、改めて明日からの騎士訓練に向かう気持ちをひきしめた。




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