28.王子様と観劇①
リリーと王子の観劇デートは意外にも許可がなかなか降りなかった。
王様は無問題だったのに、リリー父が殊の外難色を示したからだ。
観劇の内容、警備体制、同行者の選定、リリーの体調など多くの条件を示されたので、クリアにかなりの時間がかかり、実行できたのは更に1ヶ月後だった。
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リリー達が鑑賞した演目は、いわゆるロミオとジュリエット的なお話だった。
派閥が違う貴族の男女が惹かれ合い、しかし結ばれない悲恋を描いたお話だった。
死んだはずのヒロインを追って服毒し、本当に死んでしまったヒーローに、仮死状態から生還したヒロインが対面する。
泣き崩れ、取り返しのつかない苦しい胸中を吐露して最期はヒロインも毒をあおって死んでしまうシーンでは、そこかしこからすすり泣きが聞こえ、観客を惹き込んでいた。
オリバー様も泣いていた。
『迫真の演技だわ…』
リリーは感心していた。
切ない表情、指先まで行き届いた緊張感、遠くの観客まで伝わる身振り、しぐさ。
誰もがストーリーに引き込まれ、まるで自分が体験したように胸が苦しくなる臨場感。
役者の方々、皆様すごいなぁ…
あと、雰囲気を盛り上げる音楽も良かった。
ステージ横で生演奏をしていて、場面に合わせて繊細に、時に大胆に音を添える。
これにもリリーは感動した。
「とっても素敵でしたわ… このような素晴らしい観劇にお誘い下さり、本当にありがとうございました。
うちの父がオカシな条件ばかり言い出したから、大変ご迷惑をお掛けしたと思います。ご準備が大変でしたでしょう?
でもお陰様で、とても楽しい時間を過ごすことができました!」
劇が終わり、エルム王子に笑顔でお礼を言った。
公爵邸からこのコンサートホールまでも入ってからも、警備隊のみならず近衛の騎士にディアマン公爵家の私兵団員、もちろん護衛騎士のジェイバーと、ガッチガチの警備体制が敷かれていた。
ホールのエントランスからロイヤルシートまでは少し歩くのだが、両脇と前後をこのスペシャル護衛団に囲まれていたので、周囲を見ることもできなかった。
不逞の輩どころかダンゴムシ一匹通れない感じだと思う。
実は今日、第一王子が、誰も目にしたことがない深窓の令嬢婚約者を連れて話題の劇を鑑賞されるらしいという話が漏れ、両名を一目見ようとした観客はたくさんいたのだが、スペシャル護衛団に周りを固められすぎて全く中が見れず、顔は拝めずじまいだったようだ。
「いやいや、リリーに喜んでもらえて良かったよ。 リリーは劇が好きなの?」
「はい、とても…。 できれば、こうして観客でいるよりも、演じる側にいたいなどと夢をみる程でございます」
「へぇ! そんなに好きなの? そこまで楽しんでくれたのなら、今日は本当に良かった。 正直、、僕はよく分からない部分があったから…」
エルム王子様はまだ12歳。好きな女の子が死んじゃったからといって、自分も後を追うほどの激情を理解するにはまだまだ早かったようだ。




