259.騎士訓練生①
翌朝。
騎士の訓練場には、100人近い志願者が集まっていた。
勿論リリーも、"グリス"として茶色の短髪にピカピカの騎士服を着ている。
王国では、王城騎士は兵士と違って貴族しかなれないので、皆どこかの良家子息だ。
家紋の入った騎士服を着ている者もいた。
「わぁ〜!! 結構たくさんいる…!」
リリーはキョロキョロと周りを見回した。
騎士候補生だけあって、志願者の年齢層は若め。14〜16歳くらいの精悍な若者が多いようだった。
知り合いを見つけて私語をしている者もいるが、1人でじっと地面を凝視してる者もいる。
緊張しているのが自分だけじゃないと分かり、リリー(グリス)はヨシッ!と両頬を叩いて気合を入れた。
「訓練生、全員ここに集まれ!!」
ひときわ低い響く声で号令が掛けられた。
皆が急いでとりあえず整列する。
「私が、今日から指導責任者を務めるアルダーだ。
騎士隊長をしている。
王城の騎士は、王族の方々や他国からの賓客を護衛するために在る。
失敗は許されないし、厳しい鍛錬に耐え、誘惑に打ち勝ち自らを律する精神力、判断力、加えてある程度の気品が求められる。
それらを備えられた者のみが名乗ることができる称号だ。
それを忘れず、今回の訓練に向き合い、我らの同胞となって欲しい」
アルダー騎士隊長からの激励を受け、訓練生達も更に身が締まった。
「まずは、今回集まった訓練生のレベルが知りたい」
そう言って、訓練生達は、100m走の速さ、腕立て伏せと腹筋の回数、素振りの確認が行われた。
リリーはさすがに100m走は男性に敵わない。腕立て伏せも回数負けする。腹筋は何とか平均値。
ただ素振りの太刀筋は褒められた。
昼食後は、木製の長剣で行う模擬試合だった。
トーナメント方式で行われ、相手は予め決められている。
リリーの相手は、金髪巻き毛のド貴族だった。
「見たことない奴だな。まだ子供じゃないか。
あ、お前、さっき足がビックリするくらい遅かった奴だろ?
あんなんじゃ騎士には向いてないぜ。
危ないからお家に帰れよ」
手をひらひらさせて小馬鹿にする。
リリーから見れば、あまり年頃は変わらない感じなのに、えらく見下されてる感じがする。
もちろんリリーは帰らない。
「構え!」
審判の号令で我に返る。
「始め!」
相手のお坊ちゃんは、長剣を真上に大きく振り上げ、一刀両断にかかった。
なんて単純!!
そんな振りかぶる!?
脇も手首もガラ空きですけどーー
リリーはひと足を蹴りきり、相手の右横下、足を踏める位置まで一気に踏み込む。
相手はまだ万歳の姿勢だ。止まって見えるくらい遅い。
彼の剣が降り始めるより先に、下から木刀を振り上げ、柄頭を弾き上げた。
パシーーン!!!カラーン!!
「いったぁ…!! うっ… 貴様…っ 」
ビリビリと痺れる手を抑え、怒りに満ちた顔でリリーを見る。
リリーはそれには答えず、一旦飛び退いてから身体を捻って片手を地に着く。
そして思い切り足で坊っちゃんの足払いをかけた。
「はぁ!? うわっ!!」
ドシン!!
「〜〜〜〜〜〜〜」
坊っちゃんは不意打ちで宙に浮いて盛大な尻餅をつき、声にならない痛みで涙目になっている。
(これまで大柄の兵士ばかりが相手だったから試せなかった足払いを試せたのでリリーは満足し、)首筋に無言で剣を突き付けた。
「勝者! グリス!」
驚きの歓声と拍手に包まれて、リリーの第1試合は無事に白星で終わった。




