248.カルトン共和国その後②
夕陽を堪能し、少し散歩をした後は公爵邸に送ってもらった。
「じゃあ、リリー またね」
「ハイ。あの、わざわざ迎えに来て下さり、しかもこちらまで送って頂いてありがとうございました」
何故か目が合わせられないリリーが、やっとのことでお礼を言うと、
「いやいや、全然構わないよ。
リリーと一緒なら、揺れる馬車も長い道程も全く苦痛じゃないね。
これからも一緒に、色んな所に行って、色んなことをしていこう」
と大変上機嫌だ。
かたやリリーはどんな顔をして王子を見送ったか分からない疲労困憊ぶりで、ヘロヘロとエントランスに入った。
出迎えたジニアが、リリーの顔を見て驚く。
「お嬢様、お顔が赤くていらっしゃいますね!?
やはり、慣れない異国で体調を崩されたのかもしれません!」
顔色から体調が悪いと踏んだジニアが慌ててロータスの所に走り出しかける。
「全っ然大丈夫!!! 馬車に酔っただけ!!
お腹へったのかも!」
言ってる内容がおかしい上に必死の形相で引き止めるリリーを見て、ジニアは只事じゃない雰囲気を察知した。
何があったか分からないけど、追求しない方が吉っぽいと判断し、大人しく夕食の用意に向かうことにした。
さすがリリーの右腕。
「ふぅ… 危なかった… ロータス呼ばれる所だった…」
頬の紅潮が一向に引かないリリーは、両手で顔を覆った。
だって、キュステ・コスタ海岸から公爵邸まで、王子がずっと手を握ってニッコニコで横にいたのだ。
男子と手を握るなんて、集団体操の『扇』以来だと思いながら、リリーはそわそわが止まらなかった。
馬車ではヨダレを心配したが、あの時は手汗が気になった。
戸惑って顔を覗き見れば、エヘヘーと嬉しそうな笑顔で向き返され、手を離しませんかと言いにくい感じだった。
お陰で、公爵邸に着く頃には、照れが限界突破したリリーの顔が茹でダコのようになっていたというわけだ。
おでこも頬も赤いし熱い。
とりあえず、土埃を落としたいし顔色も誤魔化すために、リリーはお風呂に入ることにした。
風呂から上がって夕食を食べてから、王都の父様に手紙を書いた。
カルトン共和国の経過と最近の状況、武器の輸出について、あと、農地改革は概ね落ち着いたからとりあえずお別れをしてきたこと、ついでにさっき王子の求婚を受けたことも。
何か色々とキャパオーバーなリリーは、その日は早めにベッドに入り、泥のように眠った。
※ ※ ※
王子は王城に戻ってすぐ、父王に謁見を申し入れた。
リリーから求婚の承諾を得たことを報告するためだ。
結果を聞いた王は、
「そうか、良かった良かった!
そうなれば、この前のような横槍が入らないよう、早めに誓約式を挙げるがよかろう」
と喜んだ。
「そうですわね。少し気がかりはありますが…
諸外国とのやりとりも問題なくでき、貴族のみならず平民からの人気も未だ健在ですから、リリーさんで良しとしましょう。
他に適任な方は、いらっしゃいませんしね…」
王妃も(渋々)頷いた。
王妃はリリーが一度婚姻したことが、どうしても気になっていた。
実のところ、息子を差し置いて他の男性と婚姻するなど、死んでも拒んで欲しかったというのが本音なのだ。
しかも、女性はおしとやかであるものと考えている王妃にとって、床を跳ねて剣を振り回すリリーは、息子嫁としては両手を上げて迎えにくい存在だった。
ただそこは、可愛い長男の長年の想い人であり、王子がここ数年で大きく成長したのもまた、リリーの影響と理解しているからこそ、何とか飲み込んだ形だった。
「はい! 早速準備を進めさせて頂きます!」
王子は憂いの晴れた顔で、謁見の間を飛び出して行った。




