244.カルトン共和国を救う方法⑥
作業はゆっくりとだが確実に進んでいる。
リリーはここ最近、公爵家と共和国を行ったり来たりしながら暮らしていた。
北の街の冬肺病はあれから広がることなく収束し、今はまだ冬だが、少しずつ春に向かっていることを道端の草が教えてくれる。
先月婚姻破棄が無事に終わったことを父様に報告した時は、リリーを抱き上げて力いっぱい喜んでくれた。
時々共和国を助けに行くことを伝えたら、最初は渋っていたがエルム王子も了承していることを話し、何とか許して貰えた。
安心したらしく、父様は先日王都の別邸に帰って行った。
(ちなみに、リリーは共和国に行くが、ペトラーは公爵邸は出禁になった)
今日は初めての収穫予定日。
リリーは考えがあって、ジェイバーだけでなく、ベイジルとジニアも連れて公爵邸から出発した。
※ ※ ※
「ペトラーさん! とってきました!」
「どうだった!?」
朝、1番早く植えた畑から、試しにひとつ収穫してみた。手伝ってくれている少年の手に、引っこ抜いたものがつややかに輝いている。
「綺麗… でもこれ、本当に食べられるの?」
「本当綺麗だな。 ウーン… 食べ方をリリーに聞いてなかった。とりあえず、この区画の畑のは、抜いてしまおう」
そうしてリリーが共和国に着いた時には、収穫されたそれがたくさん並べられていた。
「あら!立派に出来ましたね〜!良かった〜〜〜!!」
リリーはひと目見て喜び、最初の作物がちゃんと実ったことに心から安堵した。
洗われて更に赤くキラキラ光り、本当に宝石のようだ。
「これは、"ラディッシュ"と言う野菜です。別名を"ハツカダイコン"と言って、作付けから20日前後で食べられるのが特徴なのですよ。生でも煮ても食べられますし、葉も根も食べられる万能なお野菜です」
寒さに強く収穫が早いから勝算は高い…と踏んでいたが、共和国各地に配布して作付けしたから、失敗は許されなかった。
肥料より水分が大事な野菜だから、とにかく子供達には水やりを頑張って貰った。水分が足りないと、辛味が強く出てしまい、生で食べにくくなるのだ。
こうしてちゃんと収穫できるかはやはり心配だったから、本当に良かった。
リリーはそのコロンとした肌を撫でた。
時期をずらしてたくさん植えたから、まだまだ採れるはずだ。
葉をソーセージと油炒め、おひたし、生のままチシャとサラダ、酢漬けのピクルス、煮込んでポトフ、焼いてつけ合わせ…
リリーはサツマイモパーティをした時のように、たくさんの料理をし、準備してきたレシピを添えた。
そのためのベイジルとジニアだったのだ。お陰でたくさんの料理がどれも同時なタイミングで完成し、ほかほかの状態で皆の口に入れられるというわけだ。
農地改革を始めて3ヶ月目。突然の収穫祭が始まった。
リリーとペトラーが作った畑は、実験的作付け農地だ。
各村ごとに同じような農地を作っている。
そこで色んな作物を作り、良さそうなものを、今後は各家庭の菜園でも作れるようにするつもりだ。
いきなり全土、各人で作って失敗したら大変だし、かといって1ヶ所の農園で試して成功しても、土地が違えば作物の付きや育ちも違うから、情報が少なすぎる。
だから、各村にひとつ共同の畑を作ることにしたのだ。
村人は協力して共同農園を耕したり土壌を調整、作物の世話をする代わりに、収穫したものは平等に分けることになっていた。
そうしながら育て方も理解していき、自宅でもできるようになるのだ。
リリー達はその共同農園を回り、作物の状況を確認し、上手く行っていない時は図鑑を見たりハルディン夫人に相談したりしながらアドバイスをしていた。
今日はこの共同農園巡回作付けシステム初の収穫日だったのだ。
それは喜びもひとしおと言うもの。
リリーは料理を喜んで食べる村民達を見ながら、次の農地に向かう準備をした。
今日から5日間は、各村の農園を回って収穫と調理をし、同じ祭を繰り返す予定だった。
さすがに共和国全土の村には巡れないが、主要地は抑えられる。日程は伝えているから、近隣の農園の責任者は見に来るよう伝えていた。レシピは大量に準備しているから、村に持ち帰ってもらえば良い。
また、ラディッシュは石灰さえ調整したら、3回までは連作ができる野菜だ。
今日抜いた畑も、明日からすぐ調整し、種を蒔くようお願いしている。
隣の区画のほうれん草は、そろそろ間引くことも指示した。ラディッシュと間引き菜があれば、しばらく色々アレンジして食べることができるだろう。
各地で行った収穫祭は、予想以上に喜ばれ、大盛況のうちに終わったのだった。
――わけもわからず見知らぬ国に連れてこられ、連日馬車馬のように働かされたベイジルとジニアは、逆にボロボロになって公爵邸に戻っていった。
明日は、エルム王子&アングール王女視点の話をup予定です(*^^*)
宜しくお願いします♡




