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237.カルトン共和国⑦

カッポカッポカッポカッポ…



あれから特に検問されることもなく国境を越えて、リリーは初めてカルトン共和国に入った。

詳しい説明は着いてからということで、とりあえず進むことになった。


国境まではほぼ全力疾走だったが、令嬢に馬の駆け足は危なすぎるとヴノ大佐が断固反対したため、国境を超えてからはポニーの速度で目的地に向かう。


(ペトラーは逃げられないよう縄で縛られて、荷物のように馬の背で揺られている)



そのためというか、要塞までの道中、景色をみる余裕が十分にあったわけだが、想像以上に酷な光景が広がっていた。


畑はあるが、ほとんど作物が植わっていない。枯れてしまったのかもしれない。


道行く人は痩せていて、もともとの色白さを差し引いても血の気がなかった。目に精気がなく、うつろな表情で歩いている。

リリーは温かいもふもふした服を着ているが、皆は薄い綿か麻の服を着ているようだった。



そういえば、家畜の姿が見えない。

毛から糸をつむぐための羊も、ホットミルクやクリームシチューを作るための乳牛、山羊も見当たらなかった。



リリーは食糧支援について先日、ペトラーに"目処が立った"と言ったし、そう思っていたが、焼け石に水であったことを、肌で感じることになった。






要塞に着くと、リリーとジェイバーは応接室のような場所に通された。


「お茶をお持ちしますので、しばらくお待ち下さい」


ヴノ大佐はそう言って、部屋から出ていった。

リリーはふっと息をついて、部屋の中を見渡す。

中は薪ストーブが焚かれ、床には毛皮の絨毯が敷かれており、とても温かい。



「… 外とここは、別世界のようね」


皮肉交じりにそう言って、コートとニット帽を脱いだ。

後から事務官っぽい人がお茶を持ってきてくれた。

念のためジェイバーが毒見をした後で頂く。飲んだことのないお茶だったが香ばしく、美味しかった。




しばらくして、ヴノ大佐が別の人を引き連れて戻ってきた。

お腹の大きい中年のおじさんと、全体的に大きい中年のおじさんと、細長い中年のおじさんだ。

朝早いからか何かあったのか、皆睡眠不足な目元をしている。



細長いおじさんが自己紹介を始める。


「わっ、私がこの国の補佐官をしています、ムリマと申します。この国でお困りのことがあったら、私めにお尋ね下さい」


揉み手でもしそうな雰囲気のこの人は、青い顔でプルプルしながら続けた。


「こ、こちらの御方が我が国の最高位、元帥であられます、ガバル様でございます」


紹介されたおじさんは、眠そうな目を少し開いてニシニシと笑った。


「ほほぅ、これはこれは、美しいお嬢さんだ。

さすが、第一王子の婚約者ですなぁ」


と褒めた(?)。

ネットリ絡みつくようなな視線が大変気持ち悪い。テラテラと光った顔が、リリーの嫌悪感を煽る。


そして、大柄の男性とヴノ大佐を順に指し、


「こちらが軍部の最高責任者、ベルヒ大将、

こちらが… 今回の問題行動を起こしたペトラー中佐の直属の上官である、ヴノ大佐でございます」


と紹介した。

ヴノ大佐は、ペトラー様の上司にあたる人だったのか。


なるほど、とにかく、この4人の関係性は分かった。

リリーは頷いて、


「私はディアマン・ブロン・リリーと申します。今回は、貴国で何らかの事故があったと聞き、何か助けになればと、馳せ参じました。


事前に連絡せずにこの地を踏んだことは、礼が足りず、大変申し訳ないと思っております」


と頭を下げた。

結局ペトラー様はどこかに連れて行かれたし、リリーも歓迎よりは捕まった寄りの雰囲気だから、何かがマズかったのだろうと判断したリリーは、心当たりから謝罪することにした。



「いっ、いえいえリリー様!

リリー様が謝られることなど何もありません。今回の事は、脅して婚姻を結ばせるなどと非道な手段で貴方を縛り付けた、ペトラー中佐が全面的に悪いのです。

頭など下げないで下さい」



ムリマ補佐官が焦った様子で顔を上げるよう促す。

すると、


「本当に…  アイツめには、鞭打ちの上石切り場で永年奴隷として働かせてやる! いややはり、市中轢き回しの上斬首の刑にしてやろうか…」



ガバル元帥がギリギリと歯を鳴らしながら物騒なことを言い出した。


リリーは全力でそれを否定する。


「い、いいえ、私はそこまでの罰を望んでいません。今日の道中だけでも、この国の難しい問題をよくよく感じました。

ペトラー様は方法を間違えたとは思いますが、民を思う気持ちは、強い罰などの対象になるものではありません。皆様に何かして差し上げたいという気持ちは、私も良く分かります。

婚約さえ、解消して頂ければそれで充分です」



しかし、ガバルは苦々しげに首を振った。


「もう、それだけで済む問題では無くなったんだ。

あの山の爆発は、事故などではない。


今や奴が引き起こしたことは、国を巻き込んだ戦にまで進みつつある。我が国は見ての通り、戦うような力は無い。全滅するかもしれんのだ。

本当に、余計なことをしてくれたものだ。殺しても殺しても殺し足りん!!」



リリーは唾を飛ばしながら鼻息荒く激高するガバルから無意識に距離をとる。しかし、聞き捨てならない言葉が聞こえた。



「戦って…  どこかと戦争になりそうなんですか?」



まさかうちの国!?

リリーは予想外のことで急激に胸が冷たくなるのを感じた。



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