230.カルトン共和国②
ペトラ中佐については引き続き事実関係の確認を指示した。
ヴノ大佐は、ペトラ中佐の下についているルマロン少尉であれば何かを知っている可能性が高いため、聞き取りを行うと言って急ぎ退室していった。
分からないのは、パレット王国だ。
カルトン共和国とパレット王国の間にクルール王国があるため、パレット王国とは国境も接していないし離れている。10年前に共和国がクルール王国に攻め込んだときのように、国土を広げようというという名目ではないはずだ。
共和国は厳しい気候と痩せた土地の小さな国だ。
我が国ながら、今更あの大きな国が積極的に欲しがるとは思えなかった。
もしや宝石… 鉱物が目当てか…?
パレット王国にも鉱山はあるが、内容が鉄や銅などの重金属や宝石ではなく、硝石や硫黄、珪石、鉛丹などの種類と聞く。
だから、我が国の金属資源を狙っているのだろうか…
考えても分からない。
ガバル元帥は頭を振って大将に命令した。
「とりあえず要求を聞いてこい」
パレット王国は女王制の国。
男に下に見られないよう、女児に対しても幼少期から武術を習わせるほどの武闘派国家だ。
基本、要求は話し合いよりも力で奪い取る主義で、女王もかなり荒っぽい性格で知られている。
国土が大陸一広いのも、過去は3つあった国を1つに統合したからであった。舐めてかかるわけにはいかない。
それにしてもどうなっているんだ…
面倒ごとがこうも立て続くなど。
まだ冬は長く、国力の回復には程遠い。
ギリッ…
「とりあえず、大佐、大将の報告を待ちましょう…」
爪が掌に食い込むほど握りしめ、黙り込んだ元帥に、補佐官が温かいお茶を差し出した。
※ ※ ※
パレット王国の艦船は、砲撃を行った場所から少し離れた港に停船していた。
カルトン共和国は国土の半分が海に面した国でありながら、崖になっている部分が多く、船がつけられる港は2箇所しかない。
港では、見たことのない大きな船を一目見ようと、見物人が押し寄せていた。
船からは誰も降りてこないし、物音もしなかった。
そこに、黒い軍服の一団が馬を駆って現れた。
騒ぐ見物人達に早くこの場を去るよう指示し、追い立てる。
そして誰もいなくなったことを確認すると馬から降り、船に向かって声を張り上げた。
「パレット王国の方に申し上げる!
私は、カルトン共和国が大将、ベルヒ・ヤウエンと申す!
先程、此度の戦についての布告を受け取った!
貴国の要求について、お聞かせ願いたい!」
ベルヒ大将の声が海に響く。
戦うか、戦わざるべきかは、王国の開戦目的次第だ。
まずはこの戦争の意味を知らなければならない。
ややあって、船から2人の男が降りてきた。
2人共、見たことのない服を着ているが、顔が全く同じだ。どうやら双子のようだった。
「はじめまして、ベルヒ大将殿。私はアントスと申します。これから、我が国の最高司令官の所までご案内します。お話の場を設けておりますので、武器を置き、お1人でついてこられて下さい。害なすつもりはありませんから、ご安心下さいませ」
「はじめまして、ベルヒ大将殿。私はクッカと申します。貴方様が船におられる間、私はこの場に残り、そちらの捕虜となります。貴方が無事に戻ってこられたら、私も自船に帰ります。御身が万一ご無事でない場合、私の首を刎ねて頂いて構いません。そのようなことには、なりませんが」
初めて聞く提案だった。
素性の分からぬ外国船に丸腰で乗るのは正直嫌ではあったが、こうまでされては断ることはできない。
静かに頷き、武器を置いてアントスの後に続いた。




