202.冬の異変①
帰りの馬車も、揺れが少なく快適だった。
王子は、今日学んだ色んなことをどうしても言いたいらしく、ひたすら話しっぱなしだ。
リリーは昨夜と今朝早くからのお菓子作りで大変疲れていた。
王子のマシンガントークを浴びるも、鉛のような瞼をコジ開けて、頷ずくのが精一杯だった。
※ ※ ※
「芋は、好評みたいだよ」
あれからしばらくして、各地でさつまいもフィーバーが起こった。
最初は配給されたものの使い方が分からず不人気だったが、リリーのレシピを基盤にアレンジレシピがたくさん登場し、各家庭に広がっていったようだ。
最悪、焼いたり蒸すだけで食べられるお手軽さもウケて、今は逆に人気沸騰中なのだ。
パレット王国も、豊作すぎて、自国に全部流通させたら価格が暴落する所だったさつまいもが、適正価格でクルール王国に卸せたことで難を逃れたと喜ばれた。
また、さつまいもは、割れていたり尻尾の近くの部分やあまりに小さい芋は、家畜の飼料になる。
穀類が軒並み不作で、家畜用飼料も少なかったから、これも良かった。
剥いた皮や芋の可食部分以外の所を家畜に与えると、身が柔らかく甘みが出るらしい。
牛や羊の乳の出も良くなり、一石三鳥だ。
王子とのお茶会で、それらを確認し、やっと安心できた。
「本当に良かった。
それにしても、リリーは何でも知ってるよね。あんな芋のお菓子、産地のパレット王国でも作られてないってよ?
どこで知ったの?」
「うっ…
えぇっと… どこだったかしら… あぁ!
私がずっと伏せっている時は、本だけがお友達でしたの。
その時読んだ、どこかの国のレシピだったと思いますわ!」
「へぇ〜! 身体がしんどい時なのに読書をしていたんだから、リリーは本当に努力家だよねぇ」
王子は心底感心した様子でニコニコ笑っている。
リリーは痛む胸をごまかしながら、話題を変えた。
「それにしても、なぜ今年は不作だったのでしょう。
特に、雨季が偏ることもなかったと思いますが…
隣のラピス公国は、うちほどではないけど、やっぱり今年は収穫量が減ったそうです」
「うーん… それなんだよねぇ…
一応、農産大臣が色々調べてはくれていているんだけど、どうやら気温が関係していそうだって。
なんでも、この国ではだいたい10年周期くらいで作物の不足の年が来ているらしく、それはいつも冬なんだ」
「確かに、今年の秋は短くて、一気に寒くなった気がするわ。冬が早いというか…
約10年周期なら、前回の不作の年は、私達はもう生まれていたわね。その時はどうやってしのいだのかしら」
「僕らも小さかったから、さすがに覚えてないけど、授業で習った時の話では、残念ながら冬を越せなかった人が多かったって…
あと、その年は、作物の不作以外に何かがあったような…」
王子が何かを思い出そうとした時、ダイニングルームの扉が激しく叩かれた。
「エルム王子!!」
「リリーお嬢様!!」
オリバー様とロータスの、初めて聞く切羽詰まった声だった。
勢いよく扉が開かれ、二人が駆け込んできた。
「「カ… カルトン共和国が突然、当国に攻めてきました!!
これより、戦争になります!!」」
リリーは頭が真っ白になった。




